第21話 ズッ友に会う
アレックス・サーガの世界において貧乏ランキングがあったとしたらダントツで一位になる国、ブルダン。
俺とサラはその国目指して森の中を分け入っている。
アッシュじいやにはあえて留守を頼んだ。
俺が不在になった途端に赤と黒の部族が変なことする可能性もあるので、城に元騎士団長がいてくれると大変心強い。
それにアッシュじいやに恩義を感じている蒼い槍の長と話す機会を作ってあげたかった。
今頃、城で五十年ぶりの再会を果たしていることだろう。
――――――――――
というわけで、ブルダンである。
あちこちに借金を抱えすぎて元々住んでいた土地を追い出され、流れ流れてイングペインの端っこに小さな集落をたてて自給自足の日々。
王様までもが農作業をしないと日々の暮らしが成り立たないくらい追い詰められていた中で、ベルペインの王子が親睦を深めにやってくると聞いて、国は大騒ぎになった。
あの大国と仲良くなって援助を受ければ、今の暮らしもだいぶ楽になると期待して、もてなし率500パーセントのフルスロットル状態で歓迎された。
「こんな田舎にまあ、ようこそおいでいただいて!」
王様がいきなり土下座してくる。
その家族も土下座。その部下も土下座。その民も土下座。
「こんな狭苦しい土地にベルペインの王子が来てくださるとはもう願ってもねえ! 従属でも降伏でも何でもいたします! 何なら娘っ子の一人や二人、勝手に持って帰ってくだせえ! 見て見ぬ振りしますんで!」
「いや、そんな話をしに来たわけじゃなく……」
具体的なもてなしの内容を書いても意味がないのでやめるが、彼らの技術力の高さにはすぐ気付いた。
実は今回の訪問には遊牧民からも参加者がいる。
緑の剣の長ランドロ氏。
戦の時はずっと眠そうにしていたのに、ブルダンの技術力は実は凄いんですと俺から聞かされると、目をキラキラさせて勝手について来た。
馬に乗るより土をいじっている方が好きだと言うランドロ氏は、ブルダンの農地を見て愕然とした。
「こんな急勾配の土地に水田を敷いたのか?」
「へえ、そうでもしないと食ってけませんので」
何でそんなことで驚くんだとポカン顔のブルダン王。
「それはわかるが、どうやって土地を整えたんだ? そもそもこんな固い岩場にどうやって作物を育てた? 何より水だ! 一番高い山の上まで用水路が伸びてるじゃないか」
「ここの山はほれ、岩が硬いでしょ。そのせいで雨水がどんどん山の下に落ちてって、浄化されて、綺麗な水になって、わんさか地下に溜まっとるんですよ」
「んなこた知っとる! どうやってその水を汲み上げたって話よ!」
「山の上から井戸掘って、自動で水を引き上げて下まで流しております」
その答えに卒倒しそうになるランドロ氏。
「自動ってなんだ、自動って……」
「うちの息子が勝手にやったことなんで、詳しいことは息子に聞かねえとわからんですわ」
「その息子さんにお会いしたいんです」
俺がこの訪問の目的を告げると、王やその部下たちは皆同じ反応をした。
「いやいやいや! よしなせえ、よしなせえ!」
ぶんぶんと手を振る。
「うちの息子はほれ、母親がいなくなってからショックで引きこもって本ばかり読んじまったっしょ。頭が良くなったのはええんだが、良くなりすぎちまってね、逆にバカになっちまって!」
ガハハハと笑い合う王様と部下。
「何しでかすかわかんねえから、王子さまが来たのに失礼しちゃいけねえと思って、離れの家に閉じ込めておりますんでよ」
「そうなんですか……」
だったら夜に忍び込んで会いに行こうかと思ったら、もう来た。
閉じ込められていた家をぶっ壊し、勝手に俺に会いに来た。
「はーはっはっは! はーはっはっは!」
その高笑いを聞いて王様たちは震え上がった。
「しまった、外に出ちまった!」
「あの鍵でもダメかあ!」
「王子様、にげてくだせえ!」
神輿のような乗り物のてっぺんに、少年が立っている。
真っ赤なマントをなびかせながら、そばかすだらけの顔をクシャクシャにして大笑いする。
「はーはっはっは! ベルペインの王子、よくこの国に気づいた。よくこの俺に気づいた! 褒めてやろう! はーはっはっは!」
「おんめー、王子様になんちゅう口きくんだ!」
「はーはっはっは!」
答えになっていない。
しかし神輿はどんどん近づいてくる。
これじゃあバカなゲームのボスキャラにしか見えないけれど、
「ランドロさん、見てください。あの神輿、勝手に動いてます」
誰に担いでもらっているわけでもなく、誰に押してもらっているわけでも無い。木製の車輪が勝手に回っている。
「信じられんがそのようだな。お前の言う天才とは彼のことか」
「そうなんですが、予想していたのとけっこう違っていて……」
俺の言葉にランドロ氏も首をかしげる。
「確かにただのバカとしか思えんが……」
沈黙を貫いていたサラが力強く語ったのはその時だった。
「世界を変えてきた凄いお方は、たいてい最初はバカ呼ばわりされるのです」
彼の名はマイン。
いずれラスボスになる男が自我を失ったバケモノになっても、最後までジャンのそばを離れなかった四人の部下の一人で、その付き合いの長さから、狂王ただ一人の友人と言われる男である。
最後は怪物となって暴れ回るジャンに蹴られて死ぬという呆気ない最期を迎えるが、その顔には笑顔すらあった。
だからアレックスはその亡骸を見てこう言う。
「本当にあなたはジャンの友達だったんだね」
そんな泣けるエピソードを最終巻で読んだばかりだったんだけど、まさかこんな幼少期を過ごしているとは思わなかった。
「とうっ!」
神輿の上から飛び降り、俺の目の前に着地するマイン王子。
「はーはっはっは!(君を歓迎しよう)」
「あ、ああ、よろしく」
「はーはっはっは!(なんだなんだ。せっかくこの土地の美味を揃えたのに食べてないじゃないか。大いに食ってくれ)」
「うん、わかってる。後でたくさん頂くから」
仲良く会話する俺たちの横でサラとランドロ氏が脅えていた。
「おい、なんで会話が成立してるんだ。あっちは笑ってるだけだぞ!」
それは俺も不思議なんだけど。
「わかっちゃうんです。言葉が伝わってくる感じで……」
「はーはっはっは!(ジャン王子よ、お前、イングペインの荒野に水を引きたいんだろう?)」
「流石だね。もうお見通しか」
「はーはっはっは!(俺を誰だと思ってる! やがて建築王と呼ばれる男だぞ!)」
「そうだったっけ?」
確か原作では破壊王と呼ばれるはずなんだけど。
「はーはっはっは!(水路のことは任せろ! どでかい人工の河川をイングペインのど真ん中に刻み込んでやる! だが忠告はしておくぞ!)」
マイン王子は俺の耳元で囁いた。
「金と労働力は何とかしてもらわんと困る」
俺はすぐ答えた。
「そこは任しておいて」
「そうか」
「ああ」
見つめ合い、頷きあい、やがて、
「はーはっはっは!」
「ははははは!」
こうなる。
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