第30話 真実は何処で漏れたのか。
ラーメン屋で遭遇した従兄さんの妹さん。
彼女に色々と問われた結果、
(私が
偽物の交際で、私が本気になっていると気づかされた。それは巡君も同じであり、嬉しさもあるが複雑な心境だった。
(だって利害関係の交際だよ?)
互いに異性の虫除けになるっていう。
なのに途中から本気になってるなんて気づける訳がないでしょ。これに限って言えば巡君も似たようなものだと思う。価値観が同じだし。
(あんなにベタベタとくっついて)
またもや不快なモヤッと感が心の奥底から湧き上がった。今はラーメン屋からの帰り道だ。
従兄妹達の口撃は巡君を相手に続いていた。
「それで、巡自身も嫉妬心はあったんでしょ」
「な、無い、とは言い難いな」
「「やっぱり!」」
巡君の腕を抱いて私の反対側で問い詰める。
前を歩く従兄さんも楽しげに口撃した。
「俺が声をかけようかって言ったら」
「いや、あれは
「本心はどうであれ言葉で嫌だと言っただろ」
「うっ」
「その時点で嫉妬してるんだよ。自分の意中だからこそ、他の男に触れられたくないってな」
「そうそう。ね、恵ちゃん?」
「ふぁ?」
嫉妬? あ、この感情って嫉妬だったの?
嫉妬と知って、何故か腑に落ちた。
だが、何故に私が呼ばれたのか問いかけた。
「な、なんで?」
「不機嫌そうに私を見ればね?」
「あっ」
やっぱり嫉妬だったんだ。
ということは・・・本気で?
「あらら、マジで真っ赤だわ!」
「もしかして、箱入りだった?」
「・・・」
気づいたら恥ずかしくなっただけだよ!
お陰で巡君が好きで好きで堪らない気持ちが溢れてきたし。顔が真っ直ぐ見られないよぉ。
巡君はしれっとした態度のまま否定した。
「恵は箱入りとは少々毛色が違うかもな。意外と肉食系女子だし」
肉食系女子ってどういう意味なの?
「意外!」
「ほほう。身体の関係も興味あると?」
「ああ、でも肉食系なのは分かるかも」
「そういうところは
「愚兄。今、何か言った?」
「なんでもない」
「大っぴらにおっぱいとか胸を張って言うし」
「「なるほど」」
え? もしかして、そういう意味なの?
は、恥ずかしい。あと、胸の件は止めてぇ!
「あとは環境が環境だったからな」
「「環境?」」
巡君はつい最近までの私の状況を語りだす。
「あー、それはなんというか」
「完璧に災難でしかないわね」
「男嫌いになりかけていたのは確かだろうな」
「私でもそれが続いたら嫌になるわ」
ああ、分かってくれる人が居たぁ。
なんか、とっても嬉しいよ。
「私なら諦めろって言いたくなるわね」
私の周りなんて他人事で済ますしね。
それで嫌になる人は滅多に居ないし。
「そんな状態なら鈍感になるのも頷けるか?」
「俺も直前までは同じ経験があったしな」
巡君も似た経験があるって言ってたもんね。
他人事に出来ないから助けてくれたのだ。
私も他人事には出来ない質だしね。
「あぁ、そういえば、それがあったわね」
おや? 渚ちゃんも覚えがあるの?
巡君もきょとんとしつつ問いかけた。
「渚は忘れていたのかよ?」
「いや、だって、あの時の私って」
「そういえば、外部受験の準備中だったか」
「そうそう。私学が嫌になったからね」
ああ、同じ私学に居たんだね。
それなら、今は、公立かな?
「で、公立に進んで、今があるのだけど」
やっぱり公立なんだ。
お兄さんが私学に行って妹が公立か。
でも、中学までは私学だったって凄いね。
「というか、あの私学に行ってる生徒って、そこそこ頭が良いよな?」
「そこそこっていうか?」
「ピンキリだけどな。上澄みが少なくて」
「沈殿物という名のバカが極端に多いわね」
酷い言われようだけど上澄み勢からの苦言だから妙に真実味があるね。
すると巡君が思い出したように呟いた。
「そういえばウチの近所もバカ私学があるな」
「「バカ私学?」」
「頭の悪い奴が勢揃いって聞いたぞ」
うん。有るには有るね。
興味が無いから学校名は覚えてないけど。
「ところで今は何処に通っているのよ?」
「田舎だが・・・親父の母校だな」
「あそこって叔父さんの母校だったのか?」
そうだったんだ。私も初めて知ったかも。
「それもあったし、会長がおすすめしてくれたのもある」
私は学費の面で公立を選んだけどね。
義兄さんも通っていたし。
「それに母さんの地元でもあるからな」
私の母さんの地元でもあるね。
先輩のお父さん、店長の妹だし。
「ああ、その地域なら系列じゃない?」
「なん、だと?」
巡君が本気で驚いてる?
