第6話 夢はかなうこともあるもの



「エル、エル! 目が覚めた? 良かった!」

「…え、あ、ロビン…?」


 私は、がばっと体を起こす。


「ロビン! 傷は? 起きて大丈夫なの?!」

「えっと、君がエリクサー?を、飲ませてくれたおかげで、傷も疲れも全部消えたよ」

「良かったぁ…」


 ほっと胸をなでおろすと、やたら真剣なロビンの顔が間近に迫った。


「それより君の方が心配だよ!彼らによるといきなり倒れたって…」


 あわてて周囲を見回せば、側近たちと近衛部隊。

 みんな揃って頷いている。マズイ!


「だ、大丈夫!女神に会ってたんだ!」


 言ってしまった後で、とハッとした。


(こっちの方が心配かけるよっ!)


「あ、あのね、その、夢だったかも…」


 ロビンが首を振った。


「いや、本当でしょ? 君が女神の巫女なのは、皆知ってるし」


 え…とまた周囲を見回すと、皆一斉に頷いている。

 え…と、まずくない!?

 うろたえる私に、ロビンが苦笑を浮かべて告げた…


「あー知ってるよ。君がエリザ姫だってこと」


 頭が真っ白になった。


「途中まで気づかなくてゴメン! …でも何となく気になってたし、決定的なのは彼らが側にいたから…」


 彼らとは…私の側近たちだった。

 幼い時から一緒の…

 皆、困ったような顔をして目を反らしている。


「覚えてない? 小さい時、僕はこの国にいて、彼らと…君と遊んだことがあるんだよ」


 私は幼い頃…ゲームの記憶が戻るまでは、離宮に住んでいた。


(その頃の事は、結構曖昧なんだけど…)


 離宮は暖かい場所にあるせいか、三女なんでお目こぼしされていたか、開放的で、私は使用人の子供たちと毎日真っ黒になって遊んでいた。


「僕の母が一時期、離宮で下働きしていて…」

「え…えぇー?」


 ロビンのお母さんは旧帝国皇族の血を引いているせいで、帝国復活を願うの熱狂的な信者に狙われていて、各国を旅していた。


(その際、我が国に立ち寄っていても不思議はない…不思議はないですけどー!?)


「昔から君は、活発で真っ直ぐで。僕と母さんがこの国を出る時、泣いてくれて…人との別れがつらかったのはあれが初めてだった」


 あぁ…思い出してきた。

 大好きな幼馴染が、どっか行っちゃうって聞いて、わんわん泣いて、一緒に行くって駄々こねて…


(そっかー…私、もうとっくに『ロビン』と出会っていたんだ…)


 どこかで、女神がケラケラ笑っている気がした。


「私が泣き止まなかったから、大人になったら、一緒に行こうって言ってくれたよね」


 ロビンの顔がほころんだ。


「うん」

「だから、私は冒険者になろうとしたの…」


 そう、『エリザ』と『私』の夢。


 ――ロビンと一緒に冒険の旅に出るの!


 生まれ変わっても、変わらなかった。

 

 嬉しいやらおかしいやら…哀しいやらで、笑いながら涙が出て来た私に、ロビンがあわてる。


「えっ、エル、あーエリザ…姫?」

「…エルでいいわ、ロビン。すぐあなたをお隣に返すからね。エリクサーも城へ戻れば予備があるから…」


 エリクサーは、王族がひとつづつ持っている。

 私の分は使っちゃったから、姉様たちから借りよう。

 スタンピードも収まったし、姉様たちは自分達の分も持って行くように、言ってくれてたから大丈夫だろう。

 時間かかるけど、また作れるし。


「それはいらないって…」

「ダメ! メリンダ姫と約束したの。あなたにエリクサーを持たせて…姫の元に戻すって」


 泣くな、笑え!私。


「スタンピードは止めたけど、どこの国はも、まだまだ大変な状態だから。ロビンは姫様を助けて…」

「…分かった」


 私はにっこり笑った…笑えたと思う。

 だがその笑みはすぐに引きつった。


「とりあえず、エリクサーを渡しにあっちに戻るけど、すぐまた来るから…」

「え…?」

「僕にできる事あるよね?」


 優しい笑みを浮かべ、ロビンを私を見ていた。


「頑張って、この国の立て直しを手伝うから…収まったら、旅に出ないか? 約束したよね、大陸中を回ろうって」


 私は、必死に涙を止めて震える声で尋ねた。


「め、メリンダ姫とは? 彼女と、な、何かの、約束とかしていたんじゃないの…?」

「約束? 特にはしてないなぁ。あぁ、彼女の騎士がどうのっていうのも、昔、神殿で会った事があるんだけど、その時、祭祀様が『魔物の神話』の話したらしくて、彼女が震えながら『自分の騎士になって!』って言うから、分かった今だけって言って…だからスタンピードの話聞いて、また怖くなったんじゃないかなぁ」


 でもスタンピードは止めたから、もう大丈夫だよね!――ロビンは明るく言った。

 本当に、本当に、メリンダ姫とは何でもないようだ。

 少なくともロビン側は…


(姫は…多分、ロビンが…でも…私もずっと)


「ロビン…私と一緒にいてくれるの?」

「うん。ずっと一緒にいよう」


 抱きしめられて、涙があふれだす。

 ねぇ…ポスターの前で祈ってた貴女。貴女の夢…初恋が、かなったね。


 周囲がざわざわして、やがて拍手に代わったが、もう恥も何も投げ捨てて、私は思う存分ロビンを抱きしめた。




HAPPY END!

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後で返してあげるので、先に私の国を救ってください勇者様! チョコころね @cologne

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