第15話「奴ら」
夜。3人は街の外れにある広い更地へと来ていた。
こめかみに手を当てるエヴァン。脳内で、誰かに呼びかける。
「私だ。光学迷彩(ステルス)を解いてくれ」
すると、何もなかったはずの更地に、赤いラインが張ってある、白銀の海賊船のような船(以下『方舟』と称する)がみるみると姿を表す。
中から先に帰還していたミーナが出迎える。
「みんな、お帰りなさい」
「ただいま。アルは?」
ミーナはクスッと笑って答える。
「……疲れたって言ってもう寝てる」
「……あいつ……まだやることだらけなのに……」
呆れた様子のカナ。
そんなやりとりを無視して、エヴァンはミーナに尋ねる。
「ミーナ、『彼ら』をそろそろ……」
それを聞いてハッとするミーナ。
「……あぁ、そうですね」
***
ミーナが連れて来たのは、先日エリオットを袋叩きにしたゴロツキ連中だった。
みんな、バツの悪い顔をして、かしこまった状態で並んでいる。
「いやぁ、本当にすまなかったね君達」
「変に因縁を付けられて嗅ぎ回られても嫌だったので……ごめんなさい、もう大丈夫ですよ」
「は……はぁ……」
エヴァンとミーナの含意のある笑顔で、二人はゴロツキたちに詫びを入れる。
「ついでに押収した薬物に関しては私達の管轄外なので追求しませんが…ダメですよ?こんな小悪……悪いことしちゃあ」
「……今、小悪党って言いかけましたよね?」
ミーナは知らんふりをしている。
呆れた目でエヴァンはゴロツキ達見る。
「薬物はいかんな、薬物は。自警団を名乗るならば、悪事に手を染めてはいかん」
「んな事言ったら食ってけねぇですって。強盗よかマシです」
「言い訳がましいな……余談だが、西の鉱山採掘が最近席が空いたらしいぞ?」
「命のリスクがでかいですって!!」
「……どっちも変わらんだろ」
***
ーーーー昨日に遡る。
カナ達がエリオットをゴロツキから救出した後のこと。ミーナは中心街のベンチに座っていた。
ニコリと笑いながら、エヴァンが近づいてくる。
「年頃の女の子が夜中にこんなとこにいて、怖い人たちがやって来たらどうするんだい?」
ミーナはクスッと笑って答える。
「やめてくださいよ隊長。私たち、拐われるなんてガラじゃあないじゃないですか」
「ハハ。それもそうだ。……情報収集の調子は?」
「見知らぬ人間が街に増えたという意見が多数伺えました。どうやら近隣都市の避難民らしいですけど……少し嫌な予感がしますね」
「そうか、やはりもう少し張っておいた方がよさそうだ。他には?」
ミーナは悲哀を含んだ笑顔で答える。
「……私たちの悪口なら、いくらでも。聞きます?」
エヴァンはバツの悪そうな顔で答える。
「……遠慮しておこう」
その時ミーナの脳内でカナの声が響く。
「どうしたの?……うん、わかった」
ミーナはベンチから立ち上がる。
「どうした?」
「カナちゃん達、ちょっとやんちゃしちゃったみたい」
***
裏路地にて、ゴロツキ達は目覚めた途端にミーナ達によって叩きのめされ、再度意識を失った。
最後に生き残った、逃げるゴロツキの背中に、可愛らしい容姿からは想像のつかないようなスタイリッシュな飛び蹴りをお見舞いするミーナ。ゴロツキは思いっきり奥に吹っ飛んで倒れ、起き上がろうとした直後、ミーナは素早く背中に乗り上げる。
最後のゴロツキは思い切り後ろから締め上げられて、泡を吹いて気絶した。
彼女は、事切れたゴロツキの上体を雑に地面に投げつけて立ち上がる。
エヴァンは、小柄でいつも大人しめな彼女の凶暴な姿に少々引き気味だ。
「……どうした? 機嫌悪いのか?」
返り血を浴びたミーナが振り返って、ニコッと笑って答える。しかし、目は一切笑っていない。
「いえ、絶好調です」
ゴロツキの顔を、片足で踏んで遊ぶミーナ。エヴァンはそれを見て絶句し、血の気が引く。
「いいですね、この人たち……。なぁんも考えなくていいや。」
彼女は軽々しくゴロツキをひょいと持ち上げる。
