第24話 兎獣人の豪腕
リザたち一行は、ティファナの目と鼻の先に展開しているティタニアの兵団へ向かって進んでいた。
兵たちは整然と列をなしてはいるものの、明らかに戸惑っている様子は遠目からでも窺えた。距離が近づくにつれその様子がより明確に伝わり、リザやマリーも幾何かの緊張を抱く。まったく緊張していないのは――
「……ん? どうしたの、リザ? もしかして緊張してる?」
意気揚々と集団の先頭を歩くレイナが、意地悪そうな表情を浮かべリザを見やった。獣王国の面々からすれば、リザたちは憎き侵略者である。
しかも、帝国の暗部である特殊魔導戦団シャーレ、そのなかでも世界的に悪名が高い鮮血部隊なのだ。問答無用で戦闘が発生しても不思議ではない。
「緊張は……してるよ。むしろ、レイナはどうしてそんなに平気なの?」
レイナにジト目を向けるリザ。隊長の言う通り、とでも言わんばかりに鮮血の面々もコクコクと頷く。
「だから、もう話はつけてあるって言ったじゃん。それに、向こうだってわざわざ帝国の精鋭や
「そう……なのかな?」
「そうそう……おっ。あそこに突っ立ってるのが、兵団をまとめているオルバ将軍だよ」
レイナが指さした先に視線を向ける。そこには、機動性を重視した兵装を纏った屈強な虎獣人が立っていた。
将軍の向かって左側には熊獣人、右側には狼獣人が立ちこちらを睨んでいる。おそらく将軍の側近、もしくは護衛であろう。
「やっほー。待たせたわね」
軽い調子で手を振りながら将軍に近づくレイナに、マリーやアイリーンがぎょっとした表情を浮かべる。
「……そちらの
眉間に大きなシワを刻んだオルバ将軍が、忌々しそうに言葉を吐く。声色や雰囲気から、不機嫌である様子がありありと伝わってきた。
「ああ。君たちが協力してくれたしね。感謝するよ」
「協力……だと? いきなりやってきたと思ったら、たった一名で兵団の一部を壊滅させ、ワシをはじめとした指揮官を力づくで屈服させておいて……」
ワナワナと体を震わせるオルバ将軍。見ると、将軍と左右に立つ側近の顔には、明らかに殴られたと見られるアザが浮かんでいた。
「ああ~……いきなり襲いかかったのは申し訳なかったかも。でも、悠長に話をするような雰囲気でもなかったでしょ?」
「く……」
将軍たちの顔が屈辱の色に染まる。相手が
なお、双方のやり取りから、レイナが話をつけた方法を初めて知り驚愕するリザたち一行。マリーやリンナの顔には、「信じられない」といった表情が浮かんでいた。
「まあまあ、多少乱暴したことは目を瞑ってほしいかな。で、彼女たちが、ネルドラ帝国の元兵士たち」
オルバ将軍の鋭い視線が、レイナの横に立つリザに突き刺さる。鋭い、などと生易しいものではない。
「……元、ネルドラ帝国特殊魔導戦団・シャーレ、鮮血部隊の隊長リザ・ルミナスよ」
リザ・ルミナスの名は、世界中の軍隊や諜報機関に鳴り響いている。が、さすがにこのような子どもとは思っていなかったのか、将軍の左右に立つ二名の兵士は明らかに困惑の色を浮かべていた。
「貴様があの、悪名高きリザ・ルミナスだと……?」
「……どのような悪名かは知らないけど、私が鮮血の隊長であるリザ・ルミナスであるのは間違いないわ」
特に表情を変えぬまま、リザはオルバ将軍を見上げて口を開く。
「……そこな兎獣人のレイナから大まかな話は聞いている。同盟に関する話をするため、獣王様にお会いしたいそうだな」
「その通りよ」
「はっきり言って信用できん。我々は今、憎き侵略者であるネルドラ帝国と戦端を開いている。すでに、我が国内にあるいくつかの町が占領下に置かれた。獣王様に会いたい目的も、暗殺である可能性は否めない」
当然だとリザは思った。それほど簡単に信用されると、それはそれで不安だ。
「ちょっとちょっとー! 兎獣人の言うことが信用できないって言うのー!?」
腰に両手をあてたレイナが、オルバ将軍へ厳しい視線を向ける。よほど手酷く殴られたのか、レイナの声を聞いた瞬間、将軍の両サイドに立つ獣人がビクッと肩を震わせた。
「い、いや……兎獣人のことは疑っては……いない。が、帝国人となると話は別だ。しかも、そいつはシャーレの精鋭なんだぞ……?」
「だーかーらー! 今はもう帝国の軍人じゃないって言ってんでしょーが! この子だけじゃなくて、鮮血部隊の隊員たちも全員帝国から一抜けしてんの!」
「い、一抜けって……そんな簡単に……」
「とにかく! この子たちに関しては私が責任をもつわ。それに、リザたちは元帝国の精鋭。あなたたちに役立つ貴重な情報もたっくさんもってるわよ? ほしくないの?」
「ぐ……」
何も言い返せなくなったオルバ将軍は、その場で後ろを向くと、側近の獣人と何やらヒソヒソと会話を始めた。そして――
「不本意ではあるが、分かった。とりあえず、獣王様へ目通りできるよう取り計らおう」
レイナとリザの背後で、マリーやアイリーンたちがわっと声をあげる。
「喜ぶのは早い。獣王デュオ様は警戒心が強いお方だ。もしかすると謁見できない可能性もある」
その言葉に不満げな表情を浮かべるレイナ。一方、リザはそういうこともあるだろうと予想はしていた。
「それと、王城まで案内するのはレイナとリザの二名だけだ。それ以外の者は、王城から離れた場所で待機してもらう。もちろん、我が軍の監視つきだ」
これもまあ妥当な判断だ。マリーたちもそれくらいは理解できているだろう。と思いちらりとマリーを見やったリザだが、思いのほか不満げな表情を浮かべているのを見て考えを改めた。
とりあえず、何だかんだあったものの、リザたち一行は獣王国ティタニアの王都へ無事向かえることになった。
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