第7話

 先ほどの一件はひと段落付き、今は授業中だ。



(それにしてもこれからどうするかな…)


俺はどうしようか考えていた。

(俺だと名乗り出たいが名乗り出たところで結局その事実確認のためのパーテイーまでは信じてはもらえないだろうしな…うーん…)

どうしたものか。



(っていうか、あの時名乗り出ておけばこんな面倒くさいことにはなかったのに…)


「「はあ」」

ため息が重なる。

重なった相手はオレオレ詐欺の富士川だ。


「おいおい、どうした?オレオレ詐欺の富士川君?」

「オレオレ詐欺っていうなよ!?っていうか薫も信じてないのかよ」

信じられないとばかりに俺を見る。


(いや、当たり前だろ。だって俺が本人なんだし)

「そもそもなんであの場であんなウソついたんだ?」

「嘘が前提かよ…まあ、なんでかっていうとお金が欲しかったからだ」

胸を張って富士川が答える。

「金のために行動するとか人としてダメだろ」

友人の理由にあきれる。


「いやいや、薫も人のこと言えないだろ。お前も十分金のために行動してるって」

「嘘言うな!俺はソンナコトハシナイ」


(そう、今回俺が名乗り出ようとしたのだって皇さんが探しているようだっただけだし?…別に金に目がくらんだわけではない)


「おい、そこ静かに!ならこの問題南条解いてみろ」

「は、はい」

突然当てられ黒板を見る。

しかし、何をやっているのかさっぱりわからない。


(「おい、富士川教えてくれ」)

(「南条君と違って欲にまみれている僕にはわかりませ~ん」)

富士川がすっとぼける。


(こいつ!)

後で覚えてろよ。



「早く答えろ」

「は、はい。え~と、、、」

まずい。

問題は四択だったので、とりあえず勘で答えることにする。



トントン

肩をたたかれ横を見ると皇さんがノートの一か所を指さしていた。

おそらく答えを教えてくれているのだろう。


「三番です」

「正解だ」




「ありがとう、皇さん」

答えを教えてくれた皇さんにお礼を言う。

「いえ、困っていたようでしたから」

「でもまさか、逆に俺が助けられる方だったね」

「ふふ、そうですね」

可笑しそうに笑う。



「おい、いつの間に仲良くなったんだよ」

「ん?」

俺と彼女のやり取りを見ていた富士川が聞いてくる。

「さっき案内したからな。別に普通だろ」

「玉木さんとしか女子は話せないのかと思ってた…」

素で驚いている様子で俺を見る。

「失礼だな!」




「ふふふ」

 俺たちのやり取りを見ていたのか面白おかしそうに笑う。



「ごめんなさい。本当に仲がよろしいんですね」

「いやそこまで」

「とても仲がいいです!」

好機だとばかりに富士川が言う。

「そあなたは先ほど名乗り出てくださった・・」

「はい、富士川悠馬といいます。どうぞ好きに呼んでください」

キリッとした表情になる。

「プッ」

友人の変わりように笑いそうになるのをこらえる。


「では、富士川君と。よろしくお願いしますね」

「はい!」

皇さんに声をかけられてうれしかったのかクラス中に響く大声となってしまう。


「うるさいぞ!富士川!」

「す、すみません」

自分でもあんなに大声になるとは思っていなかったのか慌てて謝る。



「まったく、富士川は単純だな」

「うるさい」

 先ほどの授業を思い出し、笑いながら富士川に言う。

「すみません、授業中に話しかけてしまい…」

シュンとなりながら皇さんが謝る。


「皇さんは悪くないですよ。大声を出した俺が悪いんで」

「そうですか」

「はい」

慌てて富士川は彼女は悪くなかったと弁明する。


「そういえば、富士川君は私の探している方として名乗り出てくださりましたが、どうしてすぐに名乗り出なかったのですか」

純粋に皇さんが聞く。


「ぱ、パーテイーの時までは探している人かわからないんじゃ…」

「はい、ですのでこれは興味本位です。もし富士川君が私の探している人なら、なぜ早稲栗君が名乗り出るまで名乗り出なかったのかなと」

「そ、、、それはですね」

富士川は押し黙る。


「そ、そう。まだ皇さんがあの時助けた人か確証が持てなかったからなんですよ」

「そうだったのですか」

疑うことを知らない彼女はその理由が知れて納得していた。


富士川の顔を見ると焦りの青くなっている。

(そこまで必死になるなら初めからウソなんてつかなきゃよかったのに)

友人の醜い言葉に俺はかわいそうなものを見るように視線を向ける。


「なんだよ、その目は」

「べつに」

「ふふ、お二人は本当に仲がよろしいんですね。うらやましいです」

「皇さんもすぐに友達ができるよ」

「そうでしょうか」

「うん。例えば百合なんて話しやすくて皇さんと気が合うと思うよ」

「はい、百合さんとは昼食に誘ってもらいました」

どうやらもう下の名前で呼ぶ関係らしい。

「それはよかったね」

「はい!」

うれしそうに彼女は笑う。



「そうです。ひとつわからないことがあって。昼食はどちらでとるのでしょう」

「弁当のひとはクラスでも廊下でも基本的にどこでもいい感じかな。食堂もあるから弁当を持ってきていない人はそこで食べることが多いかな」

「そうなんですね」

「ちなみに百合に誘われたって言ってたけど、百合たちのグループはほとんど弁当を教室で食べる人が多い」

「教えてくださり、ありがとうございます」

丁寧にお辞儀する。

「いいっていいって、そんなことならいつでも教えるよ」

「ありがとうございます」


キンコンカンコン

チャイムの音に遮られ話は終わった。

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