Ⅲ.うっかり覗いてしまった真実
14.人はどうして死亡フラグを立ててしまうのか。
「さあ始まりました「第一回闇鍋の具材はなんだろうな選手権」。今宵、司会進行及び実況解説は全て
マーカーをマイクに見立てた富士川が、空いた方の手を
「赤コーナー。三か月に一度彼氏を乗り換える凄いやつ。そのとっかえひっかえぶりを見て、誰が呼んだか「桜ヶ丘のワンクールヒロイン」こと、我らが
「いえーい!どうせその口上を考えたのは
「おっと早くも挑戦的な発言だ!これは期待できそうだ。それに対するのは白コーナー。我らが桜ヶ丘に突然舞い降りた天使。しかしてその眼は既に我らが幼馴染しか映していないのだろうか!真相はいかに?
「や、別に蒼汰さんのこと以外も見てますよ?」
「これは本人の真意か、はたまたツンデレか!さあ、それでは最後の紹介だ。青コーナー。饒舌になるのは動揺の証。分かってしまえば単純ヘタレなあんちくしょう。二人の美少女から迫られ、今まさにモテの絶頂期か!?
「いえーい!二人のうち片方が迫ってきてる理由は恋愛感情というよりも「あいつ、後で絞める」みたいなちょっと暴力的かつ殺意的な感情な気がするけど今は気にしないぜー!」
「さあさあ、選手が揃ったところでルールの説明だ。とは言っても単純明快。お互いの用意した具材がなんであるか。それを言い当てる。たったそれだけだ。具材はそれぞれ事前に三人が用意したものを五種類づつの合計十五種類。また、それとは別に、俺が用意した二種類の鍋用スープをブレンドするのでそちらを当てた人間にもボーナスポイントが入ることになっている。調理及び盛り付けは全て俺、富士川が行い、三人はその工程及び、取り皿に盛りつけられた具材の一切を視覚では確認出来ない。その状態で、自分の用意していない合計十個の具材と、二つのスープがなんなのかをどれだけ当てられるか、というゲームだ」
なるほど、分かりやすいルールだ。
ちなみに補足しておくと、具材はあくまで「闇鍋とはいえ、きちんと食して、不味くないもの」に限っている。従って、手袋だの長靴だのをぶち込むのは無しだ。なにせ具材当てゲームの後には、四人で「神塚ラピス歓迎会」という名目の元、鍋をつつくつもりだからだ。
従って、スープに溶け込んで、明確に味が変わりすぎるものもNGだ。チョコレートとか、チーズケーキとか、その類は即アウト。その辺りも含めて、富士川が各々の買ってきた具材をチェックして、下ごしらえが必要となる具材は下ごしらえをして、鍋の形式にまとめ上げている、というわけだ。
どうやらラピスは、この何でもない、いかにも俺ら三人の昔馴染みが思いつきそうな回に誘われたらしいのだ。
そういえば、俺がまさにこれから、一世一代清水の舞台から飛び降りる覚悟でもって、能登さんを相合傘に誘おうとしているさなか、俺の後ろの住人こと朝風千草と、左の住人ことラピスがなにやら話し込んでいたのは確認済みだ。
その時は「ふうん、早速仲良くなったのか。流石彼氏から彼氏への乗り換えも早い女。転校生の美少女に唾を付けるのも早いんだな。はっ、もしかして
と、まあそんなわけで、実際は清水の舞台から飛び降りて大怪我もとい、
まあ分かってみれば大したことはない。そこからは流れのままに、お互いがお互い、買ったものを見られないようにしながら闇鍋用の買い出しを済ませ、アパートに帰還し、それぞれが食材を調理役も務める富士川に渡したというわけだ。
そんなわけで、今俺らの前には蓋が閉じられた状態の闇鍋を、幼馴染三人組&ラピスで囲っているという状態だ。
まあでも、確かに面白そうだ。
一度富士川が食材を確認している以上、そんなにとんでもないものを食わされることにはならないだろうし、鍋をつつきながら、馬鹿話。そこに神の使いを混ぜ込んでいいのかはいささかではない心配を感じるが、まあいいだろう。何せ俺のサポート役なんだから。
