第20話
「ここから、この英文は過去から継続して起こっているって読み取れるのよ」
百合が懇切丁寧に文法の仕組みを説明してくれる。
「なるほど」
俺は相づちをうちながら彼女の説明を聞く。
クラスメートの大半が放課後ということもあり、教室には残っていない。俺は教室で彼女に教えてもらっている。
「しかし、ほんと教えるのうまいな」
「そう?」
キリのいいところまで終わり休憩中に百合に言う。
「ほんと玉木さんうまいよ」
富士川も俺の意見に同意する。
「めちゃくちゃ分かりやすいよな」
「先生よりもうまいんじゃないか」
俺達は言葉を続けていく。
「分かったから!それ以上言わなくていいわよ」
俺達の言葉を遮り百合が言う。
その顔は照れによって赤くなっていた。
百合はあまり正面からほめられることになれていないのだ。
俺達は彼女の反応をニヤニヤしながら見ていた。
「そこまで言うならもっと問題だそうかしら」
俺達の反応を見て彼女は笑いながら言う。
いつもの明るい感じの笑みではなかった。
「い、いやそこまでは大丈夫だよな。富士川」
「そうそう、玉木さんも大変だと思うよ」
慌てて否定する。
「全然大変じゃないわよ?」
微笑みながら返す。
「ほら、特別にこの問題もやりなさい」
慈悲はなく百合から分厚い紙束が渡される。
「あの…これは?」
「私が用意している問題集」
サラッと言う。
「自分で作ってるのか!?」
「そうよ」
さも当然のような顔だ。
(嘘だろ…)
俺と富士川は顔を見合わせる。
「でも残念なことにこれ一部しかないのよね」
残念そうに百合が言う。
「いやでもこれはもともと自分でやるようだろ」
「心配しなくても家にはまだ同じのあるわよ。これは学校で暇な時間にやるよう」
(用意周到すぎるだろ…)
幼なじみの勉強への取り組みに乾いた笑みが出てくる。
「ならここはやっぱり今回厳しい南条がやるべきだな」
俺が口を開く前に富士川が紙束を渡してくる。
「いやいや、ここまで手伝ってくれた富士川にはもっと上を目指してほしいから活用してくれ」
俺も突き返す。
「もう一部用意しておけばよかったわね」
百合が満面の笑みで俺たちを見る。
(鬼だろこいつ)
俺は信じられないようなものでも見るように百合を見る。
「どうしたの薫?」
「いやなんでも…ってそれよりもどさくさに紛れて俺の前に置くなよ!」
少し目を離したすきに富士川に突き返していた紙束が俺の目の前にあった。
富士川はとぼけている。
(こいつ…)
「そうだ」
このままではらちが明かないと思い、百合に向き直る。
「ここは百合に決めてもらうのはどうだ。この問題集を用意してたのは百合だしな」
「ああ、文句はない」
富士川も反対することはなかったので百合に託された。
(わかってるよな)
俺は目で百合に合図を送る。
百合はにこっと俺の合図に応じた。
(さすが幼なじみ、言わなくてもわかってるな)
百合が口を開く。
「富士川君」
(勝った)
俺は勝ちを確信する。
「申し訳ないんだけど今回は薫に譲ってもらえる?」
百合は続けていった。
今なんて???
「もちろん、いいよ」
富士川は助かったとばかりに笑って応じる。
「そういうわけだから、頑張ってやりなさいよ」
百合はそう言うと百合特性問題集を俺に渡す。
(なんでだ…)
「はい…」
俺は弱弱しくも百合から受け取るのだった。
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