第14話 各地の予選の模様
予選が終わり、葉化嵐博物館で木枯館長と本戦について話をする。
「これから本戦に入るけど、対戦相手はもう確認したかい?」
「それを今から確認するんだよ」
「大会のホームページに予選を突破した発掘隊リストが載っている。是非見るといい」
木枯館長はノートパソコンに電源を入れる。パソコンの画面には、今大会予選突破発掘隊が出てきた。
最初に観たのはやはり近畿地方である。
「まあ、見なくても分かるが」
「例ののぞき魔やろうな」
確認するまでもなく、大和・公家泥発掘隊が予選を突破していた。
「ん? 予選会場の動画?」
「わあ! ここにも大人の闇が渦巻いとる!」
「とも限らないだろ、まあ一応見てみるか」
根蔵は動画をクリックして見た。
関西の予選は甲子園球場で行われた。それも、土砂降りの雨の中、傘もささずにホームベース辺りに並べさせられる。ここでは、アトラクションとして、ツルハシを担いだ発掘隊がゆっくりとベースランをさせられる。
一塁、二塁、三塁、ホームベースと何度も何度も周らされる発掘隊。その姿は悲惨を極めた。
それが終わると、今度はバッターボックスでツルハシをバットに見立てて構えさせられる。
「みなさん、発掘隊はどんな泥の中でも耐えられるということがお分かりになったでしょう」
司会のギャウンギャウンの2人が飄々とそう言うと、会場が爆笑した。
スポンサーの越後屋の社長が揉み手をしながら、雨に打たれない屋根の下で笑った。社長はブランド物に身を包み、金のブレスレットやネックレスを着けて、二重顎をしゃくらせて会場の誰もが嫌らしいと感じるほど下品に笑う。
なんとも悲惨である。公家泥発掘隊の万力豪力はツルハシを構えた時に雨が突如強くなり目に入った。その時バランスを崩し、後ろへ数歩後ずさると水溜りに背中から倒れた。
「大丈夫か!」
ギャウンギャウンの2人が心配して傘もささずに万力を助け起こす。3人泥々になったのを見ると、越後屋の社長が手を叩き嘲笑った。越後屋、お主も悪よのうとギャウンギャウンがマイクで笑いをとった。だが、その声は怒りに震えていた。
予選の模様を眺めると、近畿地方の発掘隊を心底同情する。
「……俺らの方が遥かにマシだったな」
「ワイは越後屋の席でこんなん見たかったでホンマ」
越後屋の社長は、用意した自社製の菓子を縁日みたいに投げて泥々の球場へバラ撒いた。それを拾わないと大会に出られないよと拡声器で言うと、子どもたちは泣きながらその場にへたり込んだ。
怒気を含んだ顔でギャウンギャウンの2人が越後屋のお菓子を拾い子どもたちに手渡した。それから、笑いのオブラートで包みつつも越後屋の行為を厳しく非難する。
あまりにも哀れな近畿地方の様子に、根蔵はこれ以上観ることができなかった。そして、動画は際限なく炎上するのであった。
それから各地の予選突破した発掘隊を観ておいた。
北海道は、道産子・
東北地方は、奥州・
中部地方は、富士・
中国地方は、瀬戸内・執念発掘者1人、沼田
四国地方は、南海・科学薬品発掘隊が予選を突破した。ガスマスクをした2人の狐面の少年である。
九州地方は、南国・
アイススケートだったり、ラグビーだったり、サッカーだったり、ボクシングだったり、それぞれの会場で無茶をさせられた発掘隊たち。
予選を突破したメンバーを見ると、根蔵の顔色がみるみる変わった。彼は思わず立ち上がる。
「どしたんや? 顔が青いで」
「こいつら、ただものじゃない」
「なに? ただものじゃないって何故分かる?」
木枯館長が尋ねると、根蔵はソファにドカッと座った。
