第19話 マコトのアドバイス

 メルリの歌チャンネルの動画はまだ一本。再生回数も百に満たない。登録者数に至っては……。全然、回ってない。俺は何度も何度も自分のチャンネルを見に行ってはため息をついた。

 これじゃ、蓮が見つけられるわけがないじゃないか。


 俺はまた、落ち込んだ。



 落ち込んだらやる事はひとつ。ベットに潜って、寝るしかない。俺はまたは惰眠を貪ろうとした。その時、スマホがブルブルと震えた。

 メッセージを送信して来たのはYBIの、マコトだった。  

 


「僕の分はもう、撮影終わったんだよ。あのドラマ。」

「そうなんだ。」

「でも蓮くんはまだかな。あと少しだとは思うけど。」

「へぇ〜。」

「その後も蓮くんと陽菜ちゃんは音楽番組巡りで、年末までスケジュールびっしりかもね?二人が歌ってる主題歌、あの曲、チャート見た?すごいよね。」

「…うん。」

 俺はまた鼻がつーんとしてきた。俺のメルリ動画再生数、百もいってない…泣いてもいいんじゃないかな、これは。

「おいおい、どーした?!」

  YBIマコトくんは、俺の背中をよしよし、した。

「何かあったの?」

 俺は目頭を押さえて、待ってくれ、のポーズをした。

 その後、呼吸を整えてから、話し始めた。

「実はその、最近、WEBでね、動画の投稿を始めたんだけど。」

「全然回ってないの?」

「そう…。それで今の話が、めちゃくちゃ堪えた。」

「回ってないってことは、圭吾くんひょっとして顔出ししてないとか?圭吾くんは、今の感じで顔出せば、一発だと思うよ?」

 それはちょっと、と俺が渋ると、マコト君は不思議そうな顔をした。

「芸能人なのに顔出ししないとか、謎なんだけど。何の動画なの?エッチなやつ?」

「まっ、まさかっ!普通のだよ…。」

「ふーん?」

 マコトは益々分からない、という顔をした。

「真面目に言うと、今長い動画がなかなか厳しいんだよ。だからまず、その動画のショート動画を作ってみたら?ショートは回りやすいの。それでみてもらって、登録してもらう。あと別の、ショート動画専門の媒体でも配信したり、SNSで告知したりするといいよ。」

 マコトは真剣な顔でアドバイスしてくれた。今度は本当に涙が出てきた。

「ありがとう!!」

「いや、そんなに感謝しないで。みんなやってることだから。」

 マコトは可愛らしい子犬スマイルで笑った。そしてまた俺をよしよしした。

 今日は先日会った創作居酒屋の店でまた会っていた。前回とは違う部屋で、通された個室はL字型のソファーが置いてある部屋だった。それで横に並んで座ったので、先日より距離が近い。

「圭吾くんマジで可愛いね。…なんでRELAYが解散したのか分かんないよ。俺は。」

「うん、俺も。」

「え?!そういう感じなの?!」

「えっと…。」

 解散理由は箝口令が敷かれていたんだった。まだ対外的には活動休止で解散じゃない。でもみんな、解散だと思ってるから、ややこしい。

 俺が黙ると察したらしいマコトはまた笑った。

「でも俺、ちょっと分かった気がする。ひょっとして、圭吾くん…。」

何?俺が何?やっぱり俺が原因?俺がまた項垂れると、マコトは俺の頭を撫でた。

「圭吾くんは別に辞めなくても良かった感じ?活動休止は誰が言い出したの?って、たぶん、蓮くんでしょ?」

「う…、誰がどうしたとか、詳しくは言えないけど…。でも多分俺のせい。蓮にメッセージ送ったけど、既読にすらならないし…。」

「既読にならない?何それ?ブロックされてるとか?」

「え?!」

 ブロック?!まさか…?!俺は目の前が暗くなった。ブロックって、あの、ブロック?積み木の方じゃないよね?嫌いな奴にする、アレのこと?蓮、俺のことそんなに嫌だったのかよ…俺は思考停止に陥った。そんな俺の頭を撫でながら、マコトはスマホで俺の写真を撮った。

「良いこと思いついた。」

「良いこと?」

「うん。番組の企画。」

  そうだ、今日は例のWEB番組の打ち合わせと言って呼ばれたんだった。

「俺に任せてくれる?すこし長い動画にしたいんだけど、良い?」

「え?内容は?俺で長い動画って…そんなにもつ?」

「もつもつ。大丈夫。圭吾くんかわいいから絶対大丈夫!」

 俺はまたマコトに励まされてしまった。いい奴だなぁ、マコトは。

 マコトは「忙しくなるぞ〜」と笑って何やらスマホに入力していた。そしてもう一度俺の写真を撮ると、その日は早めの解散となった。


 俺は早速、家に帰ってマコトに言われた「ショート動画」を作成した。最大60秒らしいが、サビのワンフレーズだけ、40秒の動画にした。悪役令息、皇帝になる、とメルリのタグを付けた。

 ショート動画をアップして、その後、SNSのアカウントも作成して登録した。マコトがSNSで告知すると良いよ、と言っていからだ。しかし登録までで疲れてしまい、俺はパソコンを閉じた。


 でも…俺がいくら思っても、蓮は俺をブロックしてるくらい嫌ってるんなら意味ないんじゃあ、という気持ちが込み上げてきて、またしんどくなった。


 しばらく動画の再生回数をチェックするのは辞めておこう。俺は問題を棚上げして、ベットに潜り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る