第35話 辿れば分かるって恐いね。
短くて長い勉強会は無事に終わった。
私と
それは二日目の昼、巡君とデートしたのだ。
近くのデパートへと二人で行って服や下着を買ったりラーメン屋でつけ麺を食べたりね。
私が猫舌と知り、つけ麺があった事を教えてくれたのは嬉しかった。お陰で三杯食べたよ。
ただね、悲しい事にラーメン屋の系列が地元にはなくて、私の成長が止まると悲観した。
すると巡君がね、オンラインで買ってくれたの。オンラインストアがあるそうで私のために買ってくれたの。それを聞いて嬉しかったよ。
巡君も私のおっぱいを求めていると知って嬉しかった。左腕を抱いて上目遣いすると恥ずかしそうにそっぽを向いたけど。
なお、先輩にもラーメンの事を教えると、
『巡君、私にも買って!』
巡君がねだられていたけどね。
『
『そんなぁ!?』
義兄にお願いすれば買ってくれると思うよ。
どのみち地元に戻ったら、義兄の元に向かうだろうしね。相変わらずラブラブなんだから。
そして今は全員でバスの中に居て、
「有意義な勉強会だったな」
「ああ、成績が向上したしな」
「生徒会の企画は大当たりだった訳だ」
「流石は
「うんうん。見直した!」
「それはどうも」
行きと違って帰りは五号車へと乗っている。
それは先生方が二日目の夜に帰ったからだ。
「
「ところで先生は良かったので?」
「呼び出しがあったのは担任だけよ」
「「ああ、それで」」
「
退学を通知したら母親が苦情を入れてきた。
それで事情説明と称して呼び出しを受けた。
なんで私の愛する息子が退学にならなければならない的な過保護な主張をしているそうだ。
五味君にも唆した事を伝えても知らないとか何とか言って、言い逃れしているみたいだね。
何故それを知っているかと言えば、
『それでしたら九頭
『あの子が何なのですか? 関係ないでしょ』
『当校の一年女子にナイフを突きつけて殺すと発したそうです。それもホテルのフロントで』
『!? ナ、ナイフですって?』
先生のスマホの映像電話を見ていたからね。
音声が外に漏れ出ないようイヤホン越しに聞いているのだ。これはリアルタイムの映像だ。
教頭先生と担任、問題親子が映っている。
というか巡君のお父さんも映ってるけど。
『ナイフの購入元を辿れば購入者が五味さんの息子さんとある。これは警察からの情報です』
『そ、そんなのデタラメだわ! 嘘よ、嘘!』
『僕は買っていない! なんで僕の所為にされなければならない!』
話が通じないとはこういう事を言うのね。
『では、九頭地利美の単独犯と?』
『そうだ! 僕は関係ない!』
ここでもトカゲの尻尾切りかぁ。
クズとは思っていたけど相当だね。
「唆しておいて、この言い草って」
「どれだけ自分が可愛いなんだか」
「呆れるわね」
私と巡君と先生が呆れる始末だ。
『ナイフから五味君の指紋が出ていても?』
『そんなの捏造に決まっている!』
『捏造というなら指紋を採らせて貰おうか』
『だ、誰だ!?』
『この件に協力している地元警察の刑事だ』
『『!?』』
巡君のお父さんの凄みが恐い。
『指紋が一致しなければ問題はないだろう?』
『イヤだ! なんで僕がそんな事をしなければならない!』
見苦しいね。ホント、見苦しい。
『聞いていた通りのクズっぷりだな。それこそ、お前の従姉や姉が可哀想でならない』
『ど、どういう意味だ?』
『姉って。あの子が何だっていうのよ?』
『従姉が情報源を明かした。お前の姉も個人情報漏洩疑惑で自白した。お前から教えて欲しいと願われて、生徒の個人情報を手渡したとな』
『なっ! そ、それは本当なの?』
『し、知らない! 僕は知らない!』
『知らない、ね? それなら、お前の家の家宅捜索するか? それで全てが判明するから』
えっと、それって不味くない?
「辿れば分かるって何故気づかないかね?」
「杜撰過ぎるわね」
杜撰どころの話じゃないよ?
というか調べる速度が速すぎるよ。
発生から三日でスピード解決とか凄い。
『そうそう
『!?』
ああ、これで終わったね。
二つの指紋が一致したなら逃げられない。
母親もこればかりは胃痛がするのか薬を飲んでいた。薬の準備がいいね? 常備薬?
