EP.2「歪な楽園」

第17話「誰かの記憶」


 −−−−1発の銃声が鳴り響いた。


 ここはどこかの研究室のような一室。

脇には大型のガラス張りのカプセルのようなものが並び、何人もの赤子が培養液に浸されていてる。


 部屋の中心、その奥には、同形状の培養槽が一際目立つように置かれている。同様にその中には赤子が培養液に浸されている。


 大事に置かれているその培養槽に、這いずりながら近づいて行く、純白の白衣を身に纏った女性研究員。


 彼女が通った跡には、夥しい量の血痕が床に付着していて、這いずりながら進んでいくその様子には、ある種の執念ようなものが感じ取られる。


 培養槽に、決死の思いでなんとか辿り着く女性研究員。油断すればすぐにでも事切れそうな、朦朧とした意識の中、その手を震わせてガラス張りの培養槽に触れる。

 培養液に浸されている赤子は、何があったかなんて、最後の力を振り絞る彼女の存在になんて、一切気づきもしない。


 それでも、彼女は触れられない大切なその存在に、掠れながらも優しさを感じ取れるような声で語りかける。



「……強く……生きて……」



 −−−−何者かの記憶の映像は、そこで途切れた。





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