第44話 お土産 (※43話非公開)

 年が明けて、あっという間に夏。

 俺は都内某、ラジオ局のスタジオにいた。


「こんばんはー!メインパーソナリティのRELAY今泉蓮さんが、今、海外ロケに行っておりまして、今日は上村圭吾が代打を務めます。よろしくお願いします!」


 蓮は現在、海外で映画の撮影中。だからおはよう、とおやすみのメッセージが変な時間に届く。俺はやや寝不足ながらも元気いっぱい、蓮の代わりにラジオ番組でトークを開始した。


「早速メールを読んでいきましょう!えーと、ペンネーム因幡の白兎さん。”圭吾くんは今、どこに住んでいるんですか?教えてください”!」


 俺は実家を出た後、暫くビジネスホテルにいたのだがなかなか住む部屋が決まらず、合鍵を貰ったことに甘えてずるずると蓮の家に居候している。


「実家に住んでたんだけど、その、実家バレして、ファンの子なのか違うのかもしれないんですが、実家のマンションにゴミを捨てる人がいてですね。それで実家に居られなくなって蓮の家に居候してるんです。そろそろ出て行かないと、と思ってるんだけど、なかなか部屋が見つからないんだ。今東京って、マンション価格が上がってて、条件に合うところがなくて困ってます。」


と、俺は正直に言っている。とにかく嘘をついて誤魔化すのが苦手だから。でも別に、変じゃないよね?!


「蓮はドラマとか映画のロケとかでいない事が多くて。ここ、俺の家だっけ?と錯覚してるって言うか…。」


 そうなのだ、蓮とは一緒に住んでいてもすれ違いになる事が多い。だから、帰って来て会える安心感に、つい出て行けないでいる。


「えーと、次のメールです。ペンネーム恋人はサンタクロースさん。”RELAYはいつ、活動再開するのでしょうか?”」


RELAYの活動再開については本当によく聞かれる。マコトくんの仲直り企画動画が大きな反響を呼んで、かなりの再生回数となったのだ。地上波テレビでも取り上げられたりして、話題になった。マコトくんはあれから「グループ・コンビ仲、修復請負人」みたいになっている。それ以外にもドラマにグループのライブと精力的に活動していて殺人的なスケジュールらしい。蓮と楽曲提供した曲のレコーディング以降、しばらく会ってないけど、元気だろうか?マコトくんのソロ曲が好評で、”れんけい”でYBIにも楽曲提供することになったから、またレコーディングでは会えると思う。すごく楽しみだ。


「RELAYはですね、今は個々の活動が活発でして。ドラムの藤崎さん率いるバンドがなんと、来週デビューします。あと、キーボードの永瀬さんはジャズに目覚めて、先週から海外留学してまして。蓮は冒頭言った通り、映画のロケしてるし…。」


動画は大変な反響だったが、それぞれソロの活動に軸足が既にあったので、RELAYはまだ休眠状態だ。でも、進展もあった。


「と、RELAYはお休み中ですが、私、上村圭吾のソロアルバムにはRELAYのみんなが出演してくれています。蓮は曲も書いてくれてます。」


ありがたいことに、アニメ映画”悪役令息、皇帝になる”の大ヒットに引っ張られる形で、俺の曲も好セールスを記録した。そのため上村圭吾名義でミニアルバムの発売が決まり、以前蓮がRE:PLAYのために作ってくれた曲を収録することになった。蓮が作った曲というのもあって、他のメンバーも収録に参加してくれたのだ。


「と言うわけで、もう少し待っていて下さい。”れんけい”名義でも楽曲提供する予定もあるし、あの、ご心配をおかけしましたがもうケンカしていないから、大丈夫だと思う。たぶん。では曲に行きましょう。藤崎さんのグループの新曲です、どうぞ〜!」


 曲をかけている間に、ラジオ番組のスタッフから「サプライズです!」と言って台本にない紙を手渡された。サプライズは苦手だからやめて欲しいのに…。俺はドキドキしながら、その用紙に目を落とした。蓮からのメッセージだった。


「えーと、次はですね、なんと、今泉蓮さんからメッセージが来ています!ではご紹介します。”みなさんこんばんは。ラジオ、お休みしてすみません。海外ロケのため、二週間ほどお休みを頂きます。代打の上村圭吾さんはちょっと天然なので、あたたかい目で見守って下さい。上村圭吾さん、代打ありがとうございます。上村圭吾さんにはお土産がありますので楽しみにしていて下さい。では、みなさん再来週お会いしましょう。”お土産”なんだろう?楽しみですね!」


お土産より、蓮が帰ってくる方が楽しみだけど。それが、本当のお土産なんだ。


「ではこの曲でお別れです。劇場版”悪役令息、皇帝になるFINAL”主題歌…今週からコンビニエンスストアのパワーアップミュージックにも選ばれました!”ぼくらのセーブポイント”です。どうぞ!」


