第29話 福原怪異日記

『福原怪異日記』には、福原の都で起きた怪奇現象や、現れた物の怪について詳しく記されていた。ある部分には『今日は手のひらを上にして差し出すと、しゃれこうべが嬉しそうにトントンと手のひらへ乗ってきた』とあった。


 後半には、『幽霊の表情とその姿』という章があった。そこに書かれていた内容で1番目を引いた部分を根蔵が声に出して読む。

「『幽霊が泣く時は地面に黒い液体が埋まっている』……古家院、これってまさか」

「石油かもしれないな」

 まだ断定はできないが、まさか、石油を掘り起こす技術まで書かれているとは思いも寄らなかった。


 次の章には、人外の者との対話法が書いてあった。その部分を声に出して読んでくれと獣川が根蔵に頼む。

「えーとなになに、『あまりにも物の怪が出るため試しに話しかけてみた。幾度も試す内、ついに対話に成功した。話してみると意外と悪い奴らで、よく帝のお食事を盗み食いする。さらに、昼間も無数に出てきては屋敷に入り浸り、さも当然と話しかけてくる。物の怪のあまりの図々しさと多さにうんざり。平家の者を除けばどこを見ても物の怪という情況に叔父上は「平家にあらずんば人にあらず」と嘆いていた』ってここは飛ばすか」


