好きな人に遊ばれて捨てられたおれのサクセスストーリー(たぶん)
ぱんのみみ子
一章
第1話 バンド解散!
同じ音楽大学の同級生を中心に結成されたバンド
―そう言ってボーカルの
ボーカルの今泉連はバンドのビジュアル担当であり、作詞・作曲担当であり、ギターも弾くバンドマスターである。その今泉蓮が脱退となれば、バンドは機能しない。事務所の説得により、表向きは活動休止となったが、事実上の解散となる事は周知の事実。そのほかのメンバーは急遽、バンド解散後の身の振り方を模索しなければならなくなった。
RELAYのメンバーは一人を除いて同じ音楽大学を卒業している。そのため、バンドメンバーの演奏技術には定評があり、他のアーティストからサポートで加入しないかと誘われたり、音楽の専門学校などから講師の依頼も舞い込んでいた。
ただ一人を除いては。
その一人、というのが俺、ベース担当の
解散後、事務所に呼び出した俺を、RELAYのマネージャー
「ケイちゃんだけよ。見てよ、この真っ白なスケジュール!今月のスケジュール、今日の午前中、事務所でアタシと打ち合わせ!以上!」
「じゃ、じゃあ…わざわざ事務所に呼び出さなくても良かったんじゃない?」
「まあ、それはそうだけど…あんまり言いたくないんだけど、このままなーんにも仕事がないと、契約終了、ってことにもなり兼ねないわよ?!」
「そうだよね~。」
「はあ~…心配だわあ~…。蓮なんか、見なさい!これを!あ、やっぱり見ちゃダメ!ケイちゃんが可哀そうすぎる!!」
阿部マネージャーはそう言って、蓮のものと思われる真っ黒なスケジュールを裏返した。
「いや別に、大丈夫だけど…。」
と俺が言うや否や、待ってましたと言わんばかりに素早くスケジュールをまたひっくり返した。
「蓮はね、ドラマに映画に、三年先までスケジュールが埋まってるのよ?私の営業力もあるけどさ、予想以上なのよ。」
RELAY解散前から蓮にはミュージシャンだけではなく、俳優も、という兆候があった。顔もいいし、ミュージックビデオでの演技も評判だったからだ。
蓮は人気絶頂のRELAYを活動休止させるにあたり、事務所に他の仕事を受けることを約束させられたようだ。それで現在はドラマに映画にCMに大忙し、というわけ。裏を返せば、それだけRELAYを辞めたかったってことだ。
阿部マネージャーは蓮のスケジュールをじっと見ていた俺をみて大きなため息をついた。
「ケイちゃんにも何かあればバーターで仕事ねじ込めるかもしれないよ?何か特技ないの…?料理、スポーツ、絵画……。」
「しいていうならベースだけど。」
「あほかっ!」
そう、俺のベース技術はマネージャーに「あほ」呼ばわりされてしまう代物なのだ。それなりに努力はしていたのだが、俺は音楽大学出身ではないただのFラン大卒…世間の俺の演奏への評価は、お世辞にも良くない。エゴサをしてはいつも震えていたくらいだ。外見だって普通。アニオタだった高校生の頃とは違いミュージシャンらしく、連に勧められた髪型と服でおしゃれと清潔感には気を付けているが、如何せん元が平凡なのだからどうしようもない。
そんな普通の俺がなぜ、リレイに加入したのかというと、今泉蓮に誘われたから……ただそれだけの理由だ。俺と蓮は、高校からの同級生。俺は高校の時から蓮のことが好きで、誘われて断れなかったのだ。いや……蓮と一緒にいたくて、俺は必至だった。必死にベースを練習して…でももう終わってしまった。長いようで短い、七年間だった。
事務所を出て、駅までの道を一人、スマートフォンを見ながら歩いた。
俺にはミュージシャンを辞めたら、やろうと思っていたことがある。それはコンビニエンスストアのオーナー。コンビニの土地・建物はコンビニ本社側が用意してくれて、開店準備資金が比較的、低く済む会社に狙いを定めていたので早速、スマートフォンから説明会の予約をしたのだ。
俺は、もともとオタクで人付き合いも少ないし、趣味もあまり金のかからないものだから、貯金はまあまあ、ある。そのためコンビニオーナーは十分手に届きそうな俺の夢なのだ。
それに…蓮はコンビニが好きだから、コンビニのオーナーになればいつか、蓮が買い物に来るかも、なんて。
蓮はコンビニの変わり種おにぎりとか、コンビニ限定のカップ麺やお菓子が大好きなのだ。高校の頃、よく一緒に食べたっけ。いや、大人になってからも。
蓮はバンドのビジュアル担当だけあってイケメンで多趣味で、友達も多い。一説には人気女優と交際しているとかしていないとか…。そんな蓮となんの特技もないフツメンのベース担当とは、バンドが解散してしまったら会う機会がない。実際、解散後の数か月、一度も会っていない。
蓮との繋がりが欲しい。バンドは無くなってしまったから、別の何かで、繋がっていたい。
俺たちが通った思い出のコンビニは、移転して今はもうない。いつかあの場所にコンビニを復活できたらまた、気軽に、再会できそうな気がして…。
蓮に会いたい。まだ好きだから……。
ずっと、ずっと好きだった。高校生の時から、ずっと…。
涼しげな目元に、すっと通った鼻筋、薄い唇。冷たそうな美形に見えて、実は人懐っこくて話好きなギャップ。少し強引なところ。それに蓮の歌――。あの日、歌う蓮と目が合って、見つめられた……。その時から、ずっと、ずっと好きだった。高校二年のあの日から、ずっと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます