第3話 質問

「上村さぁ、俺と最寄駅一緒って知ってた?あと上村、駅の近くの塾の夏期講習行ってただろ?俺、上村の前の席だったって知ってた?あと俺、この学校では希少な高校入学組なんだけど、中学の時も同じ塾だったって知ってた?」

「え、ぜんぜん…」

「全然?ふーん。じゃ、一年の時、環境美化委員会で一緒だったの覚えてる?」

「環境美化委員会…?俺いた?!」

「いたいた。いや別に、何するってわけじゃない委員だけどさ。夏休みにも集まって草むしりしたろ?あ、その顔、全然記憶ねえな。分かったもういい。」


 修学旅行の行程を因幡に丸投げして、今泉蓮は俺の机に椅子だけ持ってきて俺と向かい合って座っていた。因幡を始め五班の女子も他の班も一生懸命、旅行日程を考えている最中、今泉は息つく暇もなく俺に質問を浴びせた。俺は今泉の質問にほとんど答えられなかったのだが、今泉は質問を止めなかった。


「上村と俺、名前の順が近いからさあ、一学期の初めのころ俺、上村の前の席に座ってたろ?その時上村のイヤホンからいつも音漏れして聞こえてた曲、あれ何?」

「あ、あれは、そのぉ…。」

「そのお……?」

 先ほどまでは質問に答えなくても次の質問をどんどんしてきたのに、この質問に関しては俺の答えをじっと待った。俺はなんとか、かわそうとしたのだが、いい案が思いつかなかった。

「じ…自分で作った曲だから…。」

「自分で作ってんの?!どうやって?!聞きたい!!」

「ひ、人に聞かせるようなもんじゃないよ……鼻歌を採譜してくれるアプリに入れて、作った曲をボカロエディターに入れて……すんごい雑なやつだから。」

「上村って、たまに鼻歌も歌ってるよな?聞きたい!聞かせて?今スマホ持ってる?」

「今?!ダメでしょ!流石に……!」

 今泉がさらに話を続けようとすると、今泉は後ろから肩を叩かれた。ーー先生だった。

「今泉!流石に、それはないだろ!前くらい向けよ!」

 先生に叱られた今泉はようやくそこで話を止めた。俺にとっては天の助けだった。あの歌はまずい。リア充イケメンにはとても聞かせられる歌じゃない。なぜならあれは、自分の好きなアニメキャラの心情を歌にしたものなのだ。脇役で、あんまり出てこなくなってしまうキャラクターとか悪役が好きな俺は、アニメだけでは飽き足りず、そんなものを二次創作していた。それを今泉に聞かれていたとは…恥ずかしすぎる!絶対聞かせられない。でも、そのうちこの話は沢山ある話題の中で消えていくんだろう。そう思っていたのだが。

 

 思っていたのだが…。


「上村!」

 地元の駅の改札口で、後ろから呼び止められた。振り向くと、人懐っこい笑顔の今泉がいた。今泉の笑顔に俺はドキリとした。コミュ障の俺には男同士とはいえイケメンの笑顔は心臓に悪い。

「上村はいつもこの時間?まっすぐ帰ってるってこと?バイトとかしてる?駅からは歩き?」

 今泉はドキドキしている俺をまた、質問攻めにした。しかし表情で読み取ったのか答えは聞かずに話を続ける。

「さっきの、鼻歌聞かせてくれよ!」

 今泉は俺にぐいっと近付いて肩を組むと笑いかける。恥ずかしくて今泉の笑顔を直視できず、俺は反射的に俯いた。

「人に聞かせるようなもんじゃないから。」

「……嫌だった?」

 今泉は俺の頬をつん、とつく。しばらく沈黙した後、耐え切れなくなって今泉の方に視線を上げると、今泉は俺をじっと見下ろしていて目があってしまった。

「上村って、まつげ長いって言われない?あと目…。肌もきれいだっていわれない?日焼けとかしないの?」

 今泉はまた俺を質問攻めにした。俺が答えるより前に、今泉のポケットの中のスマホが大きな音をたてて震えたので、そこで会話は終わった。

 今泉は通話しながら俺に手を振った。口から音は出なかったが“バイバイ”と言っていた。


 今泉は一方的だな、と思った。俺も、質問したいことがいろいろと出来ていた。なんでそんなに質問するんだよ、とか、彼女と分かれて俺みたいなオタクと同じ班でいいのかとか…、それにその背中のバック…ギター?お前、音楽やってるの?だから俺の鼻歌が気になる…?


 今泉は背中に黒いギターケースを背負っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る