第24話 新曲

 俺はちょっと高そうなホテルのロビーを、挙動不審気味に歩いてフロントに向かった。フロントで名前を言うと、なんと予約が入っている。いつの間に?!マコト、実は魔法使い?

 そんなわけないけど、そんなわけあるかも知れない。

 ルームキーの番号を頼りに部屋に向かうと、会計が怖くなるくらい、素敵な部屋だった。窓からは、都会の夜景が一望できる。俺がぼんやり夜景を見下ろしていると、ピンポーンと控えめな、でも綺麗な音のチャイムが鳴った。

 ドアを開けると、ルームサービスだった。綺麗に盛り付けられたサンドウィッチと、ミネラルウォーター。これ、絶対マコトだよね?やっぱり職業、魔法使い?なんで俺が、酒だけ煽ったこと知ってるんだ?


 急いでマコトにお礼のメッセージを送る。

 マコトからはすぐ、どういたしまして、とかわいいスタンプが送られてきた。その後、何回かメッセージのやり取りをして、俺はついに最重要案件に取り掛かることにした。


 その前にお風呂に入って、気持ちを落ち着けようとした。でも風呂はガラス張りで、ブラインドを下さないと部屋から見える仕様なのだ。おしゃれすぎて落ち着かない!別に誰も見ていないけど、俺は何となくブラインドを下ろして風呂に入った。

 風呂にはいい匂いの入浴剤が置いてあって、眠ってしまいそうだったが、何とか耐えて、風呂を出る。


 万全の準備を整えて、蓮にメッセージを送るべく、スマホを手に取って驚いた。

 スマホ画面は通知の嵐。

 通話に、メッセージ、それにSNSの通知の数々…。蓮からDMが送られて以降、SNSの通知も知りたくてメール通知を受ける設定に変更したから、それも重なってとんでもない件数になっていた。

 たくさんの通知を避けて、蓮のメッセージを開く。

 俺は悩みに悩んだ末に、”感想ありがとうございます。すごく嬉しいです。”と送信することに決めた。置きに行った感はある…でもこの返信に遊びを入れる余裕はない。俺は、動画をアップする時以上に緊張しながら送信ボタンを押した。


 蓮、俺、素敵な魔法をいくら使われても効かないんだ。でも蓮の魔法なら大体効く。こんな素敵なホテルのサンドウィッチより、蓮と食べる、コンビニのカップうどんの方が美味しいんだから、さ。


 返信が来ますように。


 俺がベットに潜ってしばらく祈っていると、 それは突然やって来た。


 “返信ありがとうございます。次はいつ頃、更新予定ですか?楽しみにしています。”


 次?!俺は思ってもみない返信に慌てた。“次”なんて考えていなかった。でも、蓮が楽しみにしてくれるなら、”次”を作りたい。俺は蓮を思い浮かべながら、次回作をどんなものにしようか考えた。


 蓮、どんな曲がいいと思う?

 俺に、どんな曲を歌ってほしい?


 蓮、聞きたいことが沢山あるんだ。

 蓮はいつも俺に質問ばっかりしてたけど、俺も、もっと自分から聞けば良かった。


 もう遅い?


 俺は新曲を作ることにした。ホテルにある便せんに歌詞を書いたり、鼻歌アプリで採譜したり、試行錯誤は朝方まで続いた。


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