 今週から、俺のソロデビュー曲”ぼくらのセーブポイント”が、俺が説明会に行ったコンビニエンスストアのパワーアップミュージックというのに選ばれて、店内で俺のコメントとともに放送されている。俺が説明会に行ったことは関係しているんだろうか?恥ずかしいからまだ、誰にも聞いてはいないんだけど。


 俺は久しぶりに、実家の最寄駅の、思い出のコンビニに行ってみた。コンビニには駐車場が新しくできたから、車で。そう、俺は車の免許を取ったのだ。蓮が使わない時は蓮の車を使わせてもらっている。


 店内に入ると、優しそうな男性に声をかけられた。


「上村さん!」

「坂本さん!」


 俺の担当だった坂本さんは、この地区の営業担当をしている。このコンビニは新しいオーナーを迎えて先日オープンしたばかりで、今はヘルプで入っているらしい。


「上村さん、全然変装してないけど、大丈夫なんですか?このコンビニ、”れんけい”の聖地巡礼でファンの子結構来ますよ?」

「れんけいの聖地?!」

 れんけいの聖地…?れんけい、って陽菜さんがつけたユニット名、結構浸透してる?しかも聖地って。そんなに大袈裟な物じゃないけど、確かに俺と蓮の思い出の場所である事は間違いない。そこで、俺の曲をかけて貰えるなんて、すごく嬉しい。

「あのー、坂本さん。御社のパワーアップミュージックに選んで頂いてありがとうございます。ずっと聞けなかったんですけど、選んでもらえたのてって、ひょっとして…?」

「あはは!そうです。上村さんが実はオーナー説明会来てたって、本社では有名だったから!しかも私に言ってたでしょ?コンビニは光ってセーブポイントみたいだって。上層部もそれに感動して、即採用でした!」

 俺は恥ずかしかったが、それよりも嬉しさが勝った。坂本さんにサインしてくれと言われて、”悪役令息、皇帝になる”コラボの圭吾くん人形にサインをして手渡した。


 店を出て、駐車場からコンビニを見ると、高校生の時、蓮と一緒に通った光景を鮮明に思い出した。


 蓮に会いたい。早く帰って来てよ。

 またここに、コンビニ…セーブポイントは復活したけど、やっぱり蓮のいないセーブポイントじゃ回復しないんだ。俺は。



 数日後、蓮から予定通り帰ることと、空港への到着時間を知らせるメッセージが送られて来た。


 俺が空港まで、車で蓮を迎えに行くと、蓮は日数の割に少ない荷物で帰ってきた。


「蓮、荷物少ないね?」

「うん。俺、旅行にあんまり荷物持って行かない派。向こうで洗濯すればいいんだよ。」

「そうなんだ…。お土産は?」

 俺はつい、おねだりをした。だって楽しみにしていろって言うから楽しみにしていたんだ。

「上村さん、お土産は、俺だよ!」

「え、蓮がなんか、オジサンみたいなこと言ってる。」

 神谷プロデューサーみたいなこと言ってる、とは流石に言えなかった。

「いや、お土産も買って来たけど…。喜べよ。」

「喜んでるよ、蓮が帰って来て、嬉しい。」

 俺は蓮の手を握った。


 蓮と電車に乗って、移動するのも好きだったけど、車もいいなと思った。だってこうやって、人目を気にせず、手を握れる。

 蓮が俺の手を握り返して微笑んだ。


「ちょっとドライブして帰ろ?」


 俺が車を走らせると、蓮は車のオーディオに自分のスマートフォンを接続して、音楽を流す。


「これがお土産その2。圭吾の真似して、アプリで作ったんだ。」


 それはロック調のアップテンポで爽やかな曲だった。ひょっとして…。


「RELAYの新曲。どう?」


 俺はすぐ言葉にできなかった。だってさ、蓮…。


「泣くなよ、圭吾…。」


 蓮は俺の涙を拭って微笑んだ。俺たちはパーキングで車を止めて、もう一度曲を聴いた。


「蓮、すごく良かった。嬉しい。最高のお土産だよ。」

「圭吾が喜んでくれて嬉しい。今度は圭吾も俺に作ってよ。」

「え?歌ってくれるの?」

「うん。歌いたい。だって俺、ずっと圭吾の曲のファンだよ。」

「え?いつから?」

「中二から。」

「中二?!」


 蓮とまた、RELAYに戻れるかも知れない。

 それ以上嬉しいお土産は多分ない。

 蓮、ありがとう。


「帰ろうぜ、時差で眠いんだ…。」

「うん。」


 良かった。帰って来れた。

 蓮の腕の中に。

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