「さっさと運んじゃいましょう」
こうして、エリオットを追って事態をかき乱す恐れのあるゴロツキ達は、彼女達の任務が終わるまで方舟内にて監禁されていた訳であった。
***
先ほどの更地にて。
「メンテ終わったってよ。もうそろ出発だ」
カナの元にヨクトが歩いていくる。
「んで、ちょいと朗報」
ヨクトは耳に人差し指を当てる仕草をとる。すると、カナに耳鳴りが走る。耳鳴りが走った直後、カナの脳内に、次に着手するはずだった任務の情報が流れてくる。
「……なんだ、次は中止か」
「ああ、補給ついでに一旦帰還だとよ」
呆れた目をヨクトに向けるカナ。
「朗報ってお前……」
「んだよいいじゃねぇか。こちとらたった七つの部隊で全都市中周ってんだぞ。」
眉間にシワを寄せるカナ。
「……まぁいい。それなら捕らえた奴らから記憶を……」
「消されたよ。あいつら」
突如現れたアルジャーノの一言に、一瞬混乱するカナ。
「俺達が中央で戦闘中にだ。廃倉庫の床から暗黒物質の砂粒が少量検知された。」
「……は?どういう……」
アルジャーノは空を見上げる。
「奴らは、俺らよりよっぽど甘くねぇって事じゃねぇかな」
***
薄暗い老朽化した神殿のような場所。
大きな広間で、なにもない場所から黒い稲妻が激しい音を立てて発生し、空間が歪む。歪んだ空間から、誰かが現れる。先日テロリストの残党を抹消した覆面の人物だ。
「ただいま戻りました。『太陽(ラー)』」
『太陽』と呼ばれたその男は、古びたローブを羽織っており、顔は見えない。
「……どうした?随分と遅れたではないか」
覆面の男は両手を広げてやれやれといった仕草で答える。
「早合点をしたバカを始末してきたところです。いくらでも替えの効く『歯車』ですので、どうかご安心……を?」
太陽と称される人物から発射された暗黒物質の棘を、同じく暗黒物質の壁で咄嗟に防ぐ覆面の男。
「うわぁ……ちょっとちょっと」
太陽(ラー)は腰掛けていた椅子からゆっくり立ち上がり、彼にじわじわと近づいていく。
「何ピリピリしてんですか。おっかないなぁもう。……そんな目しちゃって」
太陽と称される人物の目は、ローブのフードから見え隠れしているが、充血していて怒りと怯えが見られる。
「……貴様……ここ一年でどれ程の損害を出したと思っている?『女狐(ヴィクセン)』、『猟犬(ガンドッグ)』、『鬼神(オーガ)』、全て奴らの手に堕ちた。一体何度失態を晒せば気が済むのだ貴様は⁈」
暗黒物質の壁に隠れながら、覆面の男は軽口を叩く。
「えー、全部僕のせいにされても」
「教育係は貴様だ!!」
怒号を浴びせる『太陽』に物怖じせず、軽々しい口調で答える覆面の男。
「……やだなぁ。『鬼神』に関しては彼の暴走の結果だったはずでしょう? 勘弁してくださいよあんな動物園管理するの、ホント大変なんだから」
覆面の男の話が頭に入っているのか入っていないのか、太陽は小声でぶつぶつと呟いている。何か策のような物を練っている様子で、その目は怯えきってる。
その様子を見て、しばし思考したのち、口を開く覆面の男。
「……心配症ですね。安心してください『太陽』、リラックスリラックス。『賢者(ワイズマン)』が、今面白いモノを作っています。現在実験と試用を重ねている段階ですが、完成すれば強力な兵を蟻のように増やすことが可能でしょう」
目の色が変わる『太陽』
「……実用化は?」
簡潔に答える覆面の男。
「直に」
「そうか、次の失敗は許さぬぞ。『英雄(カリスマ)』」
英雄(カリスマ)と呼ばれたその覆面の男は、広間を去っていった。
ーーーー神殿の外。神殿は古代の中東地方にあった神聖な建造物を連想されるかのような巨大な造りだ。
「……ダッセぇ暗号名(コードネーム)」
『英雄』は、神殿をじっと見つめている。
彼は、覆面を鼻のあたりまで片手で外し、挑発するように舌を出した。
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