予選

第12話 全国発掘バトル

 DDTテレビの放送する『化石発掘バトル』も明日予選が始まる。帰ってきた牛麿は綺羅びやかな服を身にまとい、ダイヤを埋め込んだホネックスの腕時計を腕に巻いていた。


 牛麿の帰宅と同時に根蔵も再び居候。環状線家の広い居間で翌日の準備をする。そこに、牛麿の妹の兎麿が加わり3人で準備をすることに。兎麿はいつになくペラペラと根蔵や兄の牛麿に話しかける。面食らった根蔵は、牛麿へ妹の様子がおかしいことを尋ねてみた。

「久々に家族に会えて、暗いもんも吹っ飛んだんやろ」

「にしても極端すぎないか?」

 コソコソ話を聞きつけた兎麿は、非常に気分が高揚しているようで馬鹿明るく話に入ってくる。

「どうしたの? なになに? 化石のこと?」

 慣れない兎麿の雰囲気に、戸惑い目を見開く根蔵。

「あれあれあれ? 緊張? 緊張? そんなんじゃだめやろ! ほら、2人ともリラックス! そうそうそう、お兄ちゃんいいよ!」

 兎麿ははしゃぐだけはしゃぐと走って自分の部屋に戻った。それを、今日はもう数回繰り返している。


「お前の妹、大丈夫か?」

「なんでもええやん」

 リュックサックに発掘道具を詰める2人の前に、また兎麿が走ってやってきた。そして、立て板に水の如く喋る。牛麿の部屋まで彼女はついてくる。寝る前もしつこくしつこく話しかけてくる。日付が変わる頃にやっと静かになった兎麿。その姿を見ると非常に心配になる根蔵であった。


 翌朝、兎麿は以前の兎麿に戻っていた。台所で塞ぎ込み、兄の部屋から持ち出した化石をカチャカチャいわせている。

 3人は、朝食に分厚いステーキを食べた。朝っぱらから脂ぎった肉を貪る。


 根蔵と牛麿は作業服を着替え、荷物を入れたリュックサックを背負い、出発の準備が整った。

「ほな行って来るで!」

 玄関まで見送りに来た兎麿へ兄は元気よく言った。兎麿は暗い顔して、切り火をすると言った。


 発掘隊2人の背中に切り火をする。根蔵は気になって兎麿が手に持つ石をよく見てみた。

「おい! それ化石じゃないか」

「ホンマや! 兎麿アカンわ!」

 兄とその友達が慌てる姿に、笑顔を見せる兎麿。その笑いはだんだんエスカレートしていき、最終的には狂ったように大きな声で笑うのである。


「根蔵はん、兎麿のあんな楽しそうなん見たの久々なんや。すまんけど、あの化石妹にくれたってや」

「まあ……いいけど。あれ本当にいいのか?」

 上を向いた兎麿は、目を左手で覆い、腹を右手で抱え、キャハハハと壊れたおもちゃのように笑っていた。


 坂東・我武者羅発掘隊の出陣。

 目的地までは、木枯館長が例のハイエースで送ってくれた。その目的地とは、神奈川スタジアムであった。スーパースターズはこの時、死のロードに出発しており、ホームに帰ってくるのは4カード後、つまり2週間後である。


 神奈川スタジアムの前に降ろされた根蔵と牛麿は、その人数に圧倒された。観客席は満員らしく、外の方まで観客が溢れていた。関係者以外立ち入り禁止の看板を木枯館長がハイエースから身を乗り出し指差した。

