第13話 予選

 神奈川スタジアムで進行する派手派手しいイベント。ドローンは爆破するし、スタジアムは過剰な花火で火の海になるし、大人のエゴにつきあわされる羽目になった子どもたち。子どもを利用し、見世物のように扱うショーである。


「さーて、本日のメインイベント。化石発掘バトルの時間でございます」

 さと芋がそう言った時は、発掘隊が入場してから1時間も経っていた。その間、ずっと子どもたちは立たされていた。とにかく前置きが長い。


「今日から1週間の間、関東地方内で化石を掘り起こしてもらいます。各発掘隊は、ズルをしないようにドローンがカメラで見張ります」

「さと芋の言う通りでしゅ」

「僕はニャランチュラの化石が見たい」

 それだけ言うと、発掘隊を軽く紹介してその後はまた派手派手しいショーが始まった。発掘隊そっちのけである。


 昼前になってようやく思い出したように発掘隊へマイクを向けた。

「あなたは我武者羅発掘隊ですね? ヤマタノオロチを発掘したという」

「ええ、オロチも俺らもずっと同じ場所で待ってましたよ」

 根蔵が皮肉交じりでそう答えると、スタジアムの皆爆笑した。


 自分たちを宴会の余興程度に扱うテレビ局に、そっちがその気ならと根蔵はある質問をする。

「あの……俺ら化石を発掘したらどこにおけば……」

「それなら、DDTテレビの名前を出していただいてどこへでもお預けください。後日、回収いたします」

「あ……、発掘道具が壊れたら……」

「代用品をお渡しいたします」

「それではまずいです。バトルは時間との勝負でしょう? 皆が楽しむためにはタイムロスはない方が……」

「ならば、DDTテレビが後でお支払いいたしましょう」

「それと……、食事はどうすれば……」

「それならお弁当を配達」

「いえ! そんな時間ございません! 自分たちのタイミングで買える物を購入できれば」

「とは言いましても」

「ハンバーガーとか……」

「それなら、DDTテレビへ請求書をお送りください」

 根蔵は心でガッツポーズを決めた。大人しい面が鳴りを潜め、計算高い根蔵が顔を覗かせた。


 正午、発掘隊は神奈川スタジアムを出発した。我武者羅発掘隊もスタジアムを後にする。

「まったく何だ! あのショーは!」

「ホンマに、性根が分かるショーやったな」

 彼らの後ろからドローンが音も無くついてくる。

「くそ気持ち悪いなあのドローン!」

「でも、この異常な感じ、ワイは嫌いやないで」


 我武者羅発掘隊はまずは海へ行った。岸壁を下りる2人。そこには、超巨大蟹の化石が埋まっていた。

「まずは、蟹ゲットだな」

「ワイの体よりデカイでこれ」

 牛麿の身長より大きいなら、160センチはあるはずだ。

 そのまま、海辺の崖で次々に化石を掘り起こした。掘り起こした化石は、近所の海の家に預けると、DDTテレビに連絡した。まだ、昼なので、海の家で大量に食事を注文し、DDTテレビにつけてもらった。

「あれだけ俺らを利用したんだ。これぐらい必要経費だ」

「ワイは、おかわりや」

 DDTテレビはこの日、我武者羅発掘隊のために昼食代を数万円も出す羽目になった。


 夕方になり、空が赤く染まる頃。我武者羅発掘隊は海から見える島へ上陸した。そこまで行く船の往復代はもちろんDDTテレビへつけてもらう。島は小ぶりであったが、幽霊は選り取り見取り。

「ここは、穴場だぜ!」

「ホンマに、安らかに眠れんなお互い」

 我武者羅発掘隊による化石の乱獲が行われた。その化石を迎えの船の人に預けた。お礼はDDTテレビが払いますと笑顔で言った根蔵。


 夜になると、突然ドローンが大破し地に落ちた。暗がりで作業するふりをして根蔵が大岩をドローンに投げ付けたのである。壊れたカメラの残骸を踏み付ける根蔵。

「図に乗りやがって」

「根蔵はん、これからが本番やな」


 その夜は、カメラの回っていないのをいいことに、神奈川の高級ホテルに泊まった。一泊10万のホテルで、ルームサービスを数万円頼んだ。さらに、高級レストランで普段は食べられないような高級食材を貪り食った。根蔵の悪知恵が炸裂する。


