第32話 ヤンデレはマジで恐いね。
それは告白ではなく、純粋な提案から始まったものだったが「本気で、
その後、ラウンジでチョコレートケーキを注文した私は黙々とチョコレートケーキを頂く。
(甘いね。とっても甘い。幸せの甘さだね)
巡君もチーズケーキを黙々と食べ、沈黙ののちに己が思いを口にした。
「とはいえ、今までと変化はないと思うが」
「うん。それはそうだと思う」
偽から本物に変化しただけだしね。
関係が急に変わることはないはずだ。
精々、距離感くらいかな。
私も遠慮を捨てようと思うし。
「恵の許しを得る事を願うかもだが」
「私の許し?」
「えっと、その、抱いたり、とか」
「抱き寄せてはいるよね?」
頻繁に私の肩を抱き寄せている。
それはとても自然に行われていた事だけど。
巡君は外の景色を眺めて口走る。
「そこより先、みたいな」
横顔を見ると少し顔が赤い。
そこより先? あ、そういう?
「べ、別にいいんじゃない?」
「いいのか?」
「うん。付き合っているんだし」
「そうだ、な」
巡君はバツの悪い顔で左頬を掻いていた。
(これって私を気遣っているんだよね?)
ある意味で男嫌いになりかけていたから。
だから私に許可を求めるってことだもの。
(巡君なら私は何をされてもいいよ。裸も見られたし。私が見たのは巡君の半裸だけだけど)
その後も語り合った私と巡君は時計を見つめて席を立つ。
「そろそろ、行くか」
「うん」
それは休憩時間の終わりが近づいたからだ。
そして会長達の待つ大広間へと向かった。
すると
「お? おやおやおや? 愚兄」
「愚兄って。お? ほほう」
妙に楽しげな視線を向けてきた。
巡君は怪訝な表情で問いかける。
「なんだよ?」
「「なんでも」」
そこで私は今までと違う事に気がついた。
抱き寄せていた巡君の手が、今までの肩ではなく私の腰にあったのだ。これって、まさか?
私も少なからずそういう知識は持っている。
自分が当事者になるとは、到底思えなかっただけでね。今がそれと知り全身が熱くなった。
「恵ちゃんが真っ赤だわ」
「あらあら。これはまた」
「会長達は何が言いたいので?」
「「なんでも〜」」
巡君は自然に行動するから気づけていない。
息を吐くかのような素振りだから気づけないのだ。会長達は理解して揶揄っているけどね。
「二人の距離が数時間前より近くなったわね」
「ええ。巡君の遠慮が消えたのかもね?」
「恵ちゃんもね。何処まで燃え上がるかしら」
「行き着くところまで行き着くんじゃない?」
「それって私みたいに?」
「私達みたいに、よ」
会長達みたいに行き着く?
それって婚約・・・さ、流石にそこまでは考えられないよ。だいいち、キスもまだだしね?
(い、一応、何をされてもいいとは思ったよ。でも、心の準備が出来ていないから、だ、抱かれるのはちょっと、待って、欲しいかな・・・)
私が真っ赤なまま思考迷路に入っていると、
「恵、時間が来たから仕事を始めるぞ」
「う、うん」
巡君が仕事モードとでもいうような対応で椅子に座るよう促してきた。切り替えなきゃね。
生徒会の仕事は従兄さんの学校の先生が用意した問題用紙の配布や回収、模範解答を元に点数を付けていく事だ。嬉しさからボケると周りに迷惑をかけるので気を引き締めた私だった。
「あの子達、そういう関係なの?」
「生徒会って、お花畑が多いのかしら?」
「でも、私達も、ああなりたいわね?」
「「分かる!」」
先輩方、お花畑と言うのは止めて欲しいです。巡君の機嫌が悪くなって・・・ないね?
「好きに言ってろ」
今まで言う側だったのに言われる側になると「だから何だって?」って感じになるんだね。
巡君の中でも何かしらの変化があったの?
「俺も彼女欲しい」
「黙れ、愚兄」
「うっす」
こちら側はこちら側で、妹の尻に敷かれる兄が居るけどね。この二人って、似てないよね。
疑問に思った私は小声で巡君に問いかける。
「渚ちゃんって似てないね」
「誰に?」
「えっと、従兄さん」
「ああ、
巡君は夕兄と呼ぶけどフルネームは知らないんだよね。同じ名字って事だけは分かるけど。
「まぁ。立場上は恵と同じだからな」
「はい?」
「夕兄の義妹なんだよ」
「ぎ、義妹?」
えっと、それってつまり、他人同士?
