第42話 プレゼント (※43話「連に微笑まれたらノート言えない病」非公開)

 収録は夜遅く、間もなく午前0時という時刻まで続いた。放送分を二本、ドッキリまで収録したのだから仕方がない。

 俺は最後に、お土産で持ってきた菓子折りと“圭吾くん人形”をラジオスタッフに手渡した。

 “圭吾くん人形”を見た蓮は噴き出した。

「番組で、出せばよかったのに。視聴者プレゼントで…。」

 それはそうだ。でもそんなの、欲しい人はいるんだろうか?蓮は手に取った一体を、「一つ頂戴」といって持って行ってしまった。

 そう、蓮は行ってしまったのだ。ラジオスタッフ達と何やら話しながら…。打ち合わせなのかもしれない。蓮は俺を「連れて帰る」と言っていたから待っていたかったけど、マネージャーの鈴木さんに送って行くといわれてしまって断ることが出来なかった。

 地下の駐車場に行くと、蓮からメッセージが来た。久しぶりに、SNSではなく、個人宛のメッセージ。ブロックは解除してくれたんだろうか?そのメッセージには、駐車場で待っていて、と書かれていた。

「鈴木さん、あの、今日は蓮が送ってくれるっていうから、ここで大丈夫です。」

「え?そうなの?」

 鈴木マネージャーは「積もる話もあるもんね。」と納得したようだ。鈴木マネージャーを見送って少しすると、蓮がやってきた。

「圭吾こっち、急げ!」

 駐車場に停まっていた、蓮のSUVに乗り込むと蓮は小さな包みを俺に手渡した。蓮はすぐに車のエンジンを掛けて時間を確認する。


「ああ〜、間に合わなかった!ごめん!」

「間に合わなかった?」

「圭吾の誕生日の内に渡したかったんだ。」


 蓮はアクセルを踏んで、車を走らせる。駐車場を出ると、包みをなかなか開けない俺に「中、開けてみて」と言った。


 包みの中には鍵が入っていた。レトロなうさぎのチャーム付き。うさぎには小さく”れん”と書いてある。

「かわいい…。」

「じゃ、なくて…。」

 まあいいけど、と、蓮はそれ以上何も言わなかった。

 

 蓮のマンションに来るのは俺が蓮を怒らせて帰った日、以来。駐車場から、マンションのエントランスに上って、オートロックを抜ける。エレベーターに乗る頃には、あの時の光景がフラッシュバックして緊張しすぎたのか呼吸が浅くなったように感じた。胸もドキドキと早鐘を打つ。蓮にもらったウサギのチャームが手の中で汗ばんだ。

 部屋のドアの前に着くと、蓮は俺をドアの前に立たせた。蓮は俺の後ろに立って、俺の手の中の鍵を指さす。

「これで開けて。」

 俺が手の中の鍵をドアに差し込むと、カチャ、と金属音がして鍵は回った。

「あと下。」

 二個目の鍵を回して鍵を引き抜く。

 蓮は後ろからドアを引いて戸惑う俺をやや乱暴に部屋の中に押し込んだ。

 蓮が後ろを向いてドアの鍵を閉める音がしたので、俺は蓮に後ろから抱き着いた。

「蓮…!」

 プレゼントって、蓮の部屋の、合鍵?いつでも来ていいってこと?

言葉が出なくて名前だけ呼ぶと、蓮は俺を自分の胸の方へ抱き寄せた。玄関で、靴を脱ぐ暇も惜しかった。抱き合ってキスした。

「蓮、好き…。」

「圭吾…本当に?」

「うん。大好き。蓮…。会いたかったずっと。」

「でも、圭吾は全然、俺に会いに来る様子がなくて待ちくたびれて、死にそうだった。待ってて来ないってわかるとしんどいから、メッセージアプリの方はブロックしてた。」

「そうなの…?でも蓮は…ずっと彼女いたりして、俺のことは遊びだと思ってた...。」

「それは、圭吾がだろ…。だから…。」

 “圭吾がだろ”って、俺に彼女がいた、って蓮は思ってたってこと?なんで?アニオタでフツメンの俺が…?!童貞だよ?!俺!

 俺が怪訝な顔をしているのを察した蓮は、不機嫌な顔をした。

「高校の時も、受験だって遅くまで残って女子と帰ったりしてたじゃん。それにキスマーク付けるとさ、”ナニコレ?”って聞かれて誤魔化すのが大変だって…。」

 それは多分、メンズエステの店員吉田さんの事だ。吉田さんはキスマークがあると毎回冷やかしてくる。そういう人なのだ。

「受験の時は、蓮は推薦で勉強してなかったから…女子と帰ったのは覚えてないけど、偶然だと思う。あとキスマークは、エステに行ったときに言われて…。あ、普通のエステだよ?えっちなやつじゃない…。」

 蓮は少し、表情を緩めた。

「本当?」

「本当だよ。だって俺、童貞で…蓮しか知らないんだから…。」

 俺は恥ずかしくなって蓮に抱き着いた。蓮は完全に表情から不機嫌を追い出して笑顔になった。

「圭吾…嬉しい。もう、我慢できないから…抱いてもいい?」

 俺が頷くと、蓮は糖質完全無視の低カカオ、いやカカオがはいっているかもあやしいミルクチョコレートよりも甘い笑顔で笑った。

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