オロチの化石と呪い
第6話 奈良からの挑戦状
葉化嵐博物館へと戻った発掘隊は、びしょ濡れの服などお構いなしに人魚の化石を観察しだした。木枯館長の影響が強くなってきている根蔵と牛麿。
「ふむ、このヒレは……」
「口は魚かな?」
「所々に人間が混ざって、中々のカオスやー!」
ルーペを片手に3人が顔を寄せる。人魚の化石は中々のカオスである。その他の化石も隈無く観察する。
その日は、人魚の化石について研究を進めるために、木枯館長の母校の大学に解析を依頼した。
翌日、発掘隊は休む間もなく山奥まで銀色のハイエースを飛ばした。木々の生い茂る道なき道を行く発掘隊。木々が太陽を遮り、湿った地面からは腐葉土の匂いがする。
今日は電気付きヘルメットにスコップを背負い、長靴で枯葉をパキパキと踏み付けながらの移動。まるで、遺体を埋めに来た殺人鬼である。
「この辺だ!」
根蔵が大地を指し示した。発掘隊は枯葉をスコップで払い除け、一心不乱に穴を掘り出す。そこから現れたのは……。
「やっぱり、ダンゴムシが3匹串に刺さったような生物だ」
「ふむ、新種の生物だね」
「ホンマもんのダンゴムシ三兄弟や!」
発掘隊は周囲の化石もことごとく掘り起こし持ち帰る。
その日の夜、ぬうっと博物館に現れた発掘隊。合鍵で中に入ると、例のごとくまたダンゴムシ三兄弟の観察に入った。その虫は、三葉虫の子孫ではないかと木枯館長は推測した。他の化石も隈無く観察。
その次の日は、なんと、根蔵と牛麿の担任の凶先生の家の庭であった。兎の頭にウニの体の幽霊が視えたと根蔵が言ったのである。凶先生の家のチャイムを押す。
「なんじゃあ根蔵、こんな朝っぱらから!」
「実は、先生の家に化石がありそうとかで……」
「なら早くしろや! 学校に行く前に子猫ちゃんにエサをやらねえと。餓死ったらまずいからな」
発掘隊は凶先生の庭をスコップで掘り出した。凶先生の家は、二階建ての一軒家で、庭にシクラメンとなでしこを植えている。その花壇を容赦なく掘り起こす発掘隊。化石を掘り起こす時は、3人とも人が変わってしまう。
シクラメンを全滅させてから、なでしこの花も無造作に掘り起こす。すると、兎頭にウニの体をした化石が現れた。
「出た! 俺の言った通りのやつ」
「ふーむ、なんとも面妖な」
「このエイリアン、子どもが見たら泣くでホンマ」
翌日は、口が7つある貝を見付けた。その翌日は、首が8つある狐の化石を発掘。毎日毎日、怪しい生物を見付けていく発掘隊。もはや、古生物学というより、化け物掘り起こし隊である。
特に発掘隊が気に入っているのが、脚がクモのように8つある、猫の化石である。根蔵がその幽霊を発見した時、その猫はこちらを見て微笑んだそうだ。クモのようにピョンピョン飛び跳ねては、自らの化石の周りを飛び回る。
「おお、また何とも言えんものが出てきた」
「あの幽霊……白猫だった」
「これがホンマのニャランチュラやー!」
ニャランチュラと名付けられたこの古代生物は、今年の夏に大人気となり様々なグッズが作られることになる。
数々の新種の化石を発見した木枯館長率いる根蔵と牛麿、発掘隊は、次第にその界隈で有名になっていく。その評判は、奈良県奈良市にも届いた。
奈良にも、やはり有名な少年発掘隊がいた。
「ホンマにこいつら調子にのってんで!」
少年の名は、
「一度俺らが上には上がいるってこと示したらんなアカンな」
鉄アレイを上げているもう1人の少年の名は、
「ほなら、こいつらに挑戦状送ったろやないか」
「でも斑鳩、こいつらもお前みたく何か力持っとるで多分」
「はっ! そんなもん、俺の超能力でねじ伏せてくれるわ」
