第27話 結成・大道発掘隊
服部に案内され都内の廃ビルへ入った。そこには、獣道発掘隊と金色堂発掘隊が揃っていた。
「お前ら帰ったんじゃ」
「根蔵はん、そんなわけにはいかへんのやと」
環状線兄妹と家政婦も後ろから現れた。
木箱の椅子に座らされる発掘隊。服部は皆に語りだした。
「埋葬組が煽った暴徒共がお主らを狙っておる」
「はあ?」
「その暴徒がお主らの家を焼いたのだ」
北海道の石狩川家も、東北の寺も焼き討ちにされた。
「今、拙者の仲間が西方の発掘隊へ知らせに行っておる。今の世の日比谷焼き討ち事件に発展しておるのだ」
「それで、どうするんだ?」
根蔵が服部に尋ねると、忍び特有の冷酷な目になる。
「奴に先んじて埋葬組を始末せん」
「その話、乗ったわ」
暗がりから広島弁でドスの利いた少女の声が響く。例の黒い鞄の持ち手を口に咥えて、両手に包丁を持ち、真黒い目を妖しくギラつかせる。
「沈芽、お主いつからそこに?」
「ついさっきから」
虎のような目をした沈芽はドカッと木箱に座る。殺伐とした空気を纏い木箱に包丁を突き立てた。
「お前家に帰ったんじゃ」
「焼跡!」
虎の咆哮の如き怒声を響かせる。
「それでは、始めるでごさる」
服部は皆の見える所に立つ。
「まずは、1度瀬戸内海のまだ訪れていない島へ行こうと思う」
誰もが首を傾げる。
「理由は3つ。1つめは、奴らに奇襲を仕掛けるために油断をさせること。2つめは、やり残したことを最後まで成し遂げに戻ったなどと周りに吹聴し、堂々と集まること。3つめは、根蔵、あそこには何か相当な物が埋まってござろう」
「……なんでそれを」
「それ言ったんはワイや」
牛麿が嬉しそうに言うと、服部は駄菓子を与えた。
「それだけではござらん。斑鳩もそれを見たと申しておった……。根蔵、それは宇宙船でござろう?」
「そうだ」
発掘隊は騒然とした。それを服部が静める。
「奇襲をかけるのに疑われず、さらに不思議な物を探せる。これ以上のものはなかろう」
「……俺は」
下を向き決断しかねる根蔵。瀬戸内海で化石の探索中に母が殺された。瀬戸内海や化石と聞くとその苦しみが込み上げてくる。その彼に、沈芽があることを提案した。
「根蔵君、此岸であたしとした約束覚えている?」
「約束」
「そう、なんでもあたしの言うことを聞く約束」
「あ……そういえば」
「思い出してくれたなら話は早い。あたしたち発掘隊のリーダーになって!」
予想外の頼みに戸惑う根蔵。
「リーダー……それなら他に」
「約束を破る気」
虎のような目で根蔵をにらみつける。しかし、何故か彼はその目に勇気付けられる。
「やろう! 舐められたままで終われるか!」
根蔵の決意に皆立ち上がる。服部は牛麿に何か合図をした。すると、ケータイでどこかへかけた。
「あ、牛麿ですわ! 今変わります……。ほい根蔵君」
「俺?」
電話を代わる。
「はい、根元ですが」
「俺だ、古家院だ」
「古家院! 無事だったか!」
「無事家を焼き払われたぜ。今俺は、チンパチと斑鳩と兵庫に来ている。まあ、話は忍発掘隊の猿飛から聞いたぜ」
「皆無事なんだな!」
「家は無事じゃあないがな」
2人は笑った。
「発掘隊全チームのリーダーに俺がなることになったのだが」
「それは良いことだ。……それで発掘隊の名前は何にするんだ?」
「古家院が考えてくれないか?」
「俺が? 分かった。さて、集合の打ち合わせといこうか」
2人は、全員の待ち合わせの時間と場所を決めた。それは、明後日の朝、鞆の浦だ。古家院は、その間残された島の宇宙人の化石を掘り起こすことにした。
「さて、話は決まった。明日の朝、新幹線に乗って広島へ行くぞ」
「それでは、今日はここに泊まるといたそう」
「いや、服部。木枯館長の家へ行こう。あそこならまだ奴らに知られていないし」
「しかし、その木枯館長に迷惑をかけることになりはしないか?」
「そんな器の小さい人じゃないぜ!」
