第三部 大道発掘隊VS埋葬組
第30話 三回戦・東京の犯罪の化石を暴け
化石発掘バトルは視聴者の熱に押し切られ再開する形となった。インターネット上では、大炎上しても現実は逆。それが現実なのだ。
根蔵は快く化石発掘バトルの三回戦の参加を受け入れた。三回戦は、東京の都心で化石を見付けるというものである。大都会のネオンに照らされた地面の下に眠る化石を掘り起こすのだ。
根蔵は、大道発掘隊の全員に連絡を取り集合をかける。
その頃、地下へ惨めにも逃げた古田と埋葬組の連中。そこへ、発掘隊の家を焼き払った連中も集められた。
地下は壁も床も天井もコンクリートの巨大な部屋である。古田は家を焼き払った連中へ尋ねた。
「お前たちは、どうして奴らの家を焼いた?」
「そりゃあ古田さん、奴らは犯罪者の一族ですよ。人権なんてないですからやられて当然ですよ」
口をいつも半開きにした男たちは、愚かにも放火したことで足が付いた。男たちは愚かにも揉み手をしながら褒美を待っている。もちろん、埋葬組が自分たちを庇ってくれると信じて。
「なるほど、犯罪者には人権はないね」
「はい!」
「じゃあお前たちにもないな」
「はい!」
古田は男たちに銃を向け、平然と皆殺しにした。彼は、遺体にツバを吐きかける。
「さて、いつ頃高飛びできそうだ?」
古田が皆に問うと、リーダーが答えた。
「警察が嗅ぎ回っている上に証拠資料を会社に残してきたままだ。一週間後になる」
「え? そんなに早く?」
リーダーは頷いた。
「じゃあな蔵志、俺は今まで稼いだ金で遊んで暮らすぜ」
古田の高笑いがコンクリートの壁面に反響して下品に響く。
DDTテレビが化石発掘バトルを再開する。その知らせを受けると発掘隊が集まってきた。服部の所有する東京の豪邸で会議をする大道発掘隊。演説を始める根蔵。
「さて、みなさんに集まっていただいたのは他でもない。この三回戦を利用して古田と埋葬組を炙り出してやろうと思うからだ」
大道発掘隊はテレビ局からもらった資料に目を通す。三回戦は、東京が舞台。
「今回服部の協力で埋葬組の表向きの会社を特定した。そこには、埋葬組の汚い犯罪の証拠が未だ残されたまま。それを奴らが取りに来る前に回収しようと思う。そのやり方は」
演説中に獣川へ現状報告をするよう目配せする。
「はい、代わったおいらが話をするよ。『福原怪異日記』に動物との対話法があったからおいらはそれを習得したんだ。簡単だったよ。それで、もう一万匹の動物と話をつけてある」
話をそこで終わらせると根蔵が再び説明をする。
「埋葬組の会社へ動物を突撃させる。そこにある全ての資料を強奪させ、警察に持って行かせる」
作戦はこうだ。
表向きの会社へ動物をなだれ込ませ騒動を起こす。そこへ、騒ぎを聞きつけた服部の仲間が警察に連絡。動物の力で金庫を破り、資料を鷹に運ばせ警察の前にバラ撒く。動物たちは、埋葬組脱出用秘密経路へ入って森へ姿をくらませるというものだ。
古家院が話を代わった。
「そして、翌日は化石発掘バトル都心編だ。朝のみ普通にバトルし、正午に地下へ奇襲をかける」
「でも、入り口はどこにあると言うのですか?」
「平坊主、いい質問だ。場所は分かっているんだ。後は、俺らの常套手段」
「直接地下へ穴を掘って……ですね」
「それから、俺の調合した薬を渡そう。この粉を飲めば、てめえらの第六感力はかつて感じたことのないほど強くなる。俺の力、ドーピングだ」
古家院は白い粉を皆に配った。
「それを飲めば……ん? コカイン? なわけねえだろ! コカインは俺の名前だ! その中身は普通の野草だ。俺が潜在能力解放させたやつだ」
最後に根蔵が再び話をする。
「地下への穴の掘りはチンパチたち筋肉隊に頼もう」
「おいどんが役立てるでごわすな」
「ああ、コンクリートなんてぶっ壊せ。さて、これから埋葬され化石化した人間の悪意を掘り起こしに行く。惨めに地下へ逃げた生ける屍の化石共も掘り起こし太陽に晒しに行こう」
