第3話 葉化嵐博物館
古田の家にボイスレコーダーを仕掛けた根蔵と牛麿。2人は明日の学校に備え早めに寝た。
翌朝、根蔵と牛麿は学校に登校した。学校は騒がしく、とことん学級崩壊を起こしていた。2人のクラス、5年1組の先生の名は、
凶先生がいつも言っているクラスの心得は『目には目を歯には歯を』である。行動に責任を取れという意味らしいが、復讐を許す当たり相当な問題教師だ。
「お前ら! この問題解いてみろ!」
凶先生が黒板を叩いた。だが、誰も答えない。
「たくっ! ダリーな」
凶先生は教室の隅っこへ行くと、壁の隅でビールを飲みだした。
根蔵と牛麿はコソコソと昨日仕掛けた罠の話しをする。
「今日はあの野郎はいないはずだ。ボイスレコーダーを取りに行くぞ」
「ホンマ、えげつないなあ」
放課後、2人は鞄も持たずに古田の家に直行した。古田の家には、家政婦がいたので忘れ物をしたと言って中に入れてもらう。難なくボイスレコーダーを回収した彼らは、悠々と引き上げた。
さっそく、牛麿の部屋でボイスレコーダーを聞いてみた。古田は、同じ大学の古生物学の権威に電話をかけた。思った通り、金の話がすぐに出た。
「くそ野郎」
「ホンマあかんやつや」
電話の内容はこうだ。金づるが化石の大量に埋まっている地層を見付けたからそこの化石を一緒に掘って売りさばこうと。
『クソガキは適当に騙しておけばいい。しょせんガキの言うことだ。我々大学教授の社会的信用に比べれば吹けば飛ぶような塵と同じよ』
古田の人を馬鹿にしたような声を聞くと、根蔵は思わずボイスレコーダーを投げ付けそうになった。
ボイスレコーダーは、古田が数人の仲間に電話をかけたのを録音していた。
「こいつらが黒だ。この集まりは影で何をしているか分かったもんじゃない」
「根蔵はん。古田の仲間にはアカン大学の教授がおるで。オトンから聞いたんやが、自分の教え子の功を盗ったのがバレそうになった時、保身のために教え子を自殺に追い込んだ奴もおるで」
2人は、古田の黒い友好のリストを作った。そのリストに載っていない古生物学者こそ、恐らくではあるが彼らが求めたまともな古生物学者であるからだ。
根蔵はインターネットで検索してみた。すると、案外近くに頼りになりそうな男がいた。
「
「それ以外はどないや?」
「ここの館長は……白だ。他の博物館は全滅。木枯だけが頼り……かな」
根蔵は葉化嵐博物館へ電話をかけた。電話応対の人が出てきたので、自由研究で館長に聞きたいことがあると言って会う約束をした。
「……以外と簡単に会えるな」
「根蔵はん、明日学校やで」
「知るかんなもん」
翌日、2人は、リュックに化石を詰めて葉化嵐博物館を訪れた。
博物館の裏に通された彼らは、応接間に通された。応接間の黒革のソファに座り、ガラステーブルの上に置かれたアイスコーヒーを飲む。壁一面に貼られた古代生物の想像図に何やら書き込みがしてあるのを根蔵は見逃さなかった。
「相当なオタクだな」
「根蔵はんも卑怯なことのオタクやないか」
応接間の奥の扉が開いて、目の下に隈のある男が入ってきた。
「君たちかね? 私に会いたいというのは」
隈のある男は、低い声で尋ねてきた。
「ええ、僕の名前は根元蔵志です」
「ワイの名は環状線牛麿いいます」
男は突然白衣を靡かせ2人の前まで来た。男は、顔を2人に寄せ自己紹介を始めた。
「私はここの館長で
「は?」
木枯館長は戸惑う根蔵などお構いなしに古代生物のことを語り出した。立て板に水の如く化石のことをしゃべりまくる。
最初は興味なさ気に聞いていた根蔵と牛麿であったが、次第に化石と古代生物について興味が湧いてきた。木枯の情熱に感化されたのであろう。
「……で、炭素年代測定法の話は以上だ。どうだったね?」
「素晴らしかったです! 木枯館長」
「ホンマ感動して、化石だけに仮性近視治りそうですわ」
彼らは、完全に木枯館長の影響を受けた。
「それでは、実際に博物館の化石を観るかね?」
2人は是非と返事を返すと、木枯館長より先に立って扉の所へ歩きだした。
「俺、古代生物に興味湧いてきたぜ牛麿」
「ワイもや。なんや最初はこんな汚げな石、なにありがたがっとんやって思ったで。それも、古臭い時代遅れの下等生物の遺体が詰まったやつをや」
「そこまで毛嫌いしていたのか」
「でもな、下等生物ゆうても汚いんは体だけや。人間みたいに心は汚うないからな。でもワイは、人間の心の闇みたいなんを覗くの大好きやけどな」
「さすが、サイコーだな」
博物館の展示物である化石をシゲシゲと見詰める。化石の周囲にはその化石から抜け出した幽霊が漂っていた。幽霊は自らの肉体から離れたくないようだ。
「思った通りだ」
「おるんか?」
根蔵は黙って頷いた。
木枯館長の手引で化石の展示を見学して周る。話を聞く内に最初に見付けた化石は新種であるとの確信が強くなってきた。
「それから! 化石は心だ」
「木枯館長、ちょっとお聞きしたいことが」
「なんだ? 化石を眺めながらおやつでも食べたいのか?」
「いえ、化石の件でお話があって……ちょっとここでは」
「うむ」
木枯館長は頷き、根蔵と牛麿を館長室へ招いた。
館長の部屋は、化石まみれであった。アンモナイトを象った直径1メートルほどのテーブルに、アノマロカリスを象ったアロマキャンドルを乗せていた。アノマロカリス・アロマキャンドルに火を灯すと、少しずつ溶け出して、ゾンビ化していった。それは、本当に化石に愛情があるのか疑いたくなる光景だ。
木枯館長はカーテンを開けた。よく見ると、カーテンには数匹の恐竜の絵があり、恐竜は全てがウインクしている。
「して……話とは?」
「実は……」
リュックサックから黒いビニール袋を取り出した。眉根を寄せて木枯館長はビニール袋を見詰める。
「これです」
以前見付けた新種の化石を木枯館長へと手渡した。木枯館長は、化石をテーブルに慎重に置くと立ち上がり、窓際の本棚へ手を伸ばす。
「これも違う……アノマロカリスでもオパビニアでもない……」
「あの」
「ふぁ! ああ、根元君か、君がいることを忘れていたよ」
木枯館長は図鑑を広げて少年2人へ見せた。そして、図鑑のどの古生物ともこの化石は違うのだと興奮気味に解説する。
「わぁ! 何を言ってるのか分からんわ。昔の生き物なのに新種やて!」
「牛麿、ちょっと黙れ。木枯館長、やはりこれは新種の化石なんでしょうか」
木枯は目を見開いて顔を2人の前に交互に寄せる。
「根蔵君、牛麿君、こここ、これは世紀の大発見だだだ!」
「館長がぶっ壊れたでー!」
「牛麿! 口を閉じてくれ! 木枯館長、その化石が新種だと確定するまでどれくらい……」
「すぐだ! まず学会に発表して……いや、まずは新聞社に」
木枯は机の上に置かれたアノマロカリスのアロマキャンドルに頬ずりし、祈るような手付きをして目を閉じた。
『次回「霊感古生物発掘法」』
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