第19話 勉強会
<火曜日>
「英語教えてくれないか」
学校につくなり富士川に頼む。
「俺でよければ教えるぜ」
悩むそぶりもなく即決する。
「助かる」
(これで何とかなるだろう)
大丈夫そうだとひとまず安心する。
「じゃあ、昼休憩にでもすこし教えてもらえるか」
「分かった」
「だからここは、過去完了形なんだって」
「だからなんでだよ?!」
「それはこの文は今起こっていることじゃなくで過去のことだから」
「どこからそれは読み取れるんだよ」
「文章全体から」
(さっぱりわからん)
勉強をするために今日はいつもの屋上で昼食は食べず、クラスでさっさと済ませた。
教えてもらって分かったことがある。富士川は勉強を教えるのは苦手らしい。感覚的にわかるという。
「とりあえず、解いてみる」
俺は気合を入れなおし、問題に取り組む。
「そこも違うぞ」
「くそーーー!」
富士川の辛らつな言葉にダメージを負う。
「なあ、俺じゃない人に教えてもらったらどうだ?例えば玉木さんとか」
俺の様子を見かねた富士川が言う。
「百合か?確かに勉強はできるが、教えてくれないだろ」
「一度頼んでみたらいいんじゃないか。同じグループだし助けてくれるだろ」
「う~ん、なら一応聞いてみる」
渋々ながらも背に腹は代えられないので頼みに行くことにした。
「あのさ、百合」
百合は弁当を食べ終え、皇さんや早稲栗たちのグループで談笑していた。
「なに?」
「英語を教えてくれないか。少しばかりできなくて」
「は~~~」
大きなため息が聞こえる。
「しょうがないわね。貸し一つね」
そう言って百合はすんなり席を立つ。
幼なじみの予想外の反応に目を見張る。
「何よその目は」
「いや、教えてもらえるとは思って無くてな」
「私を何だと思ってるのよ」
失礼ねと百合が口を開く。
「本当に助かる。できれば今日の放課後とかも教えてもらえると…」
「はいはい、分かるまで教えてあげるわよ。そういうことだからみんなごめんね。この馬鹿に教えないといけなくなったから」
百合が皇さんたちに謝りながらこちらに来る。
早稲栗たちはその様子を傍観し、
「ああ、分かった」
そっけなく返すのだった。
皇さんは何か言いたげな目でこちらを見ていることに俺は気づいていなかった。
「なんだよ馬鹿って、失礼だな!?」
「事実でしょ」
あきれながらも百合は教えてくれることになった。
「めちゃくちゃ分かりやすい」
「当然ね」
「なるほど、そうなってるのか」
百合に昼休憩の十分程度だが教えてもらったが教え方がとてもうまかった。なぜそうなるかの理屈を言ってくれるので、理屈的に考える俺からしたらこの上なく理解しやすかった。なぜか、答え自体はあっている富士川も彼女の説明に聞き入っていた。
「これでテストは何とかなるな」
テストは余裕だと感じ始める。
「まだようやく半分よ」
百合が現実を突きつける。
「は~~~、まだまだか」
まだ半分なのかと気分がどんどん憂鬱になる。
「そんなに心配しなくてもできるようになるまで明日でも明後日でも
教えるわよ」
百合の口から意外な言葉が聞こえてくる。
「お前本当に百合か???」
俺は思わず口から漏れる。
「もう教えないわよ!」
さすがに俺の失礼な物言いに百合が席を立とうとする。
「本当に悪かった。でも百合がここまで手伝ってくれるなんて珍しくてな。なんで急に」
「別に。ただ先週のお礼よ」
顔を背けて言う。
「なんのことだか」
「ごまかすなら別にいいわよ」
おそらくあの金曜日のカラオケのことを言っているんだろう。
「そういうことだから、徹底的に教えるから今日の放課後から覚悟しておくことね」
「お、お手柔らかにお願いします」
百合のにっこりと笑った様子に俺は少しひるむ。
富士川はというと俺と百合のやり取りを何か物言いたそうに見ているだけだった。
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