会議が終わると乾杯した。
夕方、自然に囲まれた埋葬組の隠れ蓑の会社は数万匹の獣に襲撃された。いつも人間が自然を壊すなどと感傷的なことをいう獣はいなかった。獣共の主張はこうだ。
「食い物! 住む所! 後、遊び相手!」
隠れ蓑を好きに荒らしていいと聞いて大喜びの獣たち。その知らせはあらゆるコミュニティーを伝って伝わった。
熊が人間をほどほどに殴り、猫が人間をほどほどに引掻き、狼が人間たちの脚へほどほどに噛み付く。何事もほどほどしかしないところが獣の心だ。
騒ぎを聞き駆け付ける警察。パトカーの音に反応すると動物たちは任務を遂行する。
熊が金庫を壁に叩きつけ破壊。中から取り出した資料を猿が袋に詰めて鷹に渡す。鷹がそれをパトカーの上に落とす。そして、潮が引くように撤退した。
動物襲撃計画を、小高い丘から眺める獣川。
「みたか、動物たちは人が思うほど純粋じゃあないんだ!」
動物たちは保健所に拐われる前に煙の如く消え去った。
翌朝、DDTテレビの殺虫剤の塔前へ集合した発掘隊。根蔵はカメラマンの小次郎へすでに作戦を伝えていた。
発掘バトルは始まった。午前中はテレビの前で化石を掘る。できる限り子どもらしく楽しそうに。
太陽が真上に来た。時計を確認すると、正午十分前、作戦決行の時が来た。皆、リーダーたちは古家院の薬を飲んだ。
誰にも悟られぬように、それぞれがある場所を目指す全発掘隊。自然にその場所へ集まったように装う。多摩の外れの土地である。
発掘隊のリーダーたちは、互いに出くわすと焦り穴を掘るふりをする。
それぞれが掘っていた場所は次第に繋がり、ついには一つの大穴となった。小次郎が、カメラを止めて休憩を始めると、古家院は、発掘玉を落としすぐに回収した。その細長い穴へ火薬をサラサラと流し込み火を付けたマッチを落とした。爆発で土は吹き飛んだ。
それから、驚異的な速さで掘り起こす発掘隊。数分後、コンクリートの壁にぶち当たった。
「はいカメラ!」
根蔵が合図をすると、小次郎がカメラを向け撮影を開始した。
筋肉隊の馬鹿力でコンクリートにツルハシを振り下ろす。みるみるコンクリートは削れていき、ついには穴が空き内側に崩れていった。
「さて……。鬼が出るか蛇が出るか」
根蔵を先頭に発掘隊がコンクリートの中へ入る。そこは、細長い階段になっており壁には薄暗い伝統が所々に取り付けられていた。下には扉が見えた。
扉を開ける前に根蔵がカッパを被り平坊主へ合図をする。そして、チンパチの馬鹿力で扉を蹴り破り中へ突入。中には、埋葬組の連中が顔面蒼白でこちらを見ていた。しかし、警察がいないと分かると急に強気になった。
「埋葬組、覚悟しろ」
根蔵が先頭に出ると、薄ら笑いを浮かべ古田が寄ってきた。
「おやおや、君は蔵志君」
懐に手を入れると銃を取り出し、有無も言わさず根蔵を撃った。その弾丸は心臓辺りに直撃し、根蔵はその場に倒れ込む。
「ははは、油断したなくそ餓鬼。世の中は甘くないんだ」
根蔵の元へ行きたくとも銃を構える古田がいて扉から出られない発掘隊。笑う古田は根蔵の死に顔を拝もうとして覗き込んだ。その時、扉の向こうから笛の音が聞こえてきた。
「なんだ? 馬鹿が笛を……あれ? なに?」
笛の音を聞くと、埋葬組の連中は皆眠ってしまった。
「作戦成功ね根蔵君」
「俺の作戦に不可能はない」
飛び起きた根蔵。彼は、平坊主の発掘法の法力で助かった。法力は物を壊れないように保護する力、その力でカッパを壊れない物に変えていたのだ。
扉の向こうから出てきた沈芽は根蔵に飛び付いた。片手には横笛が握られていた。
「『福原怪異日記』の眠る管弦の威力は絶大だな」
根蔵は耳栓を外し立ち上がる。哀れみを込めた目で古田の眠る顔を見下ろした。
『次回「さあ発掘だ」』
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