第25話 二回戦・瀬戸内海

 二回戦のために瀬戸内海の海を渡る発掘隊。翡翠色の海、穏やかな波をフェリーから眺める少年少女発掘隊。ちょうど厳島の辺りを横切る。船の手すりで妙にはしゃぐ沈芽は、隣の根蔵へ地元の景色を見てもらおうと頻りに指をさす。

「みんさい! あれが厳島神社なんよ!」

「水に浮かぶ神殿か」

 厳島神社は緑色の海に浮かび、紅い社殿は須弥山の緑に抱かれ、竜宮を思わせる。

「すっごい綺麗だ! おいらあそこへ行きたい!」

「あん中もねえ、ばり綺麗なんよ! 秋になったら紅葉がすごいんじゃけえ。鹿がおってねえ」

 大興奮の獣川へ広島弁丸出しの沈芽は厳島の良さを語りまくる。


「クソッ! どうしてあの島が愛媛じゃないんだ! 俺の名前はあそこの紅葉からとったのに」

 妙に苛立つ古家院。


 しかし、1番目立ったのは平坊主であった。厳島神社へ合掌する。

「おお、神の島厳島よ……。かつて平家が建てた華麗なる社殿よ。ああ! 尽善尽美の平家納経を1度でいいから観たい!」

 そこまではよかった。いかにも僧侶らしい振る舞いだ。しかしその直後、手すりから身を乗り出した時、手を滑らせて海へ落ちそうになる。根蔵と沈芽と獣川がすんでのところで袈裟を掴んだ。


「あんたあ! 平家みたいに飛び込む気ねえ! 波の下に都なんかないよ!」

「沈芽さん、申し訳ありません。つい」


 フェリーはそのまま下関へ入り発掘隊は上陸した。関門海峡に架かる関門橋を渡るとブワッと潮風が吹き付けてくる。橋から海を覗き込んだ発掘隊。青い海は渦を巻き、二匹の青龍が円を描きながら中心へ吸い込まれていくように見えた。

「おお! おいどんはこの景色を見ると心が躍るでごわす。なんといっても壇ノ浦の悲劇は涙なしでは語れもはん」


 平坊主は、関門海峡を眺め合掌をした。

「第八十一代天皇の安徳天皇の玉体を沈め給うた荒波。平家の悲劇。どうか安らかにお眠りくだされ」

 その隣で根蔵はつい言ってしまう。

「平家の幽霊はどこにもいないけどな」

 平坊主は目を見開き根蔵を見ると、何も言わずにどこかへ行った。


 発掘隊は関門橋付近の店で、博多ラーメンを食べる。テレビ局の奢りと分かると何杯でも食べる。腹いっぱいになった所で、テレビ局が用意した小型ボートへ乗ることに。


 何をこだわっているのか、巌流島へ集められた発掘隊。そのまま最初の島へ行けばいいのにとブーブー文句を垂れる。

「まあ、とにかくここからスタートをしましょう」

 さと芋が皆を諭す。


 そして、巌流島から出発した。最初の島は周防灘に浮ぶ一掘島。土は黒く、ごく最近浮かび上がった島とあって草木は生えていない。そこへ、10台の小型ボートが泊まった。

「この一掘島は、一ヶ月ほど前に突如飛び出した島です。直径500メートルほどの円形の島です」

 さと芋が説明すると、いつものようにドローンを飛ばす。カメラマンの小次郎とさと芋以外はボートで待機。


 発掘隊は一斉に思い思いの場所へ散った。とはいえ、互いに見える距離だ。


 我武者羅発掘隊は島の中央で化石を掘り出した。

「根蔵はん、ここにはなんが埋まっとんのや」

「……いや、まさかな」

 牛麿の問いに答えない根蔵。彼は一体何の霊を視たというのか……。


 スコップを鞄から取り出すと一心不乱に掘り出した根蔵。それをアシストする牛麿。周囲には、沈芽や忍発掘隊や獣道発掘隊など探知能力に優れた連中が集まってきた。その発掘隊のリーダーは皆、何か違和感を覚えていた。


 斑鳩は近くを通ると驚き声を上げた。

「なんや! お前ホンマに地球の生きもんかいな!」

 その言葉に沈芽、服部、獣川らは違和感の正体に気付いた。思わず、獣川が根蔵に問うた。

「根蔵君、あんたが視たのって」

「勝負の最中だろ」

 今は勝負の最中。敵を突き放す根蔵であったが……。

「宇宙人」

 どうしてもその一言だけは伝えたかったのである。


 宇宙人が埋まっていると聞いて皆驚愕した。包丁で大地を掘る手が止まる沈芽。腕組みをして大地を見詰める服部。地面に転がる獣川。さらに、こちらへ駆けてくる古家院とその助手の大麻。