「俺のパワーでひねり潰してくれる。……しばらく東京にいたせいで奈良弁忘れかけとるな俺ら」
斑鳩と万力の2人は、葉化嵐博物館へ挑戦状を送ることに決めた。内容は、某日某所にて時間内にどれだけの化石を掘り起こせるか勝負をしようである。2人も奈良ではわりと有名な発掘隊で、チーム名は、大和・
公家泥発掘隊の2人は、手紙を出そうと息巻いて挑戦状をポストに入れた。しかし、投函してから気付いた。切手を貼り忘れていたことに。少年たちは郵便局へ直行した。
「おっちゃん! 切手くれや」
「こん中から選び」
色とりどりの古墳が印刷された切手を出された。
「うーん、迷うな斑鳩」
「そんなんどうでもええやろ」
適当に選んだ切手を買うと挑戦状やっと郵送できた。
その挑戦状を受け取ったのは、7月1日であった。寝袋を持ち込み泊まり込みで化石を観察していた根蔵と牛麿。そこへ、髪がボサボサの木枯館長が封筒を持ってきた。
「君たちに手紙だよ。奈良からだって」
手紙を受け取って開封した少年たち。中を読んで鼻で笑った。
「牛麿、なんかわけわからないもん届いたぜ」
「何やこれ、化石発掘勝負って、墓荒らしを競技化する気かいな」
2人は最初、取り合わなかった。だが、次の日にも送られてきた手紙はそういうわけにはいかなかった。中には、根蔵と牛麿が見付けた化石はインチキだと決め付けてあった。
「これは見逃せないな」
「ホンマに舐めとんなこのアホ」
次の日に送られてきた手紙は、別の意味で見逃せなかった。それは、島根のある山でヤマタノオロチの化石を見付ける勝負をしようと認められてあった。
「ヤマタノオロチか……面白そうだな」
「見付けてしもたらどないしよ。スサノオに申し訳たたんわ」
ヤマタノオロチの化石は、2人をやる気にさせた。
木枯館長にそれを伝えると、学芸員たちに有無も言わさず島根へ向かうことに決めた。発掘隊は、銀色のハイエースに乗って島根まで旅をした。
「ところで根蔵君。その、公家泥発掘隊というのは何者だい?」
「よく分からないんだが、奈良に斑鳩王丸と万力豪力っていう化石の発掘隊がいるらしいんだ」
「ほんで、そいつらにヤマタノオロチの化石探しを挑まれたんやで」
運転しながら木枯館長は静かに頷いた。
「それで、その公家泥発掘隊に勝負を受けると手紙を出したのかい?」
「ああ、奴らのホームページに書き込みをしといた。返事もきているぜ。『掘り倒してやるで』ってな」
「ホームページの名前は『化石は生き生きとドットコム』とかおかしいやっちゃで。皆死んでんのにな」
途中、サービスエリアに何度か立ち寄った発掘隊。そこでも、彼らは化石を見つけ次第掘りだす。
そんなこんなで、島根まで辿り着いた。雲南市木次町のある旅館で公家泥発掘隊が待っている。
「ところで根蔵君、牛麿君。君たちはなんて名前の発掘隊なんだい?」
根蔵と牛麿は顔を見合わせ考えた。しばらく思案する2人。ふと顔を上げた根蔵が言った。
「坂東・
珍しく照れたように笑う根蔵。牛麿は微笑むだけでなにも言わない。
「いいと思うよ。なるほど、最初に地方名を入れて後にその土地の歴史を入れるのか。坂東は関東で、武者文化の盛んな関東とがむしゃらをかけているね」
根蔵率いる発掘隊、坂東・我武者羅発掘隊の誕生である。
山の中、最近新しくできたと噂の大蛇の首という旅館が見えてきた。その駐車場にハイエースを駐車するが、バックをしすぎて柵を僅かにへこませる。
「お約束や!」
『次回「出雲の大蛇旅館」』
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