第41話 ラジオ収録

 もう一度顔を洗ってうがいをしてスタジオに入ると、RELAYのメンバーに加えてマコトに陽菜までいた。最後に入った俺は、一つだけ空いている席、蓮の隣に腰を下ろした。

「圭吾くん!動画ちょっとだけ見たよ。ねえ、っていうことはさ、この前事務所で圭吾くんが蓮くんに怒られたのも、仕掛けだったの?」

「そうだよ。圭吾に意地悪しろ、びびらせておけっていうマコト案だよ。」

「こわっ!でもあれは本気だったでしょ?」

「三分の四くらいは…。」

「それ百三十%超えてるよ?」


 全員で笑って場が温まったところで、「3・2・1…」のキューが入ってジングルが鳴った。

 蓮は慣れた調子で話を始めた。

「始まりました。メインパーソナリティRELAYの今泉蓮です。今日は、大勢ゲストが来てくれていますので、まずはご紹介します!えーとまずは、RELAY全員~!」

「ちょ…、雑っ!RELAYの藤崎です。」

「同じく、永瀬です。」

 次は俺の番だったが、蓮の冒頭の“RELAYの今泉蓮”という挨拶にノックアウトされてしまい、また鼻の奥がツーンとして話せない状態になってしまった。

「それで今またしゃべれない状態なのが、上村圭吾です!で、こちらが…」

蓮はそんな俺をさっと紹介すると、陽菜とマコトにパスした。

「蓮くんと先日までドラマ共演してたの木村陽菜です。今日、お知らせがありますので聞いてください!」

「同じくYBIマコトです。俺もお知らせがあるので聞いてください!」

 二人は俺を見た後、にやにやと笑った。“お知らせ”ってなんだろう?もう、サプライズやドッキリはこりごりだ…。俺は身構えた。

 番組の進行の蓮は、放送時にはマコトのWEBとラジオ局のWEBでもドッキリの模様が配信されているので、ご存じの方もいるかもしれませんが、という前置きをしてから今日の状況をざっくりと説明した。俺がどっきりにかかってRELAYは一応仲直りした、ということを、笑いを交えて。

「俺が言いたいことは…今泉蓮を嫌いになっても、RELAYのことは嫌いにならないでください!ってこと。」

「ああ~~名言…!」

 全員が納得すると、蓮は「いや、冗談だから。みんな元ネタ知ってる?」と一人不安になっていた。


「冒頭にお伝えした通り、今日はお知らせが二つもあって盛りだくさんなので、早速一つ目から行きましょう。これも、今日この時間だと公開されていると思いますが、我らが上村圭吾のソロデビューが決まりました!拍手~!」

 

 出演者とブースの外からも沢山の拍手を受けて、俺は恐縮して頭を下げた。

「圭吾、頭下げないで声出して。ラジオだから。」

 蓮に言われてハッとした。俺は慌てて「ありがとうございます。」と挨拶してから話し始めた。

「RELAYが活動休止になったあと、個人で動画サイトで楽曲を配信していたところ、アニメ劇場版“悪役令息、皇帝になる”の関係者の目に留まりまして。主題歌を歌うことになりました。公開は来年なので、デビューは来年ですが、劇中歌が先行して本日、WEBで公開されました。ぜひ聞いてください!」

「動画サイトでは、別の名前で配信してたんだよね?」

「そうなんです。”RE:PLAY”という名前を使ってました。RELAYを再び…再上演という願いを込めてます。祈りはPRAYでスペル違いだけど響きは同じだし…。」

「RELAYが大好きってことでいいの?」

 蓮は肘をついて俺を見ながら、穏やかな顔をしていた。ああ、そう。この人の、こういう顔が大好きなんだ。だから俺は素直にうなずいた。

「うん。離れてみて…幸せって失ってみて初めて分かったというか。」

「なるほど…そうするとさ、俺の好感度、本当に大丈夫?動画、消した方がよくない?」

 蓮が冗談で返すと、スタジオは笑いに包まれた。

「この後、RELAYで圭吾のソロ曲を演奏しますのでお楽しみに。その前に、陽菜さんと、マコトくんからもお知らせがあります。」

 陽菜は普段の豪快な調子を引っ込めて完璧な猫をかぶると、視聴者に顔は見えないはずだが満点の女優スマイルをした。

「実は私の第二弾シングル発売が決まりました!先日最終回を迎えた蓮君と共演したドラマが来年、スペシャル特番として放映されるのですが、その主題歌です!しかも、作詞作曲は“れんけい”でーす!」

 あ、やっぱり俺の案を蓮がまとめる形で作成されたのだろうか?まだ結果を聞いていなかった俺は蓮を見ると、蓮は頷いた。

 マコトは小さく咳払いすると、陽菜に続いて話し出した。

「そのドラマのスピンオフの作成も決定しまして…それは俺が主演なんだけど。その主題歌も“れんけい”で作成することが決まりました!」

「え?!」

 聞いてない…!俺が驚くと、蓮は笑った。

「圭吾君に、二回目のサプライズです。」

 サプライズ…?サプライズとドッキリはこりごりなのに…でも蓮と仕事が出来るのは単純に嬉しい。

「蓮と圭吾で作詞作曲するときは“れんけい”名義でクレジットします!」

「陽菜ちゃん、勝手に決めないで。なんか名前可愛すぎない?」

 蓮が渋ると、陽菜は手元の台本にペンで文字を書いた。

「いろいろ考えたんだけど、“れんけい”の“連携”が一番しっくりくるなって。“けいれん”だと“痙攣”になっちゃうから無しでしょ!」

 陽菜は漢字にルビを振ってブース外のスタッフにも呼び掛けている。

「これで蓮くんの好感度、回復できると思うよ?」

「いや、落ちること前提?」


 その後、RELAYで俺の“タイムリープ”を演奏することになった。俺はやっぱりベースを弾けなかった。そのことでまた笑われて…しかも直前で泣いたから、高音に苦しんだ。蓮がちょっと合わせて歌ってくれて、カバーしてくれた。ああ、やっぱり俺は蓮の歌が好きだ。RELAYで歌ってる、蓮が好き。


 そうして楽しいセッションはあっという間に終わった。


 またRELAYのベーシストに戻れるなら、もっともっと練習するよ。ポールマッカートニーには遠く及ばない俺だけど、練習だけは誰よりもして、ベースボーカルもこなせるようになる。俺は新たな目標が出来た。

 それに、次はきっと大丈夫だ。行き詰った蓮を一人にしない。一緒に悩んで一緒に考えるよ。絶対。

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