四章

第35話 ソロデビュー決定

 夜遅くまで作業して曲を仕上げた俺は、曲のデータをマネージャーの鈴木さんに送ってから泥のように眠った。

 目が覚めると、蓮からSNSにメッセージが来ていた。


 一度に”おやすみ”と”おはよう”のメッセージを受け取って、幸せな気持ちになった。俺はおはようの挨拶と一緒に、”曲、出来ました”と返信した。


 蓮からは笑顔のスタンプが送られてきた。

 

 映画製作会社に曲のデータを送った後、すぐに採用の連絡が来た。こうして俺、上村圭吾のソロデビューが決定した。

 映画制作会社と、レコード会社、所属事務所でソロの名前はどうするか、顔出しをどうするか、タイミングを話し合った。やっぱり顔出しはマストらしい。

 先行して今年のうちに、RE:PLAYが”悪役令息、皇帝になる劇場版”主題歌を歌うことが発表される。また現在公開済みの“タイムリープ”も劇中のストーリーに寄せて歌詞を変更し、劇中歌で採用されることになった。主題歌発表のタイミングで“タイムリープ”の動画に本物のアニメ画像を加えてリニューアルし、WEB公開することも合わせて決まったため、歌詞の修正締め切りは想像以上に早かった。


 俺、プロとして一人でやっていけるんだろうか?不安しかない。イベントなどで歌う場合、どういう風にパフォーマンスすればいいのか…。俺は考えれば考えるほど、蓮の偉大さを知った。


 本当はダメだけど、俺はSNSで連に、デビューすることを報告した。


“来年、デビューすることになりました。今泉さんのアドバイスのおかげです。”


“おめでとう!楽しみだな、すごく。”


 蓮のメッセージを見て、俺はRELAYがデビューしたときのことを思い出した。スカウトされてインディーズで初めてCDが出来上がったのを見た時、一緒に抱き合って喜んだことを…。


 蓮が喜んでくれるのが嬉しい。それは今も昔も変わってないよ。


“この間の話、考えてくれた?”


 この間の話…?ひょっとして、ラジオ出演のこと…?

 

“まだどういうふうに露出するか決まっていなくて、すみません。”


 俺はやんわり断った。だって、出られないよ。だって…。


“じゃ、決まったら教えて?待ってる。”


 待たなくても、時間がくれば俺が誰だかわかって、蓮はがっかりするだろう。


 俺はそれ以上メッセージを送れなかった。


 


 新曲がひと段落した後、マコトのWEB番組の出演について、いつもの創作居酒屋にマコトと二人で集まり話し合った。


「俺さ、RELAYの圭吾ファンなんだよ、知ってた?圭吾くんてさ、歌番組は楽器弾かないで”弾いてるふり”なのに…一人だけ、一生懸命リハーサル練習してて。そういうところ、いいなと思ってた。」

 マコトは相変わらず子犬のようにかわいらしい顔で笑う。

「それで、フェスで一緒になった時に、仲良くなろうとしたんだけど…蓮くんに邪魔されて。」

「邪魔?なんで?」

「いや、圭吾くんが分からないのに、俺が分からないでしょ!」

 マコトは目を細めて、不満ありげな顔で俺を見た。

「最初はね…バンド解散危機からの仲直りなんて、大ヒットコンテンツ間違いなしじゃんと思って声をかけたんだ。それが、だんだんその企画が嫌になって来て…。」

「なんで?」

「ただ単に、俺だけ損する展開じゃない?」

「再生数、稼げなそう?」

「いや、絶対稼げる!…でもさ…!」

 マコトは腕を組んで、難しい顔をした。ううーん、と唸っている。

「これは言いたくなかったんだけど…一番最初に飲んで、圭吾くんがつぶれた時、面白半分で圭吾くんの寝顔写真を蓮くんに送ったの。その後、蓮くんから鬼電がきて。それであの日、蓮くんが圭吾くんを迎えに来たんだよ。」

「え…?この間じゃなくて?」

「違う、あれは二回目。」

 ひょっとして、マコトと初めて飲んで酔い潰れたあの日、俺は蓮を夢だと思ってたけど…あれって本物だった?

 俺はあの日、蓮に会ったから…夢精した…?俺は自分の失態を思い出して赤面した。

「あ~それだよ!それ!」

 マコトは俺の肩に手を置いて、項垂れる。

「前回は、いや前回だけじゃなく…SNSとか写真誌でも挑発して、蓮くんがなんでそんなことするのかはっきりさせようと思ったんだよ。それがはっきりしたら二人はたぶん仲直りして、企画もうまくいくと思ったから。でも実際、はっきりしたら…。」

「マコトくん…?」

「すごい後悔してる。俺、自分で思ってるより圭吾くんが好きだったみたいだ。」

 マコトは俺の肩に手を置いたまま、俺を見つめた。

「圭吾くん、俺と付き合える?」

「つきあう?」

「恋愛的な意味でだよ。俺は付き合える。っていうか付き合いたいの。」

 俺はどんな顔をしたらいいかわからなかった。マコトのことは好きだけど、友達としてだ。俺が好きなのは、蓮だけだから…。

「いや、分かってたけど傷ついた!」

 マコトは察したらしく黙って酒を煽った。「今日は飲もう」そう言って。

 

 俺は、酔いがさめてしまった。


 マコトとのことよりも、蓮、お前のことが分からなくて。二回も迎えに来てくれてた?この間、コンビニの前で会ったのは、偶然?

 俺のこと、ブロックするくらい嫌ってるんじゃなかったのかよ…?

 ただ、自分が俺をこの世界に引き込んだから、責任感…?

 教えてくれよ、蓮…。

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