「じゃあ、検討を祈るよ」

 少年発掘隊の2人は、うんと返事をすると神奈川スタジアムへと入って行った。


 控室にはロッカールームが当てられており、その中に発掘隊の連中がウヨウヨしていた。

 我武者羅発掘隊が入ってくると、ライバルたちが一斉にこちらを見てきた。

「あれがヤマタノオロチを見付けた例の発掘隊だってね」

「ふん! 大したことなさそうだ」

「生意気そうな面してやがるぜ」

「フルパワーでぶっ飛ばしてやる!」

「ちょっと、やめてくれよ反則だけは……」

 いかにも小物な連中が口々に囁き合い、小物臭の香り高い言葉を口から漂わす。


 我武者羅発掘隊に用意されたロッカーを根蔵が開けようとした。すると、突然そのロッカーへ脚を押し付け開かないようにした少年がいた。

「おい! てめえ根元って野郎だろ?」

「足、邪魔だよ」

「俺は即退場そたじょう発掘隊の小者こしゃ雑魚ぞうぎょ様だ! ちょっとオロチ見付けたくれえでいい気になんなよ!」

 小者の後ろから説明をするほど特徴のない少年が2人出てきた。

「お前俺らにあいさつもなしか!」

「舐めてんじゃねえぞこら!」

 小者が根蔵の胸ぐらを掴んだ時、係員の人が駆け付け即退場発掘隊に即退場を命じた。

「こら! 係員風情がこの俺を誰だと……」

 係員は有無も言わさず外へ放り出した。それでもうるさい3人組。今度は、警備員が警棒を持って出てきた。さすがに3人は諦めて、大会の罵詈雑言を並べるとどこかへ去って行った。


「何だったんだあの馬鹿」

「ホンマに、可愛そうな奴らやわ」

 小腹が空いた2人は、片手にチョコレートを持ち、それをかじりながら先程の馬鹿の話題に触れた。だが、あまりの小者っぷりに奴らの話題が続かない。


 時計の短針が10時を指した。開始時刻が来たことを係員がロッカールームへ伝えに来る。その係員の姿は独特を極めていた。ティラノサウルスの頭の帽子、アンモナイトのピアス、上半身裸でボロボロに裂けたズボン。発掘隊の少年少女は白い目で係員を見た。

「それではみなさーん! 時間ですよー!」


 係員の合図で少しずつ部屋を出る発掘隊。それから、列を組まされ並ばされる。根蔵と牛麿は列の最後の方で係員の服装について率直に語り合った。

「すげえな、あのイカれっぷり。3歳くらいの頃でも真似できないぜ」

「ワイ、あの狂いっぷりに感動したわ」


 列に並び行進している途中で、例の係員は重役に捕まり激しく服装を注意されていた。

「その服装、早く改めなさい!」

「無理です! これは私の心の叫びなのだから! どうしてもと言うならこれを受け取ってください!」

 係員は辞表を出した。重役は辞表を受け取ると疾風の如くその場を去って行った。係員は手を伸ばしたがもう遅かった。


 他の係員の手引でスタジアムの中へ入る発掘隊たち。中に入ると、その盛り上がりに驚いた。中には腰を抜かす子どももいた。観客席は満員。スポットライトを発掘隊の行進に照らし当て、行進の両サイドには花火が吹き出していた。


 ピッチャーマウンドにはお立ち台が組まれており、そこには、石原さと芋の蛇面と、老け顔が売りの加藤茶々がスタンバイしていた。北村能天気も観客席を盛り上げていた。


 ホームベースの辺りに並ばされる発掘隊。皆、ガチガチに緊張して顔色が悪かった。我武者羅発掘隊はちょうどホームベースの真上に並ばされ、1番目立つ。

「牛麿、これはやりすぎじゃねえか」

「ええやん。別に」

 いつになく根蔵も緊張していたが、牛麿は全く動じておらず大あくびをする。


 お立ち台にスポットライトが当たると、石原さと芋と加藤茶々が司会を始めた。

「レディースアンドジェントルマン! 今日はもしかしたら歴史的な日になるかもしれません。このさと芋も緊張しております。ヤマタノオロチを発掘した少年がここにいて、さらにその上をいかんと優秀な少年少女発掘隊が集まったのです」

「私、加藤茶々もヤマタノオロチは大好きでしゅ」

「僕はニャランチュラの方がいいかな」

 北村能天気の水を差すような言い方にさと芋と茶々がハリセンで頭をたたきツッコミを入れる。


 お立ち台で1つ何かを話す度に、ドローンを爆破する派手な演出をする。いちいち様々な色のライトで照らす。至る所で花火を噴出させ、球場は火の海と化す。驚いた発掘隊の子どもたちは泣き出す子まで出てきた。


「さあ皆さん! 行きますよ! ヤマタノオロチふぅー!」

『ヤマタノオロチふぅー!』

 さと芋の音頭で観客全員が叫んだ。まるで、コンサートである。


 発掘隊は根蔵と牛麿を除くと、怯えるか泣いてしまうのであった。

「これは、大人のエゴが露骨に渦巻いているな」

「根蔵はん! その程度の闇ではワイは満足せえへんで」


『次回「予選」』

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