 肝心なことが書かれている所を見付けると、再び音読。

「ここからだ。『人外の者と対話をできるようになると、動物とも話せるようになった。大事なことは大自然を知ること』だと」

 ここからは、根蔵も読んでいてさっぱり理解できなかった。獣川は1人納得した。


 最後に、『管弦で人を眠らす法』の章を読んだ。

「『物の怪すらも眠らせた。この調べをここに書き残す』これ音符だ!」

「見せて!」

 沈芽が根蔵の頭越しに日記を覗き込んだ。少女は笑みを浮かべると、1人隅っこで笛の指の押さえ方を確認する。


『福原怪異日記』を読み終わった。その書は第百版と最後に認められてあった。


 読み終えると、発掘隊は就寝することにした。隅っこで手付きだけ笛の練習をして部屋を出ない沈芽を家政婦に迎えに来てもらう。


 夕方、発掘隊は起きた。根蔵の部屋へ服部が訪ねてきた。

「根蔵、埋葬組がお主らの母を埋めている土地が分かり申した」

「なに! それはどこだ」

「新潟県のとある村にて、写真もごらんあれ」

 服部が背中に背負う風呂敷から取り出した写真を眺める根蔵。彼は、畑を凝視した。

「……この辺にいる幽霊、泣いている」

「それは誠か!」

「ああ、この畑を囲むように……。斑鳩! ちょっとこっち来てくれ」

 斑鳩は眉を剃りお白子を塗りたくるとデコに眉を描いた。お歯黒を塗り、紅をさす斑鳩は見様見真似の公達風な優雅さで静々とにじり寄ってくる。


「なんでおじゃ?」

「この写真、透視できるか?」

「そんなペラペラの写真ならお前でも向こう側が見えるやろ……じゃる」

「そうじゃない! この畑に石油が視えるか聞いているんだ」

「なに! 石油か!」

 斑鳩は、試しにその畑を透視してみたが……。

「無理や」

「そうか……ならば現地へ行って直に視よう」

 根蔵は旅館の電話を借りて木枯館長へ連絡をした。事情を説明すると、木枯は皆を連れて新潟へ行くように指示を出した。


 根蔵は大道発掘隊に全員集合をかけた。例の写真を出して石油について話すと、皆異常なほど食い付いた。

「根蔵はん! これはおもろいで!」

「でも、どうやって掘るんだ? 最短でも百メートルは掘る必要があるぜ」

 皆、古家院の言葉に黙った。だが、彼は方法があると言った。

「潜水艦の中に穴掘り機があってよ、そいつを試してみようぜ」

「なら古家院! ここへ潜水艦を持ってきてくれ!」

 根蔵は写真の位置を古家院に教えると、古家院はその夜の内に隊員の太間と潜水艦で新潟を目指す。


 翌朝、大道発掘隊全メンバーと家政婦と兎麿は1度東京に戻る。そこで木枯館長と合流すると新潟へ新幹線で移動した。


 新潟へ着くと、服部の仲間が数台のハイエースを用意して待っていた。根蔵の座席の隣に沈芽が必ず陣取る。


 目的地は、山奥の村であった。山あり、谷あり、畑ありの集落。村の役場にある看板には『贅沢は素敵』などと記されていた。


「しかし、石油を掘るとなると費用も人件費も国の許可も必要だ」

「木枯館長、それなら心配ござらん。拙者の仲間がとうの昔にとっておる。この畑も拙者の仲間のものである」

 服部の仲間は多岐に渡り、政治家、学者、法律家、芸能人、果ては忍者などである。


「目的は、遺骨を見付け警察に届けることなのに……。根蔵君はなんで石油を掘ろうなどと言い出したのか」

 疑問に思う木枯館長の横顔を見てふふと笑う服部。

「……楽しいからでござろう」


 目的地に着いた。畑にはすでにしめ縄がしてあり、古家院が立っていた。

「遅かったな、ここまで3時間しかかからなかったぜ」

「その手にあるのは」

 古家院の右手には銀色の球体が握られていた。

「これが、穴掘り機らしい。試しにそこで使ってみたら1秒で百メートル掘れたぜ」

「どういう仕組みなんだ? これ」

 根蔵の前でその球体を地面に落とす。すると、水を吸い込むように土にみるみる吸い込まれて、綺麗に円形の穴を掘りながらぐんぐん沈んでいく。


「これが、発掘玉だ。戻ってこいと一言言えば……ほら戻ってくる」

 驚き言葉にならない発掘隊員。木枯館長も開いた口が塞がらない。


「さて……、そろそろ掘りたいから」

 根蔵と斑鳩が頷き、霊視と透視をした。二人とも、全く同じ場所を指さした。

 古家院がその場所に発掘玉を落とす。地面に吸い込まれていく球体。数秒後、大地が揺れ始めた。古家院は戻れと命じると発掘玉は即座に手元へ戻ってきた。その表面は真っ黒に濡れていた。


「来るぞ!」

 地面から温泉の如く黒い液体が吹き出してくる。その黒い液体を検査すると、まさに石油であった。


「こんなに簡単に……」

 唖然とする木枯館長。


 服部はさっそく仲間に連絡し、石油管理を託した。


 翌朝、石油の件で様々な業者が出入りする中、穴を広げる作業が進む。その途中、大量の人骨が現れた。そのニュースはたちまち全国に伝わり、化石と人骨が新聞の見出しに登った。


 発掘作業は服部の仲間が行ったことにして、根蔵と沈芽は連絡が入って母の遺体と再会したことになった。実際に遺体と対面すると、胸に迫るものがあり2人はさめざめと泣いた。


 人骨からはある人物の血痕が見付かった。それは、古田の物である。彼の常套手段は、遺跡発掘のでっち上げと共に証拠を人前で堂々と隠滅することであった。


 服部の仲間の証言で、警察は古田を捜査。写真もあり、アリバイもないため逮捕されると誰もが思っていた。だが、警察が古田の自宅へ行くと、もぬけの殻。犯罪の証拠は全て持ち去られていた。

「むむ! こりゃあけしからん!」

 出雲で功を上げたけしからんが口癖の警察は、東京の警視庁に所属しており、今回の事件を追っていた。


 被害者遺族として根蔵と沈芽は警察に話を聞かれた。発掘隊はしばらく服部の仲間の家に世話になることにする。


 一段落し、木枯館長の家に帰った根蔵は地団駄踏む。

「クソッ! あの野郎を取り逃してしまった」

 彼の肩をポンと叩く沈芽。

「根蔵君、奴の居場所ならすぐに分かるから」

 沈芽は包丁を前にかざすと、居場所を特定した。

「そこ……、地下ね」

 彼女は包丁で地面を指した。

「沈芽、奴らは地下に潜んでいるんだな……。でも地下?」

 2人はどうやって古田と埋葬組を追い詰めるか悩んだ。後少ししたら、古田は高飛びするだろう。その前に仕留めなければならない。


 その夜、3人は夕食のカレーを食べていた。その時、電話が鳴った。木枯館長が電話に出て話をすると、予想外の内容であった。


「根蔵君、沈芽ちゃん。DDTテレビの厚盛厚子さんから電話だ。化石発掘バトルの番組を再開したいと言ってきている」

 その言葉を聞いて根蔵は何かを思い付きニヤリと笑った。


『次回第三部「三回戦・東京の犯罪の化石を暴け」』

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