それに、さっきの「逃げ帰る」という選択肢がもしも間違いであったとするならば、俺は今なお、トラックに轢かれたり、トラクターに轢かれたり、その他諸々の原因で死に散らかす可能性を背負い続けているかもしれないんだ。
いくら死んだら時間が巻き戻るだけとはいえ、痛いのは嫌だ。それに、もしかしたら、富士川たちを巻き込んでしまいかねない。それも含めてリセットされますよと言われればそれまでだが、やはり目覚めが良いものではない。その分ラピスが苦労するのかもしれないが、それはまあ、仕事だと思って、受け止めてもらおう。
そんなわけで、ちょっと馬鹿馬鹿しい、だけどどこか楽しい闇鍋の始まり始まり。
と、思っていたのだが、
「おっと、追加のルールを忘れていた」
「あん?なんだ?もしかして、俺が具材を言い当てるごとに千草が来ている服を一枚づつ脱いでいくっていうシステムのことか?」
「死んでしまえ」
富士川はそんなやりとりもさらりと流し、
「違う違う。千草ならともかく、神塚さんにそんなことはさせられないだろう?」
「ふむ、なるほどもっともだ。俺としたことが失念していた。汚れ役は一人で十分ってことか」
「食材、ふぐでも入れておけばよかったかな。丸ごとの」
「あっはっは、千草さんや。そんなものを食べてしまったら、毒に当たって死んでしまうだろう?もうおちゃめさんなんだから」
「や、そのためだけど」
とまあ、とんでも殺害予告すらも富士川はひらりと受け流し、
「最終的には俺も食べることになる鍋にそんな食材を入れさせるわけがないだろう?そうじゃない。俺が言いたいのは、勝ち負けが付いた先の話だ」
「先の話……」
俺は思わずオウム返しをした後に、
「あ、もしかして、あれか?敗者には罰ゲームがあります的な?」
「ああ」
なるほど。それは面白そうだ。ただ単純に、勝ち負けに対して一喜一憂するだけというおもそれはそれでいいものだが、敗者への罰ゲームがあるだけで、一気に緊張感が増す。くくく……見ているがいい朝風千草。男をとっかえひっかえし、非モテな幼馴染を見下ろし、傲岸不遜な態度を取れるのも今日までだ。きっと引きずりおろしてやるからな……くくくくく、
「そう。罰ゲーム。勝者は敗者に何か一つ、命令が出来るってわけ」
「くくくく……く?」
あん?
今何かおかしなフレーズが聞こえたような気がするんだけど、気のせいだろうか。うん、気のせいだよな。そうだよな。まさか、俺のいない間に、勝者が敗者に対して何でも命令が出来るなんて、そんな理不尽な独裁国家のような罰ゲームが決定していたなんてことは、
「だからこそ俺は裏方に回ったってわけだ。俺が命令しても、命令されても何も面白くないだろう?」
「…………謀ったな?」
富士川はあくまでいつも通りのテンションで、
「そんなことはないぞ。別に罰ゲームが嫌だって言うならそれでもいい。ただ、暁。お前にそんな選択が出来るか?」
「当たり前だ、」
それくらい余裕だ、と言うとしたが、
「おやおや?日ごろから人のことをワンクールヒロインだなんだと言ってながら、実のところ、恋人が出来る幼馴染のことが羨ましい暁蒼汰くんは、闇鍋の中に入っている具材を当てる“だけ”の単純なゲームですら勝つ自信が無いと。なるほどね。道理で彼女のひとつも出来ないわけだ。こんなところで日和ってるようじゃ、きっと大事なところでもヘタレて」
「さあやろう。すぐやろう。パッと食べてパッと当ててやろうじゃないか。そして、今人にヘタレなどという名誉棄損をしたこのビッチな幼馴染に命令をしてやろううじゃないか。くくく……実に楽しみだ。どんなことを要求してやろうか。さぞかしいい声で啼いてくれるんだろうなぁ?」
ラピスが小声で、
「ちょっろ……」
こらそこうるさいぞ神の使い(笑)お前だって当事者なんだからな。傍観者みたいな面してると後で痛い目を見るぞ。
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