第26話 発掘隊壊滅

 それから、六の島まで掘る。その全てから宇宙人の化石が飛び出した。一応、レースは斑鳩が先頭になった。


 宇宙人を掘り起こす発掘隊たち。テレビでも動画でも大騒ぎになる。その反響は思いの外大きかった。

「どうなっているんだ?」

「ホンマにこないなるとはな」

「ほんとよね」

 根蔵、牛麿、沈芽の3人が一緒にいるのもいつもの光景だ。


 備後灘の海で夜を迎えた一行は、鞆の浦の旅館に泊まっている。騒がしい連中である。

 日付の変わる頃、部屋に入り浸る沈芽をやっと追い出した。布団に横になり天井を見詰める根蔵。部屋は、牛麿、獣川が同室。夜警とか言って獣川が外へぶらりと出て行こうと戸を開けるとテレビ局の責任者、厚盛厚子がいた。

「もう、驚いたじゃないか! おいらは今から夜警に」

「大広間まで至急来ていただきたいのです」

 それだけ伝えると厚盛厚子は次の部屋へ向った。

「こんな時間に来いってね」

「ホンマに迷惑オバハンや」

 眠い目をこすりながらも大広間へ行く。そこで思いも寄らないことを言われた。


「化石発掘バトルは打ち切りになりました」

 突然の番組打ち切りに驚き、かつ不審を抱く発掘隊。

「一応聞くけど視聴率も動画も水準は満たしていたんだろ」

「古家院君、それがテレビ局の上の方からの命令で」

「ははあ、あれのことか」

 古家院はノートパソコンを出した。その画面に皆の視線が集まる。


 化石発掘バトル、ヤラセ疑惑とパソコンには出ていた。

「こいつら古生物学の権威どもが圧力をかけてきたんだろ」

「……当たらずとも遠からず」


 鼻で笑った古家院はさらに別のサイトを見せた。そこには、発掘隊の一族の過去が載っていた。


 根元家、環状線家、沼田家、古家院家の過去を暴いてあったが、尾ひれはひれがついてほとんど根も葉もなくなっていた。


「おいどんの家のことでごわす」

 鎮西家は、大陸からの不法移民である。だが、書き込みは某国のスパイだとか高跳びした犯罪者の子孫だとか、一貫性がない。ただ口を極めて罵っているだけだ。

「まあ、そんとおりでごわす。大陸と言っても、家の皆どこの国から来たか判っておりもはん。おかげで、体格には恵まれておりもんど」


「これは、おいらのことだ!」

 石狩川家は、北海道先住民の子孫である。それを侮辱するような内容だ。

「おいらたちは世間に顔向けできないような生き方をしてないやい! 大自然と共に生きているだけだい」


「これは……我が寺!」

 平泉家の寺の画像が映されていた。寺はスプレー缶で落書きをされており、新興宗教は消えろと書かれていた。

「我が寺の創建間もないのをいいことに……。私たちがなにをしたというのか! 皆の苦しみに寄り添っていたというのに」


「斑鳩家は有名だから別に痛くも痒くもないが」

 斑鳩家は地元では有名なヤクザの家である。だが、家業はとっくに畳んでおり、地元のボランティア活動に精を出す組織に生まれ変わっていた。

「オトンはイエスマンやからな。悪いこと以外には何でも首を縦に振るしな」


 服部家だけは、全くの謎。全て書いてあることが違い、矛盾だらけ。なのに、誓って本当と書いてある。

「はははは、拙者の家のことが分かるくらいなら、その前にこの国の全ての秘密が明らかになる」


 誰もがパソコンの書き込みに憤慨する中、服部はせせら笑い、牛麿は喜び、古家院は鼻で笑う。

「わあ! インターネットは知ったかぶりの集まりやー!」

 冷めた声で古家院が付け足す。

「ネットの正義中毒者は大きく分けて三ついる。自動で書き込むロボット。煽られて騒ぎ炎上の元になるモルモット。そして、炎上させるアルバイト。ロボット、モルモット、アルバイト。最後に全てトがつくから俺はそれを哀れな亡者が集まる都、三都と呼んでいる」

