第30話 アニメ“劇場版・悪役令息、皇帝になるFinal”主題歌

 ついに、俺が高校の時からハマっているアニメ“劇場版・悪役令息、皇帝になるFinal”の製作が発表された。劇場版三作目にして“Final”。俺もメルリが最後どうなるのか気になって、考察サイトなどを見て回っていた。

 その時、原作者であるしらゆきうさみさんがSNSで「主題歌はRE:PLAYさんにお願いしたいです」と発言したことを知った。合わせて俺の動画の再生数も急上昇したのだが…。

 そうは言っても、劇場版なんてさ…もっとネームバリューのある人たちがやるに違いない。なんといっても“Final”で、注目度も高いし…。俺は考えてた。


 しかし、なんと俺のSNSには、レコード会社・映画制作会社からのダイレクトメッセージが送られてきたのだ。話をさせてほしい。そんな内容。


 ちょっとまって…俺はオファーの規模が大きすぎて震えた。

 誰に相談したらいいんだ。しかし、俺には相談相手が誰もいない…。

 マネージャー達は俺を首にするつもりだし、プロデューサーはパワハラだし、メンバーは俺を売るような人だし、マコトくんは会社違うし…。


 蓮は…俺を探して、庇ってくれた。



 リアルではブロックされているけど、仮想現実のメルリの俺に蓮は優しい。だから俺はつい、蓮にメッセージを送った。


“もし今泉さんが、手に負えないと思う仕事のオファーを受けたら、どうしますか?”


 すぐに既読になって、メッセージの返信があった。


“ひょっとして、悪役令息、皇帝になるの劇場版主題歌のこと?”

 

 そうだ、蓮は察しがいい。


“俺だったら、オファーを貰ったら受ける。向こうだって仕事だから、俺が出したものを見てどうするか考えると思うし…。そんなに気負う必要ないかなって。”

 

 そうか。そういう考えだったんだな。RELAYの時も。

 俺が返信できないでいると、蓮から続けてメッセージが送られてきた。


“受けてほしいな。すごい楽しみ。”


 俺はそのメッセージを見て涙が溢れた。


 RELAYの時も俺、毎回蓮の曲を楽しみにしてたよ。でも何も言ってこなかった。もっと色々言えばよかった。蓮が苦しんでた時、俺は何もしなかった。蓮に愛想つかされて嫌われてブロックされても仕方のないやつだ、俺は。


 でも、蓮が楽しみにしてくれるなら、精一杯頑張りたい。


 そのためには、いよいよ本腰を上げて、神谷プロデユーサーの件を解決しなければ。

 俺はついに…重い腰を上げた。



 そう思っていたのだが、俺はマコトに呼び出されてしまった。今度は創作居酒屋ではなく、マコトの事務所に。


 事務所の会議室で俺は、週刊誌の早刷りを見せられた。

 それは俺とマコトが路上で抱き合っている写真だった。


「YBIマコトと話題の家出少年の親密現場?!」

「笑っちゃうよね。うちの事務所からはコメント出したよ。“酔っぱらっていただけで、友達です”って。ファンの子たちも圭吾となら別に、批判とかもないだろうから。でもさ、圭吾側の事務所はリアクションなしだって。」

「そ、そうなんだ…それはそれはご迷惑をおかけしました。」

 俺が頭を下げると、マコトはふふふと笑った。

「いや、迷惑じゃない。最近いろんな人から問い合わせあるよ。元RELAYの圭吾くんがかわいい、紹介してってさ。俺が先に、目をつけてたのに、ちょっと悔しい。」

「と、ところでこの週刊誌、いつ発売?」

「明日だよ。」

「明日?!」

 俺は驚愕した。こんな写真掲載されたって、男同士で友達なんだから、何もないとは思うけど。おれは蓮にどう思われるか不安になった。仕事もしないで何やってんだ、とますます嫌われるだろうな。

 俺が考え込んでいると、マコトは俺の手を握った。

「写真の件で何かあったら俺に言って?圭吾くんのこと守るから。」

 マコトは俺に微笑んだ。


 魔法使いのマコト。でも俺にはやっぱりマコトの魔法は効かない。


 俺は蓮のことを考えながら家に帰った。


 夕暮れ、電車で最寄り駅に着くと、売地だったコンビニ跡地に、新しいフェンスが付いているのが見えた。何が建つんだろうか?俺が近寄って行くと、もう、少し懐かしくなりつつあった声に呼び止められた。


「上村さん!」

「あ、坂本さん?!」


 コンビニ本社の俺の担当営業だった坂本さんだった。

「実は…ここ、新しいオーナーが決まったんです。以前よりも少し大きくなって、復活しますよ!」

 坂本さんの人柄があらわれている優しい笑顔で言われて、俺はちょっとうるっと来た。 

「本当にうれしいです!俺、ここのコンビニ大好きで…。」

 そう、蓮といつも通った、ここのコンビニが大好きだった。

 そこまでは言えなかったけど、俺の話を聞いていた坂本さんはまた笑顔になった。

「楽しみにしていてください。あ、オープン決まったら、メールしてもいいですか?クーポンとか送りたいから!」

「ぜひお願いします!」

 

 坂本さんと別れた後も俺は何度も振り返って、建設中のフェンスを眺めた。

 

 俺がこの仕事をやり遂げて役立たずの圭吾を挽回できたら、コンビニが復活するみたいに蓮の好感度レベルも多少は復活して、また会える奇跡が起こるかなあ?ブロックも解除してもらえる?それは無理でもせめて、同じ空気を吸わせて貰える…?


 頑張ってみるよ。蓮…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る