 翌朝、DDTテレビへ連絡を入れる根蔵。すると、代わりのドローンを送るので、居場所を教えて欲しいと言ってくる。湘南の海でドローンを待つことにした。


 ドローンを受け取った我武者羅発掘隊。今度は、関東地方の北の方へと移動する。タクシーに乗りドローンを振り切るために高速を移動。日光東照宮などを観光しながらお土産品を山ほど購入し、DDTテレビへつけておいた。


 好きなものを食べ、好きなことをして、彼らは温泉宿を予約した。DDTテレビには、河原で寝袋を用意して発掘するからドローンをこちらに飛ばしてくれと適当なことを言っておいた。


 ドローンがやってきた。2人は全身に泥を塗って待機していた。これ見よがしに汚れた背中をカメラに向ける。その日は、河原で新種の植物の化石を発見した。その他も大量の化石を発掘。


 その夜も、ドローンを水に沈めてから温泉宿に泊まった。最高級部屋で刺身の盛り合わせを貪る2人。温泉に浸かり、豪奢に1日を終えた。


 その翌日は、河原にドローンを持ってきてもらい、今度は千葉へ。ここでも化石を見付けたあとは、電波塔に近寄ってドローンを墜落させてから遊びに行った。


 この1週間、我武者羅発掘隊は、宿泊費だけで100万円、食費に30万円、発掘道具を装った余計なお土産に50万円、雑費を合わせると300万円位は無駄遣いした。その間、化石も大量に手に入れて、その数は全発掘隊の中でもぶっちぎりであった。質についてはもはや言うまでもない。


 神奈川スタジアムに集った発掘隊。それぞれが採取した化石をグラウンドへ並べる。だが、全員の化石を合わせても我武者羅発掘隊が発掘した半分にも満たない。満場一致で予選通過を宣告された我武者羅発掘隊。


 お立ち台に呼ばれる我武者羅発掘隊の2人。お立ち台にに上がると、2人は優しそうな笑みをたたえ、お客さんに丁寧にお辞儀をした。そうやって好感度を上げておいた。予選通過のことには無関心な2人。ただただ礼儀正しく穏やかに振る舞う。なんとも白々しい。


 その2人にDDTテレビの連中はどこかトゲトゲしかった。彼らは請求書の束を送られてから経費の件を後悔したのである。


 石原さと芋が我武者羅発掘隊へマイクを向ける。

「さあ、次は本戦だ! まずは根元君、本戦への意気込みをどうぞ!」

「ええ、本戦ともなると強敵が揃っているでしょうし……。簡単に優勝できるとは思えません」

 根蔵は謙虚を装っていたが、優勝できないとは言わなかった。言葉の裏を読むと、難しいけれども勝てない相手ではないと自信満々である。


「謙虚ですね。次は牛麿君」

「ヤマタノオロチ発掘の時もあるハプニングがありましてな。今度もそんなんあったらええなと思います」

 ハプニングとは、大蛇の首旅館の連続殺人事件のことである。また、人間の心の闇を覗きたいと暗に言っているのである。


「ハプニングすらも楽しみに変えるなんて、素晴らしく前向きで共感できます」

 この2人の言っていることの言葉の意味を知るには、皆あまりにも2人を知らなすぎた。


 本戦出場を決めた我武者羅発掘隊へ、皆の歓声が飛ぶ。根蔵は適当に手を振って愛想笑いをしておいた。牛麿は、全く感情を込めずに笑顔で手を振った。


 早めに2人は退場した。彼らは、DDTテレビの連中に説教される前にスタジアムを抜け出し、予め呼んでいた銀色のハイエースに乗り込み去って行った。


 その疾きこと風の如く。

 静かなること林の如く。


 発掘隊が全員退場した後、スタジアムは再び、狂ったようにドローンと打ち上げ花火を飛ばす。黒焦げになるスタジアム。ここで試合するのは、しばらく無理かもしれない……。


『次回「各地の予選の模様」』

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