第15話 コンビニオーナー説明会
俺はついにコンビニオーナー説明会にやって来た。「気軽にお越しください」というメッセージを信じていた俺は、物凄く世間知らずだと言うことを痛感した。俺はラフな格好だったが、その他の参加者はみんなスーツ姿だった。
そりゃそうだ。結婚式だって平服でお越し下さいと書いてあるけど、普段着で行くやつなんていない。そういうもんだと言う常識が俺には無かった。
もう入り口で帰りたかった。
更に説明を聞くに連れて、帰りたい気持ちは高まって行った。
俺は初期投資費用が少ないと言われるコンビニエンスストアに的を絞っていたが、それは加盟料についてだけだった。なんとコンビニに並べる商品はオーナーが購入しなければならず、全て買い取り。その資金は自己資金で用意するか、銀行借り入れ、コンビニ本社から借り入れるかのいずれかである。その額、数千万…。コンビニ本社が土地と建物を用意してくれるというのも、借りるということだった。
商品仕入れ代金を返済しつつ、土地建物の賃料を払い、パートアルバイトを雇い人件費・光熱費を支払う……。しかも商品仕入れはずっと続く。返済が終わっていないのに、また商品を仕入れて売るのだ。
俺は訳がわからなくなった。貸借対照表ってなに?キャッシュフローって何…?
もう帰りたい…多分ここにいる誰も、俺に経営が出来るとは思っていないと思う。だって担当の営業マンも、周りにいる社員達もなんだか俺を見てニヤニヤしている。ごめんね、場違いのところに来ちゃって!でも真剣だったんだ、それだけは信じて欲しい。
そう思ったのが通じてしまったのか、俺は個別説明会にまで連れていかれて、訳が分からないシユミレーションをさせられて、へとへとになった。
帰り際、俺の担当になった営業マンに見つめられ微笑まれ力強く握手されたのだが、その営業マンに微笑まれるとノーと言えない病は患っていなかったので、「考えさせてください」とだけ言って、しばらく連絡を既読無視することに決めた。
説明会は都心の、コンビニ本社で行われていた。その最寄り駅はビジネス街と、反対側は対照的に若者の街だ。俺は気分転換に反対側の入り口に向かうと、駅の遊歩道の大型看板が目に飛び込んできた。
蓮の広告だった。
もう俺が見ることが叶わない、まぶしい笑顔の写真だった。周りで、女子高校生たちが一緒に写真を撮っている。
忽ち、反対側の入り口に来たことを後悔した。足早に電車に乗って、実家の最寄駅へ向かう。
帰り道、俺たちの思い出の、あのコンビニの跡地をまた目にした。
夕焼けがやけに眩しかった。ちょうど、高校が終わって帰ると、この時間。二人で確かにこの時間ここにいた。二人でたわいもない話をして、商品を選んで。…楽しかった。
もう、俺はここにコンビニを復活させられない。
何もなくなってしまう。蓮との何もかもが…。
俺は泣きそうになった。
その時浮かんだのは、自分の正直な気持ち。メロディーとともに、頭に中に流れてきた。
俺はまた採譜アプリに鼻歌を吹き込みながら家に帰った。そして切なくて悲しい気持ちを歌にした。
♪約束
朝の駅、学校の休み時間、移動教室に向かう渡り廊下
約束したことなんてなかったけど
いつでもきみを見つけられた
昼休み、放課後の昇降口、最寄り駅のコンビニ、
約束はしていなかったけど
会いたいと思えば必ず きみをみつけられた
約束なんてなくても 必ず
もっと約束をしておけばよかった
喧嘩したらどうやって仲直りするかとか
会えなくなったらここで会おうとか
おはようとおやすみのメッセージはしようとか
いつも何気ない日常の延長で会えるという幸せな時間は
いつのまにか季節がうつろって、時間の経過とともに流されて
離れ離れ
会えなくなった
もっと約束をしておけばよかった
喧嘩したらごめんねっていうとか
会えなくなったら会いたいっていおうとか
ずっと好きだった まだ好きでいるからとか
曲が出来てボカロに歌わせてみたのだが、自分の気持ちが入りすぎている曲だからか、どうもしっくりこなかった。時間は無限にあったので、自分で歌って自分でMIXすることにした。あとやっぱり、ベースは自分で弾くことにした。自信がないとはいえRELAYのベーシストだし、俺はベースが好きだった。
曲が完成すると、無性に聞いてもらいたくなった。他の誰でもない…蓮に…。
思い切ってメッセージを送ってみたが、未読スルー。既読にすらならない。
あの日、枯れるほど泣いたのに、また涙がこぼれた。
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