第10話 振り返り
日が沈み、人々が眠りに着く頃合い。人間界リエール王国に滞在する魔王たちはここエンデラに宿を借りていた。ここ数年の分の宿を取ったがもちろん俺たちにそんな金はない。グリューネの領主クインツに手配させたものだ。
その宿でレフィレトスとラクリアは魔王の部屋に集まり人間界に来てから知り得た情報の交換を行なっていた。
「なるほどな。俺がいない間にだいぶ人族の世界になれたようだな」
「はい。これも全部ジュン様のおかげです」
わざわざ別行動させた甲斐があったようだ。
「では本題に入る。今日出会った人族、剣聖リディエス、魔法使いのガイネスとアイリスのことだ。彼らはこの世界の人間の力を測る良い物差しになってくれただろう。お前たちは俺と共に幻術の外から彼らの様子を見ていたはずだ。まずはお前たちがどう思ったか率直に聞かせてくれ」
「では初めに私レフィレトスが発言したいと思います。まずリディエスについてですが、彼は間違いなく強者だと感じました。彼の持つ聖剣の強さはもちろんのこと彼が積み重ねた剣技と合わさり一対一の剣による勝負で勝つことはかなり難しいと思いました」
事実俺すらも剣技では押されていた。剣聖の名の通り、そしてかつての朋友第Ⅵ世界のレンのように凄まじい剣撃であった。
「加えて光元素の魔法を行使出来ることから対魔族に特化していると思います。当然この程度の魔法でジュン様にダメージを負わせられるとは微塵も思いませんが」
「そうだな。彼が言ってた事が信じるなら第六天ヴァヴだったか。悪魔との戦闘だと第七天相手にも届いてもおかしく無いと俺は思う。俺の幻術が作る死神が手も足も出ないのは想定を超える結果だったな」
「本当はジュン様がお出になることを私は反対したかったのですが私やラクリアでは正体がバレる可能性が高かったでしょう。申し訳ありませんでした」
当初の予定では俺は前線に出ないことになっていた。幻術で作り出した死神は第五天ヘルに相当する。魔界ですらヘルを超えるものは数少ないのだから人間界では一都市を滅ぼすのに十分な戦力と判断した。しかしながらリディエスの強さが俺たちの想定を上回り俺を出させた。
「良い。ああいったことは俺の得意だ。しかし俺が出たことでリディエスの力はかなり引き出せたはずだ」
「剣聖リディエス・アーベルン。アーベルンの名から察してはいましたが、まさか第六世界の剣聖レン様と同じ戦い方でありましたね」
レン・クレス・アーベルン、剣聖の家系で第六世界最大の勇者。その名を聞いて彼を連想しないものはいないほどレンの名は強い意味を持つ。
「しかしまさか
「一体なんでしょうか?」
「
「なるほど。直接レン様とお会いしたことが二度しかない私ではわかりませんでしたが、さすがはジュン様です。《Ⅸの支配》の中で一番レン様との関わりが多かったジュン様だからこそ気づけたことですね」
確かにレンが生きていた時はかなり関わりを持っていたな。何度共闘したことか。何度一対一で戦ったことか。レンのことはそれなりに理解しているつもりだ。いや、
「それで他の連中はどうだったか?俺がリディエスと戦っている間、ガイネスとアイリスの様子は見ることができなかったからお前たちの意見が重要になってくる」
俺の幻術は効果範囲の外から見る分には問題ないが範囲領域に踏み込むと同時に何も感じることができなくなる。仮に一対複数での戦いで使用するなら一が範囲内に入ることはまずあり得ない話だろう。
「はい。ジュン様がおられた時にすでに結果はわかっていましたがやはりアイリスは死神を倒す手段を持ち合わせていませんでした。基本となる魔法は水元素。攻撃力は皆無と判断して良いかと」
「水元素か」
脳裏に描かれるは水の国の姫。多種多様な芸は実に妖艶で魔法としての美しさは間違いなく全世界でも比肩するものがいない女。第八世界の王女、<第Ⅷ支配階級>レイア・クラネス。
