第15話
「俺達が最初に話したのはいつか覚えているか」
富士川に質問する。
「たしか…高校初日だったか」
「ああ」
俺は富士川との過去を思い出す。
<高校初日>
「はあ、憂鬱だ」
俺は始業式のために学校へと重い足を動かしていた。
(ちゃんとうまくやれるだろうか)
不安に思いながらも学校につく。
校長先生や生徒代表のあいさつなどを聞き終えた俺は自分のクラスへと向かう。
「また、同じだったわね」
「そうだな…」
話しかけてきたのは玉木百合だ。
「はあ」
自然にため息が漏れる。
「なにため息ついてんのよ」
「うまくやれるか不安なんだよ」
「そのために中学の同級生が少ないようにレベルが高いこの高校に受験したんでしょう」
百合があきれる。
「それはそうだが」
「なら頑張りなさいよ。じゃあ私ももう行くから」
そう言い残し、新しくできたであろう友達のところへと向かった。
(それもそうだな)
そう考えた俺は先生が来るまでの間、自己紹介の仕方を考えた。
ガララ
扉が開き担任の先生と思わしき人が入ってくる。
「さて、まずは入学おめでとうございます。私の名前は…。それではみなさん入学したばかりでお互いのことを知らないと思うので、出席番号一番の人から順番に軽く自己紹介してください。そうですね…名前、出身の中学、趣味、好きな有名人とか自分のことについて話してくださいね」
自己紹介が始まる。
俺は自分の番まで緊張しながら待っていた。
「では次の人」
ついに自分だ。
「はい」
俺は席を立ち、緊張しながらも話し始める。
「南条薫です。中学校は…」
何とか自己紹介はできていた。
(結構いいんじゃないか)
自己紹介の終わりが近づいてくる。
「好きな人というか、尊敬する人は○○です。よろしくお願いします」
最後に尊敬なする人についていい、席に座る。
「自己紹介は終わりましたね。今日は初日ということもあり、これで終わりで。みなさん緊張していると思いますが、高校生活三年間楽しんでくださいね」
話し終えた先生はクラスから出る。
誰もがすぐには帰らず、早速話しかけに行ったりしている。
(よし、俺も行ってみるか)
ちょうど隣に座っている男子に話しかける。
「よろしく、俺の名前は南条薫。」
「あ、ああ、よろしく」
話しかけた男子はそっけなく返す。
「やっぱり高校の初めは緊張するよね」
「そうだな」
ガタっ。
隣にいた男子はこれ以上話したくないとでもいうように席から離れた。
(あれ?なんで?)
「自己紹介が良くなかったわね」
百合が話しかける。俺のやり取りを見ていたらしい。
「何が良くなかったんだよ」
「あなた、尊敬する人を○○っていったこと」
「それが?」
「それってあんたの好きな漫画の主人公の名前でしょ。自己紹介で現実にはいない人の名前は上げないものよ。みんな芸能人とかアイドルとかを上げてた中、薫だけ次元が一つ違って浮いてるのよ」
「いやでも、アイドルを上げてるやつもほぼ同じだろ!」
百合の言い分に反論する。
「どうやらみんなからしたら、別物のようみたいね」
「南条っていうやつに急に話しかけられてビビったわ」
先ほど話しかけた男子が離れたところで小声で言うが俺の耳にも届く。
南条薫は少し変わった奴
そんな空気が教室に流れ始める。
「そんな…またかよ…」
俺は絶望に打ちひしがれる。
高校では心機一転して頑張ろうと思っていたのに早速挫折しかけていた。
「大丈夫?」
俺の様子を見かねた百合が心配そうにこちらの顔色をうかがう。
「ああ」
「なあ、さっきの自己紹介で言ってた○○って漫画のキャラクターだよな。俺もその漫画好きなんだよ」
元気よく話しかけられる。
「えっと確か君は」
「俺の名前は富士川。よろしくな」
「南条薫」
「友達になろうぜ。南条」
「いいのか?」
唐突な言葉に聞き返す。
「なんで?」
「なんでって、俺だけずれた自己紹介してクラスでも浮きかけてるし」
「それがどうしたんだよ。確かに南条だけ違ったが、実際に話してみねーとどんな人かわかんないだろ?俺は今話してみて南条とは友達になれると思っただけだよ」
そう淡々と話す。
「そうか…ありがとう」
胸が温かくなる。
「今日はもう終わりみたいだし今から遊びに行かないか」
俺はそう提案する。
「お、いいな。じゃあ行くか」
俺達は一緒に教室を出る。
その足取りは軽くなっていた。
<現在>
「あのとき、富士川が話しかけてきたから、クラスにもなじむことができたんだよ」
俺はその時のことを思い出しながら、すべて富士川に話す。
「大げさだよ」
「いや、大げさじゃない。あの時の俺はいろいろあってな。富士川と友達になれて本当に良かったと持ってるよ」
「南条…」
お互い言葉が続かなくなった。
(まさか、話すことになるとは。それよりもこのはずかしい沈黙を何とかしたい!)
「俺は南条の言うように、そんなつもりで話しかけたわけじゃないかも知れないんだぞ?それでも友達って言ってくれるのか?」
その顔は暗かった。
答えはすでに決まっている。
「当たり前だろ」
「っ!」
「だとしても俺のせいで、南条に迷惑が…」
「そんなに罪悪感があるなら俺の言うことを一つ聞け」
富士川に俺は言う。
「あ、ああ」
富士川は少し構える。
「これからも友達でいてくれ」
「そんなことでいいのか?」
拍子抜けしたように聞き返す。
「俺は、富士川と比べて友達が少ないからな。一人でも減ったらボッチ率が高くなるんだよ。なんだ聞けないのか?」
「もちろんこれからも友達だ」
力強く、富士川はうなずく。
心なしか富士川の顔が晴れる。
「もしかして泣いたのか?」
「泣いてねーわ!」
むきになって富士川は返す。
「いやー楽しかったなあ」
夕方まで遊びまくった俺たちは駅へと足を進める。
「なあ、南条」
「ん?」
「前はあまりのことに冗談かと思ったが、皇さんの探してる人っていうのはお前なんだな」
「そうだよ」
俺はもう誤魔化さなかった。
「やっぱり、そうか」
どこか納得した様子だった。
「これを機にオレオレ詐欺は卒業したらどうだ」
富士川に言う。
「オレオレ詐欺いうな!…いや待てよ。それを言うなら南条だってあのセリフを言ったっていうことだよな?」
「それ以上言うな」
そのことは考えないようにしているのだ。
「ぷっ、はははは」
可笑しそうに笑う。
俺もつられて笑うのだった。
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