第2話 出会いは高校二年生

 俺が通っていた学校は中高一貫の私立で、既に高校一年の時には受験を見据えて進路ごとにクラス分けがされていた。俺は一年の時、理系コースを選んだものの早々に数学に挫折して二年に上がる時、文系コースに変更をしたのだった。

 文系コースは理系コースと違って、女子が多く男もそれを意識してるのか、チャラそうな男が多かった。多分におれの偏見を含んでいるとは思うが、そもそも一年から二年のクラスはほぼ持ち上がり。コミュ障でアニメオタクの俺は全く友達が出来ないまま、一学期はあっという間に終わってしまった。

 夏休みが終わっても、過酷な残暑は続き俺は体調をくずして三日ほど学校を休んだ。特に誰からも体調を気遣う連絡などはなかったが、俺は夏休みを三日延長した後、比較的元気に登校した。

 いつもはおはよう、なんて言っても、こちらの顔も見ずに返事をされるのに、その日は様子が違っていた。あ、来た来た、と女子達があからさまに浮き足立っている。なぜだろう?、不思議に思いながら席に着いて、その理由をすぐに理解した。

 机の上には、修学旅行のしおりにクラスの班分けが書かれた紙が貼り付けてあった。俺の班は女三人、男二人の五人。男の一人は俺、もう一人は、今泉蓮だった。

 早速、昼休み女子に呼び出されてしまった。ヒエラルキー上位の、キラキラ系女子に。 


「蓮と美咲は、一緒に修学旅行の班行動しようって、約束してたのよ。それなのに、あんたが班決めの時に休んで、しかも一人だけ余ったりしたから…優しい蓮があんたと一緒の班になっちゃったのよ?!」

「じゃあ、五班の女子に代わって貰えば?」

「それは…それだと私達の彼と別々になっちゃうじゃない!」

――つまり、俺を呼び出した女子三名は男三×女三のグループ交際をしており、そのグループで修学旅行に行こうとしていたが、今泉蓮が謎の優しさを見せて俺と同じ班になったため、今泉蓮の彼女“美咲”が独りぼっちになってしまった、ということらしい。

「とにかく!蓮は私達と行動するから、あんたはちゃんと一人で女子のグループに入って班行動すること!先生にはばれない様にするのよ!!いいわね?!」

 三人は俺の返事も聞かずに行ってしまった。そんなに心配しなくても、今泉蓮は俺とは行動を共にしないだろう。

 今泉蓮はクラス一、いや学年、学校一モテる、簡単に言うとイケメンなのだ。ちょっと茶色い髪に甘いマスク、スラリとした長身。そりゃそうだろう、モテるよね、という奴だ。外見もいかにもアニオタな、痩せてて髪も千円カットで伸び放題、メガネヅラの俺となんて話が合うはずがない。 

 でも一緒に行動しないなら、いっそ女子とも別になって、一人で行動した方が気楽かもな、なんて思っていた。


 思っていたのだが。


「俺、伏見城に行ってみたいんだよね。知ってる?伏見城の戦い…結構むずかしいんだよなー、全ミッションクリアするのが…」

 ほらこれ、と言って今泉はスマートフォンのゲーム画面を開いて俺に見せた。結構やり込んでいるらしい。

「上村このゲームやってる?“戦国アンライバル”、おれはコレが歴史の教科書だからさー。上村もやりなよ。オンラインで対戦しよ?」

「俺はそういうのはあんまり…。」

「ふーん、普段なにかやってる?面白いのあったら教えて?俺…」

「今泉くん!勝手に話をしないで!今は班長と自由行動のルートを決めなくちゃいけないんだから!」

 機関銃のように喋っていた今泉は、同じ班の女子に注意されて一旦話をやめた。そしてクラス委員だという生真面目そうな女子、因幡鈴いなばすずの方を向いた。

「班長は因幡さんでいいんじゃない?俺は伏見城に行きたい、それだけ。あとは任せるから。」

「ちょっと!真面目に考えてよ!」

「上村はどこ行きたい?上村が行きたいところにも行こうぜ!」

因幡鈴は、呆れている。俺もただただ驚いた。イケメン今泉蓮は、冷たそうな美形の癖にお喋りで強引だった。

 でもなんだか憎めない奴だ。因幡がカリカリしていると、ポケットの中から飴を出して配りだした。最後に今泉は飴の袋を丁寧に剥いて、俺の口に飴を直接放りこんだ。

「おいしい?」

今泉は人懐っこい、満面の笑顔で俺に聞いた。

 俺が答えるより先に自分も飴を舐めて「コレうまいんだよなー」と言った。

 全員完全に今泉のペースにのまれてしまった。結局班長は因幡鈴、自由行動は一番初めに、伏見城に行く事が決まったのだった。

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