第9話

 教室に戻ると昼休憩も終わりに差し掛かっていることもありほとんどの生徒が昼食を食べ終わり談笑している。皇さんも学校には少しずつ慣れてきた様子で今も百合や早稲栗などのクラスの中心といえる人たちと会話に花を咲かせている。


(大丈夫そうだな)

彼女がなれるか心配だった俺は彼女の方をちらりと見て、その光景にホッと胸をなでおろす。



一安心したためか、昼食を食べこともあったためか眠気に襲われた俺はそれにあらがおうとはせず身を任せようとする。



「なあ皆、よかったら皇さんの歓迎会も兼ねて金曜日の放課後カラオケにでも行かないか?」

寝る準備ができたところである一人の声が聞こえてくる。

早稲栗光世だ。



「いいねそれ」

「さんせー」

次々と彼の提案に賛同する声が飛び交う。


今日は木曜日のため、つまり明日だ。


「それで、どうかな?皇さん」

早稲栗は彼女に近づき、確認を取る。


「はい、大丈夫ですよ」

「よかった」

皇さんの了承を取れ、早稲栗は嬉しそうに笑う。




「なら、場所はいつものところをもう取っておくね」

玉木百合が言う。

「ありがとう、百合さん」

早稲栗が百合に笑顔を向ける。

「これぐらい任せてよ」

百合も笑顔で応じる。


はたから見るとまさにお似合いのカップルだ。





「時間はみんなが集まれるよう5時からで集合場所は、、、、」

着々と決まっていく。





「じゃあ、また」

「はい」

一通り伝え終えたのか席へと戻っていく。

俺はその様子を流し見る。








「なあ、俺も行こうかな」

どうやら話を聞いていたらしい富士川が乗り気な様子だ。

「行っても楽しめるのか?」

あの輪の中に入るという言葉に驚愕する。


「皇さんも行くみたいだし、少しでも仲良くなってた方が有利だろ」

ドヤ顔で言う。


隣に本人がいるからな?

「せいぜいがんばれよ」

他人事のように返す。


(まあ、こういうところで仲良くなっておけば有利なのかもしれないが、実際あの時助けたのは俺だしな。事実確認をしてくれるならそこでわかるだろう)

事実確認があることに安心しているため、心には余裕がある。




「なんだ行かないのか」

行くと思っていたのか意外そうだ。

「まあな」






「あの」

「どうしたの?」

横から声をかけられる。

皇さんだ。

彼女はどこか困ったようにこちらをうかがう。

「カラオケって何ですか?」

「…」

「す、すみません。先ほど早稲栗さんに誘っていただいたのですが、切り出すタイミングがなくて…」

恥ずかしかったのか早口になる。

「カラオケって言うのはね、歌を歌う場所だよ」

「うた、ですか」

「そう。みんなが好きな歌を歌ったり一緒に歌ったり、、、。あとはドリンクバーとかのサービスがあるよ」

「それはすごいですね!」

目をキラキラさせながら興味津々だ。


「そのような場所があるとは…ドリンクバーというのも名前は聞いたことがあるのですが使ったことはないので楽しみです」

待ちきれないとでも言わんばかりに気持ちが高揚している。

「教えてくださってありがとうございます」

「いいよ。また、分からないこととかあったら聞いて」

「はい。ところで南条さんはどのような歌を歌うのですが」

「あ~、俺は行かない…予定」

「そうなんですか?」

シュンと少し落ち込む。


「せっかく友達になれたのに…」

消え入りそうな声でつぶやくが、偶然俺の耳に聞こえてきた。

(俺達友達だったの?)

どうやらいつの間にか俺と皇さんは友達になっていたようだ。




「あー、やっぱり行こうかな」

(そんな顔されたら行くしかないだろ!)


「本当ですか!楽しみです」

先ほどまでが嘘のように子供のように嬉しそうに笑う。



キンコンカンコン

チャイムが鳴りまた午後の授業が始まるのだった。

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