「おい! 宇宙人だって!」

「なんでお前が来るんだ!」

 古家院は、集めた薬物の力を最大限まで引き出す力があり、その力で五感を超強化していた。そのため、声を聞き漏らさなかった。

「宇宙人だったら話は別だ! もし生存中の宇宙人と接触した場合、必ず政府に届け出をする義務があるんだ」

「本当に宇宙人ならな」


 根蔵は構わず掘り起こす。すると、現れたのは……。

「グレイ……」

 古家院はそう判断した。銀色の肌は滑らかで、巨大な目をしていた。


「はぁ、どうして俺らはこんなもんばっか発掘するのかなあ」

「取り敢えずテレビ局に言うか」


 責任者の厚盛厚子に相談をした。

「なるほど、分かった」

「ということは今回も中止と言う方向ですね」

「はやまらないで小次郎さん。この化石……というか遺体を検死しなくちゃ本当に宇宙人か判らないでしょ」

 発掘隊の目が輝いた。

「この遺体が宇宙人だと判明するまで続けるよ!」

「いいぞ! 厚化粧!」

「今厚化粧って言ったの誰だ! 古家院! あんたか!」

 それから一悶着あったが、発掘バトル再開という方向で話は進んだ。一掘島で最初に化石を見付けたのは根蔵だったため、彼はこの島に名前を付けることに。

再難島さいなんとう

「分かった、上にはそう報告するからね」

 この島は再難島と名付けられた。再び災難が襲ってくるという意味だ。


 我武者羅発掘隊が化石を見付けたので、二掘島へ渡った。その後を、すぐに他の発掘隊が追いかける。


 二掘島は、伊予灘にある島で、半年前にできた島だという。そこでもグレイやタコ型の宇宙人が見付かった。


 三掘島は、広島湾にある島で、そこでは腹に顔のある人の形をした遺体を見付けた。


 発掘隊は厳島の旅館にその日は泊まることになった。大広間で焼き牡蠣や穴子丼など広島産名物を食べる発掘隊。あまりにも静か、それもそのはず、宇宙人の化石や遺体がわんさか出てくるのだ。

「おいらたちの見付けた奴らは、我々は宇宙人だとか言っていたのかな……。古家院はどう思う?」

「俺に聞くな」

 そんな会話があったきり、再び黙る。


 旅館の部屋へ案内された。根蔵はノートパソコンを古家院に借りて校長のその後を調べてみた。

「校長……」

 校長は株で一儲けした後調子に乗ってラスベガスのカジノで大負けしたらしい。借金が校長の肩にのしかかる。


「ちょっといい根蔵君」

「……珍しいな、入る前に許可をとるのは」

 彼は許可すると沈芽は部屋に入ってきた。


「お母さんとは連絡とった?」

「俺ケータイ持ってない」

 それっきり沈黙が続く。気を利かせて根蔵が話しを始める。

「沈芽はナイフとか好きだよな」

「うん、お兄ちゃんがそういうの好きだったから」

「お兄ちゃん! 姉と2人の姉妹なんじゃ」

「え? いや……。お兄ちゃんがいたの。相当血の気が多いお兄ちゃんでね。ナイフを好きなように使いたいからって米軍に入隊して」

「そのお兄ちゃんというのは今」

「戦死した」

 ナイフを取り出した少女の横顔を見て言葉に詰まる根蔵。彼女は再び蛇のように腕に絡みついてくる。


 そこへ、古家院と獣川が入ってきた。

「パソコン使うから返し……」

「おいら動画が観たい……」

 彼らは、根蔵が沈芽に殺されそうになっていると勘違いした。

「おい! そのナイフを下におきなさい」

「おいらの毛皮をあげるから命だけは」


 根蔵と沈芽は顔を見合わせ笑った。だが、少女の手に握られたナイフが目に入ると、彼は戦慄し笑いが止まる。


 厳島の旅館では妖しくも夜は更けていった。


 その頃、古田ら埋葬組は東京で会合を開いた。埋葬組のボスは仮面を被り正体を明かさないようにしている。

「最近我らのことを嗅ぎ回っているネズミがいる」

「ボス、そのことならお任せください。この古田が始末してご覧に入れましょう」

 それは、根蔵の母とその仲間のことである。


「それから、最近化石発掘バトルとかいう馬鹿げたのが流行っているとか」

「ええ、餓鬼共のせいで古生物学がおかしくなっておりまして」

 ボスに媚びへつらう古田の横でさらに媚びへつらう古生物学者の男。


「新種だなんだと、そんなもの認めていては我らの権威はどうなるのです」

 権威、権力、名声、金、全ては保身のため。古生物学に貢献するのではなく、自分の栄達のために古生物学を利用するのである。


「へへへ、それもこの古田にお任せください」


 古田の工作が始まった。


『次回「発掘隊壊滅」』

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