あの私学が巡君達の通った系列なんだね。
上澄みが余所に出てバカしか居ないとか。
「警戒してて正解だったか」
「折角、転校したのに系列に通っていたら地獄でしかないわね。バカ女が勢揃いして」
「だな。系列で交流が行われた日には」
「嫌な奴らと再会ね。交流会は普通にあるし」
「警戒万歳だな」
それは同じ中学に居たから知る特色だろう。
この時の私は少しだけ羨ましいと思った。
他愛ない会話を行いつつホテルに着くと、
「みぃつけた」
「ひぃ!?」
フロント前にとてもとても恐い先輩が居た。
私は咄嗟に巡君の後ろに隠れる。
「お、おい、恵? どうしたんだ?」
「く、
「は? 不参加だったんじゃないのかよ」
「不参加だよ。なのに来てるの」
「参加者でもない学生が?」
「何用かしら?」
すると従兄さんが用件を聞き向かう。
会長が居たら代わりに応じてくれるが、
「君は、参加者かい?」
居ないので共同開催者として問うてくれた。
「いえ、用があるのは、その子だけよ」
「そ、その子?」
「ええ、義妹である、その子だけ」
ぎ、義妹だってバレてるぅ!?
一体、何処で情報を仕入れたのよ?
表沙汰になっていないはずなのに!
「それで、何しに来た?」
「殺しに来たに決まっているでしょ!」
「なっ!」
こ、殺し? あ、ナイフ、持ってる!?
すると巡君が右手のナイフに気づき、咄嗟に右手を蹴り上げて、ナイフを床に落とした。
「つっ!」
そしてナイフだけを遠方に向けて蹴った。
九頭先輩を背負い投げして床に倒した。
「ぎゃん!」
「殺人未遂で現行犯かね?」
「殺しって言葉をフロントで発したからな」
「誰が聞いてもアウト判定よね」
巡君は受付担当の動きに気づき一言添える。
「つ、通報は待ってください!」
「え、でも?」
「気絶してますから、今は大丈夫です」
「は、はい」
ここで中止になるのは困るもんね。
私もあまりの事に腰が抜けかけたけど。
従兄さんは大慌てで私達の顧問を呼ぶ。
打ち合わせで面識が出来て良かったよ。
顧問の
「く、九頭さん?」
従兄さんは巡君からハンカチで包んだナイフを受け取り神野先生に示す。
「ええ、これを持ってフロントで危うく」
指紋が付くと困るのであえてその方法を採ったんだろうね。刑事の息子としてだろうけど。
「な、なんで、そんなことを?」
「理由はさっぱりです。一つ言えるのは巡の彼女を義妹とか何とか言っていましたね」
「義妹?」
学校には離婚した件が伝わっていると思う。
だが、義兄との繋がりは伏せられたままだ。
先生達もその件には触れていないしね。
私はこの場だけではあるが、
「私も最近知ったのですが、
生い立ちの一部を示した。
神野先生はまだ信じられない様子だった。
「そ、それで?」
「一方的に懸想しているのが、九頭先輩で」
「ああ、痴情のもつれってことね」
そこだけは理解出来るのね。
(そうか、校内での騒ぎを知っているから?)
人気が地に落ちた原因でもあるもんね。
私は首肯しつつ神野先生に問う。
「そういうことです。それでどうしますか?」
行事の現場責任者でもあるからね。
「そうね。刃傷沙汰でもありますから、近隣の警察署に連れて行きましょうか」
「でも、よろしいので?」
「学校の印象は悪くなるでしょうけど、校内ならともかく、校外で起こした事案ですからね」
そして、校長先生達も問題児が動く可能性を考慮していたと呟いた。そうなった時は迷わず警察に協力を仰ぐように、とも言っていた。
「校長先生には私から連絡を入れておくわ。状況が状況だから即日退学になるでしょうけど」
今回は他校との交流で、慎重を期す事案だ。
大きな傷になる前に小さい傷で済ませると。
無関係だと示さねば影響が出てしまうから。
「それなら俺が付いて行きますよ」
「私も被害者ですから届け出ます」
「ごめんなさいね。恐かったでしょうに」
「いえ、必要な事ですから」
巡君は従兄さんに伝言を残し、受付からタクシーを呼んでもらった。ここで警察を呼ぶと大騒ぎになり、営業に影響が出るとも伝えてね。
タクシーが着くと、九頭先輩を真ん中に座らせて、先生と巡君が左右に座った。
私も助手席に座り、警察署をお願いした。
巡君は道中で、
「親父か。ちょっと不味い事になったから警察署に行くんだが。俺じゃねーよ。恵の先輩が暴れたんだ。そう。証拠品もある。頼む」
スマホ片手に連絡していた。
それは何かしらの要望を伝えたようである。
「父から現地の警察署に連絡を入れてもらいました。これで対応が少しマシになるでしょう」
「助かるわ」
「巡君? 連絡を入れたって言っても直ぐに動けるの? 管轄の問題があるでしょ?」
「丁度親父の同期が居るらしくてな。署長で」
「「あらら」」
上からのお達しだから聞かざるを得ないと。
まぁ刃傷沙汰だしね。学校としてもこればかりは退学処分が確定しているし。
とはいえ、
(一体何処から情報を?)
得た先が分からない。
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