第16話 グループ決め
<月曜日>
「おはよう」
教室に入ると富士川が声をかけてくる。
「おはよう」
俺は自分の席に座る。
「おはようございます」
「おはよう」
横からは皇さんが笑顔で挨拶をする。
「先日は大丈夫でしたか」
「なんとかね。帰ってからすぐに拭いたから風邪はひかなかったよ」
「それはよかったです」
皇さんは安心する。
心から心配していたようだった。
(そこまで他人の心配ができるってすごいな)
彼女に感心する。
「あれから大丈夫だった?」
百合も近づいてきて声をかける。
「ああ、大丈夫だ」
「そう」
彼女なりに心配だったようだ。
それからも、朝の休み時間を富士川と雑談して時間をつぶす。
(ああ、なんて平和なんだろう。学校に来ると友人がいて、隣にはすごくかわいい皇さんがいる)
自分の今いる環境に満足していた。
(ずっとこのままつづけばいいのにな)
朝休憩が終わり、先生が入ってくる。
ホームルームは事務連絡のため、俺はボーっと聞き流していた。
「最後に、先週も言ったが遠足のための班割りを一時間目で決めてもらう」
…ん???
ある単語が聞こえてきて意識を戻す。
遠足。
それは毎年あるらしく、一年生と二年生はグループごとに街を散策し、夜ご飯も自分たちで用意するという一泊二日の行事だ。泊まる場所は学校が用意するらしい。グループは自由に作れ、最低八人だ。個人行動などできるはずもない。
(おいおい、これはまずいぞ)
俺は冷や汗を流しながら焦る。
あのカラオケの一件以来、誰も俺達に触れることをしない。朝も富士川にはいつも話す人たちでさえ話しかけに来なくなっていた。おそらくあの三人組があることないこと話して回ったんだろう。
このような状況でグループを作れるだろうか。
考えれば考えるほど厳しいと思い始める。
「もちろん俺たちは一緒の班だよな」
後ろを振り向き俺に言ってくるのは富士川だ。
「いいのか」
「おいおい、俺達友達なんだろ。なら一緒の方が楽しいに決まってる」
富士川は断言する。
(なんとかなるか)
彼の様子に俺も前向きに考え一時間目までの数分をつぶす。
一時間目。クラスの大半が動きそれぞれグループを作り始めていた。
俺も富士川と一緒にいくつかのグループに入れてもらえるか聞くがどこも微妙な反応だ。
このままでは俺たちが分かれて人数合わせで適当に入れられるだろう。
(それはごめんだ。せっかくなら遠足を楽しみたい)
必死に周りを見渡すと一人の生徒が近づいてくる。
「薫たちはまだグループ決まってないの」
玉木百合だ。
「ああ、不本意ながら」
「なら私たちのところに入る?」
「本当か」
「そうよ」
「玉木さんありがとう」
「明日は雨だな」
百合の優しさに俺と富士川はそれぞれ別の言葉を言う。
「そんなこと言うなら薫だけ入れないわよ」
「ごめんなさい。入れてくれると助かります」
どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
「初めから素直にそういえばいいのよ」
「はいはい、ところでほかのメンバーは?」
「まだ女の子四人しかいないわ」
「じゃあ、俺たち入れて六人か…ってそれはさすがにまずいだろ!?」
百合の言葉に驚く。
「別に大丈夫よ。私が男の子二人入れてもいいか聞くといいって言ってたし。それに寝るところは別じゃない」
何も問題ではないように返す。
「それはそうだが」
渋々ながらも、入れてもらえるのなら反対する意味もないと判断し、俺たちはそのグループのところへと向かう。
「百合さんが呼びにいっていたのはお二人のことだったのですね」
皇さんがいた。彼女は俺たちを見ると一緒のグループということに喜んでいた。
あとの二人は俺たちの顔を見るとほかのグループと同じように微妙な顔だった。
二人は百合を引っ張り耳元で小さく言う。
(「ちょっと百合、もしかしてあの二人なの?」)
(「ええそうよ」)
(「早稲栗君たちじゃなかったの?!」)
(「そんなこと言ってなかったじゃない」)
三人の会話が聞こえる。
この二人はどうやら早稲栗たちが来ると思っていたようだ。
(言ってなかったって絶対わざとだろ…)
「でも二人は男子を入れることに賛成したじゃない」
「それはそうだけどさ」
なおも曖昧な返答をする。
(「でもこの二人ってあのカラオケの時に問題になっていたんでしょ」)
(もう知っているのか)
この二人とはから部屋は違ったため知らないと思っていたがすでに聞かされていたらしい。
「悪い」
二人の会話が富士川も聞こえていたのか俺に謝る。
「何謝ってんだよ。そのことはもう解決しただろ。それにここは百合が何とかしてくれる」
俺は三人の様子を見守る。
(「薫たちを入れるのは決定事項だから変更はないわよ」)
(「なら私たちは抜けるわよ!」)
売り言葉に買い言葉。どんどん話し合いはヒートアップしていく。
「お二人はどこに行きたいですか?」
友達と一緒になれたことに喜ぶ皇さんは三人の会話が聞こえていないのか俺たちに質問する。
(う~ん、あんまり人がいなくて静かなところがいいな)
「そうだな、、、俺は水族館かな」
「俺は遊園地だな」
(富士川らしいな)
その回答に苦笑する。
「私は散策かしら」
百合も会話に参加してきた。
「もういいのか?」
「ええ、なんとかね。あとはもう二人探さなきゃ」
どうやらあの二人は抜けなかったらしい。なんだかんだ言って仲がいいのだろう。
「皇さんたち、よかったら俺たちのグループに入らない?」
声をかけてきたのは早稲栗だ。明るい雰囲気をまとって近づいてくる。
彼の後ろには彼のメンバーらしき人が続く。男子は早稲栗入れ五人、女子は三人だった。
「どうかな」
早稲栗が聞く。その皇さんと百合に向いていた。二人だけを誘っているようだ。
皇さんが口を開く。
「すみませんが、すでにグループに入っているので早稲栗君たちのところには行けません」
申し訳なさそうに謝る。
「うーん、私も遠慮しておくわ。ごめんね」
百合も手を合わしながら謝る
「そうか」
早稲栗が俺たちの方をちらりと見る。正確には富士川の方を見ている。
「なら全員合わせて一つのグループにしようか」
早稲栗は食い下がる。
何としても皇さんとお近づきになりたいようだ。
「それですと人数があまりにも多いと思いますよ」
冷静に返す。
「だから今回はあきらめなさいよ」
百合が言う。さすが早稲栗と同じ学級委員だけある。はっきりという。
「でも、人数は足りないんじゃないのか?」
俺達の人数を確認する。
「そうね、最低八人だからあと二人探そうとしているところ」
「なら、俺が入ってもいいかな」
「ええ、もちろん!」
「早稲栗君ならどうぞ!」
百合が口を開こうとしたところで先ほどの女子二人が口をそろえて言う。
(俺たちが来たときは真逆の反応だな)
俺はその変わりように呆然とする。
「それならいいわよね」
百合に確認を求める。
「ええ」
「私も大歓迎です」
百合と皇さんの了承を取る。
(俺たちには聞かないのかよ!)
口には出さず心で言う。
「よかった、ありがとう」
結局俺たちのグループは俺、富士川、百合、皇さん、百合の友達(二人)、早稲栗、黒木の計八人となった。
黒木はもともと早稲栗のグループにいたが、早稲栗とともにこちらのグループに移った。
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