第8話

「お腹すいたー」

午前中の授業が終わり、昼休憩となった。


 うちの学校は学食よりも弁当の方が多く、基本的に椅子さえあればどこで食べても構わないというルールになっている。


 俺は弁当箱を持ち席を立つ。

「食べに行くか」

富士川に声をかけ教室から移動する。



 冷たい風が吹き抜け、肌寒い中、俺たちは昼食をとる。

ここは屋上だ。冬が近づいていることもあり屋上は人が少ない。そのため俺たちにはもってこいの場所だ。



「やっぱり、あんなこと言うべきじゃなかったな」

富士川はあの時名乗ったことに後悔していた。






 あの一件は瞬く間に広まり昼になるころには大勢に非難する目で見られ果ては嘘つくななどのことを小声で言われたりなどひどい様子だった。


「確かに富士川は後先考えずに行動するし、今回だって金のためだとかクズみたいな理由で行動はしている」

「ひどい言われようだな!?」

追い打ちをかけるかのように言われ肩を落とす。


「だが、自分のためにそうやって行動できるのは素直に尊敬するよ。それに、うそつきだとか周りに避難されるが、そんな根拠もなく言うやつらのことは気にするな。俺はそんな噂なんかに微塵も興味ない」





 学生なんて噂に飢えている。

そのほとんどはあてにならないものだ。

当事者にとっては面倒くさいような嘘だってたくさん流れる。

とはいえ人の噂も七十五日。

どうせすぐに興味はなくなるだろう





「薫…」

「まあ俺は根拠をもって嘘だと言えるが」

「なんでだよ?!そこは信じろよ」

少し興奮気味に言う。

(本人だからだよ)

そう言いたいが心の中で止めておく。


(…いやでも富士川には言ってもいいかもな。口が堅いし)

富士川は口も堅いしここで伝えておけば、立候補を取り消すかもしれない。



 俺は考え込み、言うことにした。

「なんでって、俺がその皇さんが探している人物だからだ」

「…俺のために薫まで嘘つくことはないからな?」

先ほどのテンションが嘘のように俺の肩に手を置き、かわいそうなものでも見るかのように俺を見る。



「だから、本当にガラの悪い奴らから助けたのは俺なんだって」

「そこまでれのことを思ってくれるなんて嬉しいよ」


全く聞く耳を持たない。

「はぁ、ならもうそれでいいよ」


(まったく信じてもらえないな)

「気持ちだけでもうれしいよ」

「そりゃよかった」


実際富士川の様子は昼食前と比べると幾分かマシになっていた。


(ま、信じてもらえないならそれそれでいいか)

あとは時間の問題と感じた俺ももういいかとばかりにご飯をほおばる。



「それにな」

「ん?」

ボーっとしていると富士川が言う。

「薫がその人なんて信じられねーよ」

「だからその話はもういいって」

「だって皇さんによるとその人は『名乗るほどのものではない』と言って立ち去っただろ?目立つことなんてしない薫がそんなクサいセリフ吐くか?」

「いやクサくないだろ!」

俺はその発言に納得できず距離を詰めて言う。

「お、おう」

突然の俺の発言に若干引きながら友人は口を開く。


(あのセリフはカッコいい決め台詞だというのに)

まったく、、俺は信じられないように彼を見る。


(…ん?だが、もし俺がその人だと露呈すると、そのセリフを言ったのが俺だとばれるということになるのか…)




 この少年には夢があった。

それはラノベや漫画の主人公になること。。

だがそんな少年でもあの一連の様を全国に知られるのはさすがに名誉というよりは黒歴史の方が大きかった。


 その事実に一人、悩んでいた。

名乗りでることの問題点が出てきてしまったことに頭を抱える。




 俺と富士川は昼食を食べ終えクラスに戻る。

(どうしたらいいのか)


「何しけた顔してんのよ」

声のする方を見やると百合がこちらを見ていた。

「どうしたらいいものかわからなくて」

「あんたでも悩むこともあるのね」

「どういう意味だよ」

百合がおどろいた様子でこちらを見る。

(少しはほかのクラスメートたちのように優しく接してほしいものだな)


「私でよければ相談に乗るわよ」

唐突に百合が言う。

「いや、大丈夫だ」

ジッとこちらの表情をうかがうように見る。

「そう」

「心配してくれてありがとな」

そっけなく返事をし自分の席へと戻っていく。

(あいつ面倒見いいからな)

フッと彼女の何気ない優しさに笑みがこぼれる。



(確かに悩むなんて俺らしくないな。もしばれたとしてもその時はその時だ。ひとまずは皇さんに信じてもらえるようにすることだな)


ある程度の方針が決まり、悩みが吹き飛ぶ。






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