「血縁はあるぞ。薄いけど」
「え?」
「俺の従妹であるのは確かだ。親父の下に居た末弟・・・その娘なんだよ」
「え? で、でも、伯母に似てるって」
「伯母も元は叔母だったんだ。伯父が離婚した後に親父と十才離れた叔父が病死してな。未亡人のままだと苦労するから、叔母と再婚したんだよ。だから従兄妹である前に義妹なんだよ」
「そ、そうなんだ」
それって兄妹で結婚が可能って事だよね。
片や十八才の兄、片や十六才になったであろう義妹。法律上も問題の無い関係だよね。
「私が居るのに彼女とか言わないでよ」
「それはそうだが、俺にも選ぶ権利が」
「権利は無い。許嫁を蔑ろにしないで」
「うっす」
あらら、元々そういう関係でもあるのね。
何故かラーメン屋に居たり、会話に割って入ったりしていたのって、監視もあったのかも。
「渚ちゃんって意外とヤンデレなの?」
「ストーカー先輩とは違うがヤンデレではあるか。肉食系だから夜が凄まじいと聞いたがな」
「夜?」
「夕兄の体力が保たないんだと」
「それって」
巡君は私の耳元に口を近づけボソッと教えてくれた。それを聞いた私は一瞬で赤くなった。
感じたのもそうだけど内容が内容だからね。
「公立に進学したのも私学の近くだからな」
「それが本当の理由だったの?」
「ああ、一緒に登下校したかったんだと」
「そうなんだ。筋金入りだね」
「俺もそう思う」
交際の仕方は人それぞれだけど。
反面教師にしても同類にはなりたくないね。
その間の先輩達の勉強会は滞りなく進み、
「ここ、教えてください」
「いいよ。少し待ってね」
「これは、どう解けば?」
「これはね、ここの」
休憩時間は意中の相手の元に、それぞれが移動して、教え合う光景が目に飛び込んできた。
「これって進学先別のグループ?」
「ああ。あちらの先生からの提案だってよ」
「そうなんだ」
「学生のレベルを合わせて、希望する進学先で纏めているんだと。流石に講義中は学校単位での並びだけどな」
「なるほど」
これは今後の企画の参考になるね。
会長達もメモを取っていて企画の修正点を話し合っていた。今回は私学だが、会長達の時に私達が困らないようにしてくれているのかも。
「今回、夕兄の学校とは一度限りの交流だが活かされると思うぞ。それは両校にとってもな」
「そうだね」
互いに刺激しあってプラスに働けば成功だ。
私も恋愛脳とかお花畑とか思っていたけど恋する気持ちも時には役立つと思った。
幸せな気分のまま学力が向上するからね。
それはいつだったか店長が言っていたね。
『十代は一瞬で過ぎ去る。色恋沙汰も時には役立つから体験した方がいいぞ?』
それを恋愛嫌いしていた私に語っていた。
同じ言葉を巡君にも語っていたらしいね。
「ただ、時にはマイナスに働く事もあるから油断大敵だけどな。心の乱れ、恋に盲目的になりすぎない事が鍵だろう。盲目的な例は渚だが」
「そうだね。何事も適度が一番と」
本日の勉強会はそのまま夕食会となり教科書を片付けた先輩達の元に料理が運ばれてきた。
私達も生徒会の席で頂くことになるのだが、
「巡君、今、何か言った?」
「なんでもないぞ」
巡君がポロッと言った言葉に渚ちゃんが反応したっぽい。それも巡君の背後に立っていて恐ろしい笑顔になっているんだよね。
微妙に瞳のハイライトが消えているよね?
「まぁいいや。ところで巡君」
「なんだ?」
「愚兄と同じ部屋なんだよね」
「そうだが?」
「なら、私が代金払うから部屋、替わってよ」
「はい?」
これってどういう提案なの?
「最上階、三日間、代金は私持ち。どうかな」
「い、いや、夕兄はなんて?」
「同意の上だよ」
「そ、そうか」
最上階って事はスイートルーム?
それを渚ちゃんが出してくれるの?
「勿論、先生達にも許可を貰ったよ?」
「「なっ!?」」
あ、知りませんよって、そっぽを向いたよ!
先生の机には缶ビールが数本置かれていた。
つまり、
「お、俺一人で上にか?」
「恵ちゃんも一緒だけど?」
「「・・・」」
そうなるよね〜。
生徒の居る部屋では先生も飲めないから。
「大丈夫、ツインを借りてあげたから」
「それなら代金は俺が支払うぞ?」
「お祝い金と思って受け取って!」
「お祝いって?」
「交際記念!」
「ああ、そういう」
「私のバイト代から出すから気にしないで」
「大丈夫なのかよ?」
「大丈夫よ。家庭教師で儲けているからね」
「そ、そうか」
なお、お堅い先生達はというと良い出会いがあったのか過去に例を見ないほど幸せそうな顔になっていた。寿退職待った無しだね、あれ。
こうしてヤンデレ義妹の提案で、私と巡君だけが最上階の部屋へと引っ越すことになった。
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