13.勘違いするのは普段からそういうことを云々。

「はぁっ……はぁっ…………ここまでくれば……大丈夫か……」


 大分走った気がする。なにせ、追いつかれたら終わりだ。向こうは俺が透け透けのラッキースケベを体験したことを知っている。そうなったらもう、逃げるしかないじゃないか。そう思っていたんだけど、


「…………逃げて、どうするんだ」


 思い至る。


 そもそもの目的は欠けていた青春を手に入れることだ。その中にはラッキースケベだって入っているんじゃないのか。もしそうだとしたら、俺はどうすればよかったんだろうか。ラッキースケベに乗じて、ご休憩とでもしゃれ込めばよかったのだろうかあ、でも学生服じゃ入れてくれないか。いやでも、もしかしたら、それくらいは目を瞑って、


「どうしたんですか、蒼汰そうたさん?」


「いや、ラブホって学生服でも入れるのかなって……うおわぁ!?」


「…………」


 ラピスだった。


 本物のラピスだった。


 俺のことをじっと見つめている。


 実に模範的なジト目で。


 じーっ。


「…………あの、ラピスさん?えっと、これは違うんですよ」


「何がどう違うんですか、変態さん?」


「だから違うって!誤解なんだって!」


「ご、誤解って……じゃあ一体何が正解なんですか!学生服でもら、ら、ラブホに入れるかだなんて、そんなことを私に聞いてどうするつもりなんですか!はっ!まさか、神の力を手に入れてやるぜうへへへへなんて考えてるんですか!強欲!強欲!」


「あっ、痛い!痛いからやめて!そのハリセン微妙にしっかり作られてて一発一発のダメージが大きいからマジでやめて!」


 ラピスは再びどこにしまっていたのかも分からないハリセンで俺をひたすらにひっぱたきまくる。うう、どうしてこんな目に……



               ◇



「ほんっとーーーーーに、申し訳ありませんでした!」


「分かればよろしい」


 数分後。何とかラピスの暴走を止めた俺は、ここまでのことの次第を説明し、誤解を解くことが出来た。正直内容が内容だから、もっとからかいらしいからかいがあると思って身構えていたんだけど、そんなことはなく、割と本気で謝っていた。


「うう…………私としたことが、恥ずかしい間違いを……」


 その主要因は「あかつき蒼汰が自分をラブホテルに連れ込もうと考えている」という、斜め上の想像をしたこと……らしい。


 正直俺からしてみれば、両方とも学生服だったわけだし、その勘違いも致し方ないような気もするのだが、当人からすれば気になるんだろう。いつもであれば、ここぞとばかりにからかってやるのだが、今それをするとこちらにも被害が及びかねない。人を呪わば穴二つ。触らぬ神に祟りなし。無駄なことをするのはやめておこう。突っついて出てくるのが蛇だけとは限らない。


 と、いうわけで話題を変えて、


「そういや、お前、なんでこんなところにいたんだ?」


 ラピスははっとなり。


「そうだ。そうでした。蒼汰さん。私は今大変重要な任務を仰せつかったところだったんでした」


「任務って……まさか神様から追加の注文でも承ったのか?」


 ありえる話だ。何せ俺は今、桜ヶ丘の姫君こと能登碧嬢を、濡れスケの大変エッチな状態のまま放置して逃げ帰って来たのだ。完全にヘタレのムーブ。


 流石の神様も「ないわー、こいつマジないわー。あまりに無さすぎるからもうサクッと処す?処す?」と、血気盛んになってしまっていても全然不思議はない。


 ごめんなさい神様。一体どこにいらっしゃるのかは存じ上げませんが、これからは毎年の初詣にはきちんと行きます。今までは忘れた頃に「要は一年に一回行けば効力的には継続されるってことだろ?」とか言って、一月の終わりから二月の頭という大変外れた時期に、初詣もどきをして申し訳ありませんでした。これからは心を改めて、ちゃんと初詣らしい時期にいきます。一月の中旬くらいに。


 とまあ俺が珍しくも殊勝に、神への懺悔を脳内で繰り広げていると、ラピスが、


「ああ、違います。今回は別件です」


「……は?」


「今回私が仰せ仕った任務は……買い出しです」


 全く想像だにしなかったことを述べた。

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