第2話

俺が五十五歳の時に、両親が死んだ。

死因は別だが、死んだ日は数日しか変わらなかった

 

俺が五十八歳の時に、妻とまだ独身だった一人娘が死んだ。

別々に死んだが、死んだ日は数日しか変わらなかった。


俺が五十九歳の時に、妹夫婦と一人息子が事故で一度に亡くなった。

俺には近い親族が一人もいなくなった。


俺が六十歳の時、乗っていたバスが崖から落ちて、俺一人をのぞいて乗客全員と運転手が死んだ。


俺が六十二歳の時に、乗っていた飛行機が墜落した。

俺以外の乗員と乗客がみんな死んだ。


六十五歳くらいの時に、急に目が悪くなり、メガネなどでは追いつかなくなった。

見えないわけではないが、かなり視力が落ちた。

そして次は、耳が悪くなった。

補聴器でも完全にカバーできないほどに。

更に足腰が急激に衰え、両手もしびれるようになった。


俺が六十八歳の時だ。

住んでいた古アパートが夜中に家事になった。

住民二十名が死んだ。生きていたのは俺だけだった。


俺が七十の時だ。

ふと気がつくと、自分の名前がわからなくなっていた。

しばらくして思い出したのだが、自分の名前すら忘れてしまうとは。

少し前から記憶力が壊滅的な状態となっていたが、忘れるはずのない古い記憶も危うくなってきたようだ。

これが痴呆というやつの始まりか。

でも俺は、あの男の言う通りなら、あと三十年生きなければならないのだが。

それもたった一人で。



       終

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