 発掘隊一同は一斉に吹き出した。


「しかし、打ち切りになってしまった以上はここにいるわけにもいきませんし、皆を家にお送りいたします」

 しんみりとした空気が流れる。その時、服部が伝書鳩から手紙を受け取った。その内容を見て目を見開いたままその場に佇む。


「根蔵、沈芽……話がある」

 2人は胸騒ぎがした。沈芽も思わず根蔵の手を握った。服部は2人を外へ呼ぶ。


 瀬戸の海風が吹き付ける。坂が多く急勾配の道。夜空の星に照らされ光り輝く海には仙酔島が浮かび、夢の世界を演出していた。

「瀬戸内海とは、かくも魅力的なところであるか……」

「服部、覚悟はできている」

「私たちの母のことよね」

 目を閉じ服部は頷いた。

「お主らの母は討ち死になされた」

 覚悟していたこととはいえ、悲嘆する2人。沈芽は地面にへたり込み下を向く。


 母を失った2人は悲しみに震えていた。

「お主らの母は、埋葬組を追い詰めるため奮闘しておった。我が一族もその後ろ盾となり申した」

「そう……だったのか」

「さよう、我が父も先日この抗争に倒れ申した」

「あなたのお父さんも……」

 涙と鼻水で濡れた顔を沈芽は上げると、服部は目に笑みを讃えて答えた。

「我が父も、そなたらの母も、後一歩の所で埋葬組を取り逃がしてしまった。皆、凶弾に倒れた」


「それをやったのは……古田か」

「いや、しかし、証拠隠滅は奴の役目。近い内、埋葬した所から遺跡が見付かったと申し、殺害した者共の人骨を古代人の者と嘘を申すはず。その前に」

 根蔵は首を横に振った。そして、沈芽の手を取り旅館に帰ろうとする。

「それもよし。誰もお主を責めはせんよ」

 旅館に戻った根蔵と沈芽。その日は、2人とも、寝付けなかった。


 翌朝、化石発掘バトルは正式に打ち切りとなり、発掘隊は解散した。皆、それぞれの家に帰ることになった。


 根蔵と牛麿は、東京の家に戻るタクシーの中で話しをした。

「そういうことだ牛麿」

「ほうか……。ほんで、これからどうするん」

「服部から聞いたんだが、近い内に俺と沈芽の母の捜索願いを出すらしい。それで、いずれ死亡届けを出して葬式をして……。木枯館長の家に2人住まわせてもらうって」

「いつでも会えるな。そんで、化石発掘はどうするん?」

「……やめる」

「ほうか、ワイは楽しかったから続けるつもりや」

 沈黙が続く。家の前まで来ると、人集りができていた。タクシーはそれ以上進めないと言ってきた。しょうがなしに2人はそこで降りた。


 人集りを掻き分け2人が見たものは。

「燃えている!」

「ワイらの家が燃えとるで! 綺麗やなー!」

 根元家と環状線家が燃えていた。この感じだと全焼は免れないだろう。

「な……なんで」

「炎の花が咲いて天を焦がしとるわ」


 2人の後ろから誰かが話しかけてきた。

「牛麿ぼっちゃん。私です」

「キャハハハ! 燃えました燃えました!」

 それは家政婦と兎麿であった。火事を消火しおえると、消防士に話を聞かれ、木枯館長の家へ根蔵はお世話になることに。


「根蔵君……。よく来たね」

「ああ」

 木枯館長の家は2階建てで、2階の部屋を根蔵の部屋に当てた。まだ片付いていないその部屋に布団を敷き横になる根蔵。もう、化石も埋葬組も懲り懲りだと唇を噛み締めただ天井を見た。やがて、眠りについた。


 深夜、喉が乾いて目が覚めた。慣れない家のベランダから夜空を眺める。

「島根の空も、恐山の空も、瀬戸内海の空も綺麗だったな。こんな東京の空よりもよっぽど」

 楽しかったあの頃見た夜空と東京の空を比べる。その内、涙がこぼれ落ちる。なにもできない自分が悔しくてしょうがない。


 部屋に戻ろうと立ち上がった。

「根蔵、呑気にしている場合ではない」

「うおわ! はっ、服部!」

 屋根から逆さまになってベランダを覗き込むのは、忍び装束の服部であった。彼はベランダへ音もなく着地した。

「根蔵、詳しい話は後だ。発掘隊の集合場所へ今すぐついて参れ」

「俺はもう発掘はやめたんだ」

「そんなことを言っている場合ではない! 命を狙われておるのだぞ」

「なに!」


『次回「結成・大道発掘隊」』

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