第9話 大蛇旅館の牙をもぎ取れ

 化石発掘対決は、我武者羅発掘隊に軍配が上がる。悔しそうな斑鳩と万力をしたり顔で何度も見る根蔵と牛麿。だが、肝心の旅館問題がまだ残っている。

「ところで……。この旅館の連中どうする?」

 周囲に聞かれない程度の声で根蔵が皆に相談をした。

「もう、化石発掘対決は終わったことやし、正直奴らはあかん思うわ。俺も視えたで」

 化石発掘途中に斑鳩も遺体が視えたのだ。


「俺は霊能力で化石を見付けているんだ。お前らも何かの力で見付けているんだろ?」

「そや。俺の超能力、透視能力で発掘してたんや」

 根蔵の問いに素直に答える斑鳩。万力の方は特殊な力はないようであるが、その代わりに馬鹿力と馬鹿頭があった。


 夜の公園で旅館の裏の部分をいかに暴くかを話し合う二組の発掘隊。ここで、旅館の闇発掘共同戦線を組むことにした。旅館で話を聞かれてはまずいので、公園で化石どうのと数分に1回大声で議論する。


 話し合いの結果。まず、オロチの化石を出雲の大学に預け、ここへ戻ってくることにした。


 旅館へ戻った発掘隊。温泉に浸かり、疲れを癒やす。部屋に戻ると、用意された刺身の盛り合わせを平らげた。そして、今夜はゆっくりと眠ることにした。


 翌朝。二組の発掘隊は、ほぼ同じ時刻に旅館を後にした。出雲の大学へオロチの化石を預けると、後のことは三条博士と公家泥発掘隊に任せて、ハイエースに乗って再び大蛇の首旅館へ。ハイエースを遺体の眠る山の人目につかない所へ駐車した。我武者羅発掘隊は、埋められた遺体を掘り起こしに再び山へ入った。


 記憶を頼りに山道を行く根蔵であったが、その途中にも霊を何人か見付けるのである。その1つを掘り返すと、思った通り人骨が出てきた。

「これは間違いなく人骨だね。さて、根蔵君、牛麿君。行こうか」


 木枯館長と共に最寄りの警察署へ行く我武者羅発掘隊。田舎の警察署では、旅館にまつわる凶悪犯罪の情報提供を求めて何枚もポスターが刷られていた。警察署の署員に木枯館長は化石発掘中に人骨を見付けた旨を伝えた。

