第12話 カラオケ
<放課後>
俺は一度家に帰り着替えていくことにした。
家が近い人が多いため着替えていく人が多いので、私服は俺だけではないはずだ。
鏡の前で服装を確認する。
(よし、変じゃないな)
身だしなみに問題ないと判断し、家を出る。
カラオケにつくと、ほとんどの人がすでに集まっていた。周囲を見渡すと、いつもは参加しないような俺や富士川などの面々も多く来ていた。
おそらく、皇さんが参加するのが理由だろう。
「ふ~、緊張してきた」
「そんな気負うなよ」
結局富士川はすこしオシャレめの服を着ていた。
「薫はいつも通りだな」
俺を見るとどこか安心したようにホッと息を吐く。
なんだかその言い方はムカつくな。
「「「おおおおお!」」」
声が上がり、視線がそちらに集まる。そこにいたのは皇さんだ。高級感ある白いワンピースで全身を包み、淡い色のショルダーバッグをかけ、見る者の目を引く。
「みなさん、お待たせしました」
彼女はクラスメートたち集まっている様子を見て申し訳なさそうに謝る。
「ううん、今来たとこだよ。それにしてもその服似合ってるよ」
さりげなく早稲栗がほめる。
(こういうところがモテるんだろうな)
自然な紳士さに感嘆する。
俺は横にいる友人をちらりと見る。
早稲栗とは対照的にずっと見ることしかしていなかった。
「ありがとうございます」
ほめられることに慣れているのかスマートに返事をする。
「みんな揃ったようだし、お店に入ろうか」
カラオケへと入っていく。
人数が多いこともあり、二つの部屋で分かれて行うことになった。
部屋割りは俺、富士川などのあまり目立たないメンバーに加え百合。
もう一つは早稲栗、皇さん、あとはよく早稲栗たちといるような人たちという割り振りとなった。
どこか作為的な割り振りだ。
おそらく俺たちのグループは百合に任せようという算段なんだろう。
(まあ、どうでもいいけど。それよりもせっかく金払ったんだし、歌いまくるか)
「いやー、喉からから」
一時間が経ちのどが乾いた俺はドリンクバーに向かう。
「よく歌えるな」
富士川が生気のない顔で聞く。
「なんだよ。元気ないな」
「当たり前だろ。せっかく皇さんとお近づきになれるかと思ったら運が悪いことに彼女とは違う部屋だったし…はあ」
「まだチャンスはあるよ」
「薫はつい先日の様子が嘘のように元気になってるな」
(先日というのはまだ皇さんが来ていないときのことだろう)
「まあな、どうにもならないと思っていたことが解決しそうだからな」
「うらやましいぜ」
ドリンクバーのところに行くとそこには皇さんがいた。
彼女はドリンクバーの前で右往左往している。
どうやら何にするか決めかねているらしい。
「南条君たちもドリンクバーですか」
俺たちの視線に気づいた彼女はこちらを振り返る。
「ああ、歌いすぎて喉からからだよ」
「そうですか」
クスっと笑いながら言う。
(「おい、今が話すチャンスじゃないのか」)
(「む、むりむり」)
富士川に話すよう促すが緊張のためか話す様子はない。
(せっかく皇さんがいるのに…仕方ない、助け船を出すか)
「カラオケとはとても楽しいところですね。南条君はどうですか」
「俺は楽しいんだけど富士川の方は楽しくないようだ」
俺は富士川を指さしながら答える。
「っ!」
突然話を振られ富士川は動揺する。
「そうなんですか?」
彼女は申し訳なさそうになる。
自分のための歓迎会に無理してきたのではないかと感じたようだ。
「そ、そんなわけないじゃないですか!もう楽しみまくってますよ」
彼女の様子に焦ったようで今にも歌いだしそうに元気に答える。
「フフ、それならよかったです」
面白可笑しそうに笑う。
「富士川が元気がなかったのは皇さんとお近づきになれなかったからだよ」
「え?」
俺の発言に驚いたように富士川は俺を見る。
(「なにバラシてるんだよ!」)
興奮した様子の富士川を制止して皇さんを見る。
(「まあまあ任せとけ」)
「それはどういうことですか?」
「こいつも皇さんの普通の友達になりたいらしいんだよ」
「そうなんですか!」
期待を含む視線が富士川の方へ向けられる。
「は、はい」
彼女に詰められて戸惑いながらもなんとか肯定する。
「うれしいです!それと敬語は使わなくてだいじょうぶですよ」
「ほ、ほんとに?」
心配そうに言う。
「実際俺だって使ってないだろ」
「確かに…ならそうさせてもらうよ」
「はい!ぜひそうしてください」
笑って返す。
「友達が増えてよかったね。」
「本当に良かったです」
(彼女の明るい様子を見ると俺まで嬉しくなってくるな)
俺も飲み物を注ぐためにドリンクバーに近づく。
「何にしようかなあ」
「俺はもちろんこれだな」
友達になれたことで元気を取り戻した富士川は順番を抜かして先にボタンを押す。
「順番ぐらい守れよ…ったく。じゃあこれにするか」
俺もすぐに決めボタンを押す。
「なるほど、そのように使うのですね」
皇さんは興味深そうにまじまじと眺める。
「もしかして、使い方が分からなくて困ってたの?」
俺がそう聞くと、彼女の顔はかーっと赤くなる。
「…はい」
消え入りそうな声で答える。
「そういうことか」
「すみません」
「別に謝ることじゃないよ。使い方は下にコップを置いて飲みたいものを選んで押すと出てくるよ」
「分かりました。ありがとうございます」
使い方を知った彼女は慎重にボタンを押して飲み物を注いでいく。
ちなみにオレンジジュースだった。
飲み物を注ぎおえた俺たちはカラオケルームへと戻っていく。
「みなさんが歌われるのを聞くのは楽しいですね」
「皇さんは歌わないの?」
意外そうに富士川が聞く。
「皆さんの前で歌うというのは少し恥ずかしくて」
「歌うだけが楽しみ方じゃないしね」
「そうはいっても南条はとりわけうまいわけではないのに歌いまくるよな」
「うるさいな。歌うのが好きなんだよ」
富士川に言われ少し恥ずかしくなる。
「そうなんですか。ぜひ聞いてみたいです」
目をキラキラさせてこちらを見る。
「いやいや、別に聞かなくても」
(癪だが富士川の言う通りうまくはないし)
「お願いします」
頭を下げてお願いしてきた。
「そこまでしなくていいよ」
俺は慌てて彼女に言う。
「そんなに聞きたいならいいよ」
「わあ、ありがとうございます」
(おおげさだな)
彼女の反応に照れる。
「じゃあ、俺たちの方に来るか」
富士川はそう提案する。
「はい。…あ、ですが一応そのことを伝えに一度戻ってもいいですか」
「それはいいけど、飲み物は置いていったら?」
「ではそうします」
話に夢中になっているといつの間にか部屋の前につく。
俺はドアノブに手をかける。
「なあ、富士川ださくね?」
俺の回そうとする手がぴたりと止まった。
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