【※期間限定公開】2-5 


 結局、二日目の朝も一人で目覚めた。それでも昨日とは気分が天と地ほどにちがう。

 わたった青空を見つめて、テネアリアは満面の笑みをかべる。


「セネットはもう来ている?」

「朝食の頃に交代するとランデン殿がおっしゃっていましたが」

「そう。なら、陛下と一緒に朝食をとりたいからどこで召し上がるか聞いてくるように伝えてくれる?」

「まだりてないんですか。明らかにいやがられてるじゃないですか」


 ツゥイがおびえたように告げるので、きょとんと見つめる。


「嫌がられてないわよ、ただ困られていただけなの」

「妃殿下がソファの隣に座っただけで、今にも人を殺しそうな顔をしてましたよ。どこが嫌がられてないんですか」

「じゃあ陛下に直接聞いてみましょうか」

「やめてくださいっ、殺される!」


 ひいっとこわだかに叫んだ侍女に誤解されるのも無理はないと思うが、これはこれで困ったものだと内心で息をつく。

 身近にいる者で皇帝の心情を理解しているのはサイネイトだけなのだろう。さすがに長い間一緒にいるだけのことはある。だが、こんなに誤解されてばかりなのはやはり問題だ。


「そんな理由で殺していたら城で働く人が居なくなってしまうわよ」

「だから、この城の使用人がきょくたんに少ないんですよ。全然手が足りてないじゃないですか」

「この城の働き手が少ないのは、ツゥイのように誤解している人が多いからよ。不人気な職場なのよ、この城は」

「妃殿下、そのお話はいつ知ったのですか」


 目の前の侍女の声のトーンが変わって、テネアリアは失言したことに気が付いた。

 内心ぎくりとしたが、極力表情に出さないように努める。


「ここに到着してすぐ・・・・・・?」

つかれていたから横になりたいと仰っていたのはまさか・・・・・・!」

「ちゃんと休んだわよ。でも、ほら、知らない場所だからやっぱり気になるでしょう、ね?」

「そういえば、昨日はここで珍しく突風が吹いて、じょうへきの一部が壊れたという話を小耳にはさんだのですが」

「え、そうなの。それは知らないわ」


 本気で知らなかったのでそう言えば、ツゥイはほこったように笑う。


「かなりの勢いで城をおそったそうですよ。ところで、妃殿下は昨晩は陛下と晩餐をご一緒されると聞いておりましたが、なぜか執務室へ行かれたとか」

「仕事好きな旦那様に夕食を運んであげたのよ」

「つまり約束をすっぽかされたから押しかけた、と。姫様っ、やっぱりお力を?」


 テネアリアはぶんぶんと首を横に振った。


「してない、してない。本当にこれっぽっちも怒らなかったわ」


 いや、食堂で待ちぼうけをくらった時にはだいぶ腹を立てたが、それもいっしゅんだったはずだ。

 あれだけで、城壁を壊すほどのりょくはない・・・・・・と思いたい。


「そうですか。まあ、幸い今回はにんはいないようなので自然現象だとしても構いませんが、自国の島国と違って人が密集しているのですからお気をつけください。」


「わ、わかっているわ」


 ツゥイは昔からテネアリアに人を傷つけないようにと言い聞かせてくる。少しでも人を傷つければ憎悪ぞうおつのる。それが積み重なって主人が傷つけられることを心配しているのだ。


「それに一晩お力を使われたら次の日は一日休むようにとお願いしておりますよね。到着してすぐお力を使われたのなら、せめて本日は寝台しんだいの上でお過ごしください。おんにはマッサージをいたしましょう」


「ええ? こんなに元気だし、陛下と一緒に朝ごはんを食べたいわ」


「なりません。はい、今すぐ寝台に戻ってください。朝食は隣に運んでおきますが、無理せずに食べられる分だけで結構ですから。起きたらお召し上がりくださいね」


 だんは主の言に振り回されているツゥイだが、テネアリアの体調管理にだけは物凄くうるさい。そして決してゆずらないのだ。

 テネアリアはあきらめて寝台へと戻るのだった。

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