「むむ! それはけしからん!」

「では、人骨を見付けた場所までご案内いたしましょう」

 パトカーに乗り、例の山まで駆け付けた。


 その頃、大蛇の首旅館では……。

「さて、みなさん。例の墓荒らしの爺と餓鬼が去りましたが……」

 女将が目を吊り上げ7人の従業員と会議をしていた。エラの張った顎に偉そうな口調の女将は、無遠慮に言った。

「私たちが粛清した連中の遺体は掘り起こされてはないでしょうね」

「もちろんです。私はこの目で見ました」

 仲居首がそう返事をすると、安堵の表情を浮かべる女将。

「そうでしょうね。我らは8人でヤマタノオロチ。9人目などいらんのです!」

「そうだあ! 余分な1人は絶好の生贄なんだあ!」

 旅館の連中は、皆で狂ったように笑った。一頻り笑った所で、若女将が仲居首へ指示を出す。

「仲居首さん。遺体の見回りにいってちょうだいな」

「へえ、んじゃあ猟銃持って行くっぺ」

 仲居首は猟銃を肩に担ぐと、着物の裾を広げ大股で歩き出した。


 パトカーが山に着いた。我武者羅発掘隊は、警察官を伴って例の遺体が埋められた場所を目指す。土を掘ると、中から人骨が現れた。

「こりゃあ……けしからん!」

「でしょう、早く鑑識を呼んで早急に捜査を」

 木枯館長がそう言い終える前に、銃声が山に轟いた。発掘隊が顔を上げると、右の腕から大量に血を流す警察官の姿が目に入った。

「ぎゃあああ! けしからん!」

 右の上腕を抑え地面に転げ回る警察官。それを見て、根蔵と木枯館長は恐怖の余り腰を抜かしてしまう。

「な……あ……」

「まさか……そんな……」

 対する牛麿は、弾けんばかりの笑顔で苦しむ警察官から目を離さない。

「わあ! こんな光景見られるなんてワイ感激や! 飛び散った血が赤い花を咲かせおったで!」


 森の奥から着物の裾を広げ、大股で歩いてくる仲居首の姿があった。暗い森にて、不気味なおたふく面が妖しく微笑む。

「これを見られては生かして帰すわけにはいかないのですよ」

 仲居首は猟銃を再び構えた。後ずさる根蔵と木枯館長。反対に前に出てきて笑顔で猟銃を褒める牛麿。木にすがり腕を抑える警察官。もはや絶対絶命か。

「仲居首はん。どうして従業員を殺すんや?」

「従業員は8人いれば十分! 9人目が入る時は女将さんがいらない奴を始末するのだ」

「なんのために9人目を殺すんや?」

「我らはヤマタノオロチ。定員は8人、それこそが至高の人数だからだ。それが女将さんの信念だ」

「わあ! これがホントの窮地に陥るやー!」

 目を見開き両手を広げ、牛麿は非常に嬉しそうに仲居首の方へ寄っていく。仲居首も、嬉々として牛麿へ銃口を向ける。仲居首はともかく、牛麿もとことん狂っていることを木枯館長は思い知らされた。


「さあ、オロチの供物となるがよい!」

「これがホントの人柱や!」

 仲居首が牛麿へ向けて銃を構え、引き金に当てた人差し指に力を込める。銃声が山に轟いた。そして、血飛沫が上がり枯葉の重なる大地に倒れ伏せた。

「間に合ったぜ我武者羅発掘隊」

 その声は斑鳩の声であった。その隣には、拳銃を構える目つきの悪い警官が立っていた。警官は、ターゲットに銃弾が当たると鼻の下を伸ばして喜びを我慢している。

 銃弾を浴びた仲居首は、銃を構えていた手から流血し、真赤な顔で腕を抑えていた。苦悶の表情を浮かべ、口惜しやべーなどと口ずさむ。


 新たに駆け付けた警官が、我武者羅発掘隊の手引で山に入り負傷した警官と、仲居首の腕を止血する。

「ワシを撃つなどとは、けしからん!」

「はいはい、静かにしてください。あなたは英雄、超英雄」

 新たに来た警官に助け起こされるけしからんが口癖の警官。仲居首は取り敢えずその辺に寝かせて応援を呼んだ。


 やがて駆け付けた応援の警官たちが、仲居首の身柄を拘束し、警察病院へ送った。

「ワシを後にするとはけしからん!」

 けしからん警官は二の腕をかすった程度の傷だったため、担架で運ばれることはなかった。


 その頃、旅館・大蛇の首では、女将らが逮捕された。

「お前ら任意だろ! 任意だろ!」

 女将の悪足掻きは、笑い上戸の刑事に捜査令状をチラ見させられると終わった。


 事件の顛末はこうだ。

 平成の始めの頃。旅館を始めた初代旦那の八坂やさか八郎はろうは、今の女将と娘の若女将と、娘婿の板前と慎ましく経営していた。


 事件が起きたのは令和になった時である。旦那の八郎は突如血を吐いて亡くなったのだ。その時に畳の上にできた血の跡が、たまたまヤマタノオロチの姿に酷似していたので、女将はオロチの祟だと騒いだ。

 それからというもの、徐々におかしくなっていく女将。令和の世から振り返れば平成など歴史のあぶくよ、などと意味不明なことを口走りだした。

 やがて、従業員の数が8人を超える日がきた。若女将は旅館が栄えていくのを喜んだが、女将はそれを叱咤する。若女将に何度も何度もヤマタノオロチの心を諭す。

『我らはヤマタノオロチの落胤よ。力ある8人を除けば、存在してはならんと思うよ』

 毎日毎日、女将がうるさく言うのを相手にしなかった若女将たち。だが、事態は急変する。


 若女将の婿の板前が気に入らない見習いを包丁で滅多刺しにしたのだ。悩んだ末に事件を隠蔽するため、遺体を山に埋めることにした大蛇の首旅館。ここで、女将が呪い呪いと騒ぐのを利用して、従業員は一致団結してヤマタノオロチの呪いを吹聴して回った。反対に何故か女将だけは、自首しようよと言って聞かなかった。しかし、若女将に押し切られ、怪しい呪いを受け入れることにした。

 板前は、それからも何人も惨殺した。その度に旅館の人数は8人に戻る。


 そんな事件である。

 根蔵らは警察で事情聴取を受けた。その日は、警察に泊まることになった。

「しかし、今日は衝撃の1日だったな」

「根蔵はん、ワイは幸せや!」


『次回第二部「全国化石発掘バトル」開始』

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