第15話 来る本戦へ備えて
関東地方、予選突破した我武者羅発掘隊の写真を撮りに来たDDTテレビ。根蔵と牛麿は紋付袴に黒鞘の刀を腰に帯びて出てきた。
「これはこれは、武士ですか」
「ええ、侍です」
「久しぶりやな厚化粧子はん」
「厚盛厚子です」
我武者羅発掘隊の写真を撮るのに、根蔵が色々注文をつける。海辺で夕日を背景に撮りたいなどというのだ。カメラマンの相馬小次郎は、震える手でカメラを持ち根蔵をにらみつけた。
「お前……、ふざけるなよ」
「え? じゃあその辺の山でもいいけど」
「そんな半端でどうするって言ってんだよ! 侍だろ! 大和魂だろ! 映画村へ行こう」
小次郎がワガママ言うので、映画村で撮影することになった。日帰りで京都を訪れ写真を撮ることに。
映画村へ着くと、小次郎は異常なこだわりを見せた。橋の上で撮るのに、根蔵と牛麿は背中合わせになって、刀を抜いた。根蔵は上段に構えさせられ、牛麿は下段に構えさせられる。夕日で赤く染まった町の橋で、刀を構える2人に横からカメラを向ける。
「そこでこっちを見て!」
彼らは小次郎の方を振り向いた。
「違う! 斜め下から覗き込むようにしてこちらをにらんで!」
まるで映画のポスターでも撮るような感じである。
「はい! えっと……、牛乳を加工したやつ……チーズだチーズ!」
やっと撮影は終わった。日が暮れると同時に東京へ蜻蛉返りさせられた。
その夜、京都映画村で撮った写真がそろそろホームページに載っている頃だと思い、根蔵と牛麿はインターネットで自分たちの写真を確認した。
「……ちょっとやり過ぎじゃないか」
「ええやん」
夕焼け空は真っ赤に燃えて、夕日が橋の下を流れる川に映えていた。橋の手摺には都合よく大鷲が留まり、2人は幕末の志士のように写っていた。
妹の兎麿は入ってくるなり、兄とその友が写る写真を覗き込んだ。
「キャハハハ! 幕末の寿司よ! 幕末の!」
彼女は今日、明るい日なのであった。写真を観た後、兄の部屋で笑いながら飛び跳ねていた。
「牛麿、やっぱりまずいんじゃ……」
「最近明るうなってうれしいわ」
兄は妹を全く気にしない。
翌朝、葉化嵐博物館へ行き、いつものように掘り起こした化石を観ようとする。木枯館長は、DDTテレビから連絡があったと言ってきた。明日の本戦開催についてだ。
「どうやら、明日からの本戦の舞台は恐山らしい」
「は? 何であんな所なんだよ! やべえよあそこは」
DDTテレビは、三回戦に分けてバトルすることを伝えてきた。まず、初戦は幽霊の集まるという恐山で行われる。またしても、テレビ局のわるふざけである。
恐山が恐るべき山なのは根蔵も熟知していた。彼としてはできれば避けたいところだが……。
「棄権したければどうぞと言ってきているが」
「出るさ」
負けん気が起きた時の彼を抑えるのは容易ではない。短い付き合いとはいえ、木枯館長もそれはよく分かっていた。
「うむ、じゃあ明日の午前8時。DDTテレビの前に集合することになっているからね」
「分かったよ」
「ワイ、恐山楽しみや」
大会は明日から始まる。今日は木枯館長の勧めで早めに休んで鋭気を養うことにした。
環状線家に帰った2人は、家の前に白い服を着た少女の姿を見た。
「誰かいるな」
「お客はんかな」
白い服の少女は、根蔵の姿を見るなり逃げ出し角を曲がる。根蔵は追いかけてみたが、姿はどこにも見当たらなかった。
「誰やった?」
「んー、さあ」
彼らは環状線家に帰った。
晩飯の頃、環状線兄妹と居間で冷やし中華をつついていた根蔵。下を向いたまま黙って麺をすする妹の兎麿は、ふと何かに気付いた。
「……あの……あそこ」
彼女の指差す方へ彼らは視線を向ける。窓の外に白いものがぼんやりと見えた。牛麿が窓の所へ行きブツブツいいながら開けたその時、白いものはスウッと消えた。
「ホンマ怪奇現象やなあ」