『証拠がこれだけ出揃っているのに、今更知らないでは通らないだろう? ここで言い逃れしても罪が重くなるだけだ』
『・・・』
直後、五味君は立ち上がって逃げ出した。
「あらら。逃げたら認めたも同然だろうに」
「どうしても認めたくないのね」
が、巡君のお父さんが先回りして捕まえた。
『今、逃げたな?』
『ト、トイレに行こうとしていただけだ!』
『それなら一言声をかけて出るべきだろう?』
『急いでいる! 大きい方だ! 漏れるんだ』
おぅ。今更、お腹を押さえてもね。
結局、手錠をかけられて御用となったけど。
「あとは教頭先生に任せましょう」
先生はスマホを片付けバスの外を眺めた。
私達も自分の席に戻って遠い目をした。
「とはいえあんなのでも弁護士が付くからな」
「それなら緩い罪で出てくる可能性も高いね」
「執行猶予が付いてバカやる姿が目に浮かぶ」
「今回みたいに同じ事を繰り返すのね」
それはそれで頭が痛い話だよね。
「とりあえず、放火の指示も含めて余罪が追及されるだろう。絶滅危惧種共の供述もあるし」
「そう考えると相当な罪を抱えてそうだね?」
「
「庭を破壊されたから別の意味で奮起するね」
仮に動けば、だけど。発端は私が彼を振った事だから一緒になって逆恨みしてそうだけど。
あの義父も今思えば碌でなしだったもんね。
ちなみに、権利書の所有者は母さんだった。
庭好きの義父はヒモだったと最近知った。
一応、国際弁護士の資格はあったけどね。
義兄は義父とも血の繋がりがなく、亡くなった前妻の連れ子だった事まで判明したのだ。
それは酔った勢いで語った母さんの言葉ね。
「あれ? そういえば・・・従兄さんと義兄って何処となく似ていたような気がする」
「似ていたって犬顔って言いたいのか?」
「うん」
「だが、
「強面でも犬顔じゃん」
「それを言われたらそうだけど」
背格好といい似てるよね。
義兄は強面ではないけど。
「なら、夕兄に聞いてみるか?」
「うん」
巡君はスマホを取り出して従兄さんに連絡を入れた。返信が来ると愕然としていた。
「おぅ」
「どうかした?」
「夕兄に兄貴は居るかって聞いてみた」
「そしたら?」
「居るって返ってきた。一つ上の兄貴。大学生で伯父が離婚した時に母親に付いていったと」
「そ、それって?」
「ああ、
うそぉ!? ということは、巡り巡って?
「それと近いうちに実家に戻ってくるってよ」
そういえば義父が親権を放棄したとか言っていたね。ヒモのくせに自分一人で食っていくので精一杯だからとか言っていたらしい。
その手続きもあって母さんは一人で東奔西走していたと。私の手続きを店長に丸投げして。
「そうなると、妃菜先輩が再来年には従兄さんの義姉さんになってしまうと?」
「そ、そうだな。義姉さんになってしまうな」
これには巡君も頬が引き攣っていた。
すると呼ばれてもいない先輩が背後から、
「呼んだ?」
顔だけ出したので、揃って否定した。
「「呼んでません」」
「揃って呼んでたよね!?」
「いいえ、呼んでませんよ」
「夕兄の義姉の話はしてましたけど」
「義姉?」
これには先輩もきょとん。
いずれ訪れる自分の立場なのにね。
「ええ。俺達はあくまで響さんの兄弟の話しかしていませんから」
「え? 兄妹? 恵ちゃんとは義理でしょ?」
「今は関係がありませんけどね」
今の私は
「え、ええ。そうだったわね」
「そちらではなく実弟と義妹が居るだけです」
「実弟? 義妹は恵ちゃんだよね?」
「だから、私から離れて下さいよ」
先輩の中では混乱が続いているようだ。
巡君は面倒になったのか大きな溜息を吐いて先輩に教えるのだった。
「響さんの実弟は夕兄、義妹は
「はい?」
まだ混乱の渦中に居るようだ。
なので私から事実を示してあげた。
「上坂
「え?」
「亡くなった前妻の連れ子なんですよ」
「その前妻が夕兄の実母でした。あとは分かりますよね?」
「・・・」
先輩ちんもーく! 両目が凄い速さで泳いでいるので、混乱しているのは分かるけどね。
私は今のうちに義兄へとメッセージを打ち、
『巡君が父方の従弟だって知っていたの?』
そう、一言入れておいた。
返信は『何故、知ってる!?』だったけど。
大事なお嫁さんにも事情を明かしてよね。
(しかしまぁ、予想外のところに繋がりがあるよね? それこそ、巡君の母方にも何かありそうな気がするよ・・・旧姓聞いておこうかな?)
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