「最後にガイネスですが、観測することができませんでした」
「どういうことだ?俺が見た時は戦闘はまだ始まってはいなかったものの、ガイネスの姿ははっきり捉えられていたはずだ」
「それが……戦闘が始まると同時に黒いモヤがかかり何も見ることができなくなりました」
「それは妙だな」
もちろん俺ん幻術を破る方法は存在する。しかし今回に限っては幻術が破られた形跡はなかった。だとすると……
「レフィ。ガイネスの使う魔法は何だったか?」
「確か火元素だったかと。実際に迷宮内の低レベル魔獣を倒している時に火元素の中級魔法を使っているところを見ました」
「そうか。これは見当違いだったか。もし闇元素を使うなら空間改変で幻術内にさらに壁を張ることが可能だったのだがな。いや空間改変を使うならその残穢でわかるか。しかしながら闇元素は本来、隠密行動において本領を発揮する魔法元素だ。空間改変以外にも姿を隠す魔法は数え切れないほどある」
火元素か。そうならば視覚を遮るのに適した魔法はかなり限られる。しかしそのどれもが扱うには難しくあの死神を前に使えるものではないはずだ。
それにしても何故あの場で視覚を遮る必要があった?まさか幻術に気付いていたのだろうか?いやその可能性は低い。俺の幻術は現実との境がかなり曖昧なほど知覚することがかなり難しい。
「現段階では判断しかねる、それが結論だ。これからガイネスと関わる機会が増えると思うがやつの動向には注意しておけ。低位魔獣を倒した時はかなり程度の低い魔法を選んでいたはずだからまだまだガイネスの魔法を引き出せてはいない。何かあったら逐次報告しろ」
「わかりました」
「ラクリアは何か感じたか?」
忘れていたわけではないがレフィとの会話で彼女に言葉を掛ける時間を取れなかった。その間、棒立ちになって会話の内容を聞くだけにさせてしまった。
見た目が幼いため内容を理解出来ているのかわからないが彼女も魔王の配下。しかもその幹部に当たる8席。それ相応の力と知恵を用いなければ務まらない役職だ。彼女の意見も交えて初めて結論を出す方がより良いはずだ。
「そうですね……えーと……」
ラクリアは首を傾げて数秒考え込む。声を捻らせて悩み一生懸命今日怒ったことを細かく思い出す。
「全くわかんないです!」
聞いたこと自体が間違いだったか……無垢な笑顔で元気よくそれを言われてはこちらももはや何も言う気が起きない。
「そ、そうか……まあよい」
「ラクリアらしいですがもう少し頑張って欲しいものですね」
レフィレトスすらも呆れた様子だ。
「じゃあ話はこれで終わりだ。最後にお前たちに言っておくことがある。これからのことだ。俺たちの目的は引きこもりの国王に会い、人族を俺の下に取り込ませることだ。クインツからの話によれば一般人が国王に接触するには方法が限られていて、その中で最も俺たちに適しているのがこの学園を使ったやり方だ」
「著しい功績を為せば良いと以前仰っていましたね」
「そうだ。その時は漠然とした言い方だったが少し具体的に言うと来月行われる魔法祭の大会での優勝などだ。そこらへんは俺がこなしてみせるからあまり気にする必要はないがそれに伴い色々なサポートは手伝ってもらうやもしれん」
「お声をいただければいつでも」
「まあ今は人族の観察を続けてくれれば構わん。ガイネスを筆頭に魔法を観察し、我々に匹敵するような人族、人族特有の魔法などを調べておけ」
「かしこまりました」
「ラクリアもな?」
「わかりました!」
ラクリアの元気な声を最後に夜の会議は幕を下ろした。魔王たちの学園生活初日はここで終わり、二日目を迎えるのであった。
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