その夜、闇に紛れて皆木枯宅へ。木枯館長は突然の訪問に驚き、かつ深く同情した。
「私の家でよければいつまでもいたまえ」
「明日には出なければいけないんだよ」
「おお、そうだったな根蔵君」
木枯館長の家で疲れを癒やす発掘隊。そして、朝を迎えた。朝食に食パンでも食べながら、木枯館長と今後の打ち合わせをする。
「ふむ、宇宙人とな……」
「驚きだろ」
「ならば……宇宙船も瀬戸内海のどこかにあるのやもしれんな」
「たぶん」
出発をするのにタクシーを呼ぶ。木枯館長に見送られ、数台のタクシーに乗り込む発掘隊。
「それじゃあ行ってくる」
「それじゃあね」
「ああ、根蔵君、沈芽ちゃん、いってらっしゃい。終わったら必ずここへ帰るんだよ」
タクシーは出発した。
新幹線に乗り福山駅で降りる。しばらくの間、鞆の浦の以前泊まった旅館に泊まることにした。木枯館長が出してくれたとはいえ、今回は旅費節約のため三部屋だけ取る。
その夜、古家院たちが旅館へやってきた。残りの島を探索した結果を報告。
「残りの島にもやっぱり宇宙人の化石があったぜ。でも、大発見はそこじゃあない」
「じゃあ何を」
根蔵が聞くと、斑鳩が答えた。
「仙酔島は潜水艦やったんや。宇宙人の遺産とでも言おうか」
皆一瞬斑鳩が何を言ったのか分からない。特に広島出身の沈芽は仙酔島が潜水艦と言われても意味が分からなかった。
「仙酔島と潜水艦をかけて笑いをとっているんですね? 分かりますよ」
無理して笑う平坊主。しかし、きっぱりと古家院はそれを否定した。
「じゃあ今から見に行こうか。論より証拠だ」
発掘隊一同は、仙酔島を見に行く。岸には斑鳩の所有する小型船があり、その船で数度に分けて仙酔島へ渡った。
仙酔島へ上陸すると、古家院は島の端っこへ皆を引き連れる。それから、その海へ突き出た辺りを掘るように指示する。
思い思いの方法で少し掘ると、ガチンと金属音が聞こえた。根蔵は思わず声を上げる。
「これは……宇宙潜水艦か!」
「そや。そろそろ掃けでサッサッとやろか」
率先して斑鳩が掃けで地面を掃く。しばらくすると、銀色の金属が大地から姿を覗かせた。
「クククク、宇宙船、潜水艦!」
興奮気味の古家院。
全貌が明らかとなった。完全な球体で、直径5メートルほどはあった。金属の切れ目を叩くと、外へパカッと開いた。中は外が透けて見えて、上下二層の足場があり円形に椅子が並べられていた。
「この中には全員の入れるぞ。入れ」
古家院は同隊の太間と共に喜々として乗り込む。発掘隊一同は戸惑いながらも、好奇心には勝てない。続々と乗り込んだ。
上下二階は透けており、互いに見渡せた。今回に限って、沈芽は根蔵の隣に座れなかった。平坊主の妹の一姫と、獣川の妹の鮭子が懐いて離れたがらないからだ。
古家院は、壁をいじりだした。すると、壁にキーボードが浮かび上がる。
「クククク、さてと」
「分かるのかお前」
「お前らが来る前に1度試運転したからな」
古家院の狐のような目は笑っているように見えた。
「発進だ」
キーボードのボタンを押すと、海の底へと沈みだした。
「おい! 古家院! どこへ行く気だ!」
「心配するな根蔵。この潜水艦に登録されている場所だ」
水中に潜ると三百六十度海が見えるため、興奮する隊員たち。
静かにどこかへ向かう潜水艦。途中、古家院が皆へ演説を始める。
「さて、お前ら聞け! 我ら新発掘隊は根蔵をリーダーとした集まりだが、その名前を発表する」
発掘隊一同は頷いた。
「その名は大道発掘隊だ。斑鳩は大同生命から大同発掘隊にしたかったらしいが」
「広岡浅子のファンなんや」
「ちょっと口を挟むな。で、俺らはハッキリ言って犯罪者予備軍だ。今はどうあれ、昔は確実にそうだった。でもこの発掘隊を通じて俺らは生まれ変わったんだ。道を外すどころか1番大きな道を行く発掘隊……それが大道発掘隊だ!」
『次回「宇宙船竜宮」』
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