こちらを振り返る牛麿のその後ろに、長い髪の少女がバッと窓の側面から顔を覗かせた。
「うおわあ!」
悲鳴を上げ後ろに飛び退いた根蔵と無関心の兎麿。不審に思った牛麿は後ろを振り返ると、少女と目が合った。
「どしたんや君」
「ウフフフ、はじめまして。沼田沈芽といいますヌフフフフ」
暗がりから顔をのぞかせた少女は、猫のような鋭い目に日に当たったことがないような白い肌に白いワンピースを着ていた。腰まである黒髪をエアコンの室外機の風でなびかせていた。少女は妖しく笑っている。
「はじめましてやな。確かあんさんも発掘隊やったな」
「お前にゃあ用はないわ! のけえや!」
「ほなのくで」
先程の妖しい笑いから一変し激情する沈芽。明らかに彼女はまともではなかった。彼女は、当然の如く部屋へ入ってくる。さらに当然の如く根蔵の隣に座る。
「あたし、沼田沈芽。よろしくね、根元君。侍姿の写真見たよ」
「寄るな!」
環状線兄妹は何故かその姿を見て大笑いする。急に兎麿が元気になって狂ったように笑い出した。
「あたし兎麿。沈芽ちゃんよろしくねえ、キャハハハ!」
「よろしくね、兎ちゃん」
歪んだ笑みを浮かべる沈芽と狂ったように笑う兎麿。根蔵は目眩がした。
一度環状線家に上がり込むと沈芽は中々帰らない。冷やし中華を勝手に食べだす始末。その間、根蔵の方を見ては妖しく微笑む。
デザートのケーキが出てくると、沈芽は兎麿と仲良く切り分ける。
「ほんで沈芽はん、あんたどっから来たんでっか?」
「あんたぁ家畜麿じゃったっけ? あたしゃあ広島よ」
「家畜麿やないで、牛麿や。で、あんたはいつまでここにおんねん」
「……あ?」
デザートのケーキを食べるのに用意しておいたナイフを沈芽は机に突き立てた。
「あたしは根蔵君に会いに来たの。帰る? どこへ?」
「自分家だろ!」
笑ってごまかす彼女を見ると、もはや帰る気がないのが分かった。根蔵は黙って自分の家に帰ろうかと考えた。
「ウフフフ、根蔵君。隣のあなたの家、素敵ね」
心の中を読まれた根蔵は、雷に打たれたような衝撃が走る。
「何で……何で!」
「あなたのことならなんでもお見通しよ」
それはどういう意味か。心の中を読んだのか。はたまた、家を調べたのか。どちらにせよ、根蔵は恐るべき蜘蛛の巣にかかってしまったようだ。
「ホンマ、サイコキラーになれるで自分。ワイは気に入ったであんたの生き方」
「家畜麿もええこというじゃん」
2人はカルピスを乾杯した。
「し……沈芽とやら」
「なあに?」
「お前……何か不思議な力持っているのか?」
「別に、ただ、念じた相手のことが分かるだけよ」
「それは、第六感の1つなのでは」
「さあ。それより、あたしのことはしーちゃんって呼んで」
心の中で懸命に塩をまく根蔵。こんな恐ろしい女がよりによって能力者かもしれないことに愕然とする。
「ねえ、しーちゃん」
「なに? 兎ちゃん」
「どうやったらそんなストーカーみたいな技使えるようになるの」
「それだ! その表現だ!」
ストーカーという単語に思わず根蔵は声を出してしまった。
「ウフフフ、生まれつきなのよ」
「へー」
兎麿は沈芽の背中に飛びついた。まるで、仲のいい姉妹のようだ。さらに、彼女らは尋常ならざる笑い方をする。悪魔のような姉妹にも見える。
「沈芽はん、今日は兎麿の部屋に泊まってき」
「家畜麿、恩に着るわ」
全身からドっと冷や汗をかく根蔵。
「俺は家に」
「ウフフフ」
「牛麿、お前の部屋でゲームでもするか」
身の危険を察知した根蔵は、牛麿の部屋に避難することにした。
深夜、牛麿のケータイに無言電話がかかってくる。3度目で牛麿が着信拒否をした。すると、ドアを激しく叩く音がして、沈芽の着信拒否するなという声が聞こえてきた。
『次回「テレビ局前に集うライバル」』
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