「最近霊能力をよく使うからか、生きている人の霊力まで視えるようになってきたんだ」
木枯館長は聞き流そうとしたが、牛麿が珍しく興奮して立ち上がる。
「ホンマ、いよいよ根蔵はんが生き物に感心もったで。こりゃ雪降るんちゃうか?」
「うるさい! デブ!」
「あんがとさん」
「つっても、相手の持つ才能? みたいなものしか視えないがな。この予選を突破した連中は、公家泥発掘隊どころではないかもしれないな。力強い魂をしている」
根蔵は化石発掘作業を通し、霊能力がさらなる覚醒をしたようであった。
「しかし、個性的やなホンマ」
「公家泥発掘隊まで束帯着ているぞ」
予選突破発掘隊の写真を載せてあるが、皆恐ろしく個性的な姿で写っていた。
「じゃあ、君たちも武士の衣装でも着ればいいじゃないか」
木枯館長がからかい半分でそう提案すると、根蔵は立ち上がった。
「それでいこう!」
「ワイらも舐められたらアカンからな」
「え? 君たち本気?」
そうと決まれば話は早い。さっそく着物屋へ行く。
鎌倉悪源太という着物屋で、牛麿の金で紋付袴を二着購入しようとした。
根蔵は黒い羽織に白い袴、家紋には竜胆を染め抜いたものを注文。
牛麿は白い羽織に黒袴、家紋には揚羽蝶を染め抜いたものを注文。
鎌倉悪源太の店主の義平は、化石発掘大会の話を聞くと奥から2人の注文した通りの着物を持ってきた。
「よくお似合いでございます」
「なんであるんですか?」
「もう着せられたわ」
義平店主は、以前子ども用の見本を仕立てた分だから料金はいらないと言い出した。
「ただし! この紋付袴を着てテレビに出てから、『この紋付袴は鎌倉悪源太製だ!』と宣伝して欲しい。平治の乱の時に鎌倉悪源太が平重盛に名乗りあげるような感じで……ちょっと。話聞いてる?」
根蔵と牛麿は適当に返事をして店を後にした。
「次は刀だな。金属製の模造刀を買いに行くぞ」
「ワイは本物でもええけどな」
根蔵は、悪源太で聞いた刀鍛冶屋を訪れ山へ入った。そこで見たものは……。
「何で飲み屋街があるんだよ!」
「しかも、クソ騒がしいクラブがぎょうさんあるで」
昼間から飲んだくれがウヨウヨする飲み屋街。よく見ると、パチンコ屋やゲームセンターもあり、風情もへったくれもない。飲み屋に挟まれて炭屋や材木屋もあったが、下品なネオンの看板を掲げて周囲に染まっていた。
「郷に入らば郷に従え……か」
「1番染まったらアカンやつやん。そんな所がワイは好きや」
飲み屋街の中、刀鍛冶屋を求めてさまよう。真っ昼間から喧嘩はある、路上で吐く、道路の真ん中で大股開いて寝る。そこにはもう、時の概念は存在しなかった。
2人は、やっとの思いで刀鍛冶屋を見付けた。刀鍛冶屋の名前は『もっさん』であった。派手派手しいネオンの看板が掲げられたもっさんへ入った。
「おう! なんのようだ!」
「あの……模造刀を2つ作っていただきたいのですが」
もっさんの親方は壁に立てかけてある刀を二振り根蔵へ渡した。
「ありがとうございます。それで幾ら」
「金はいらん! お前ら我武者羅発掘隊だろ? 模造刀はくれてやるから頑張りな」
根蔵は深々とお辞儀をして感謝を述べた。牛麿は僅かに頭を下げ、さっさとその場を去った。
「さて、これで俺らも舐められずに済みそうだな」
「武士なのに施しだけで揃えたでホンマ。もっと、侍らしゅう振る舞わなアカンでホンマ」
2人は刀を持ち帰り、予選突破者の写真を撮る準備にかかる。
根蔵も牛麿も相当な見栄っ張りだ。
『次回「来る本戦へ備えて」』
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