1ー7
「ここは少し空気が悪いわね。そうは思わない?」
「姫様、
「妃殿下よ。わかっているわ。では着替えましょう」
ぽつりと言っただけで血相を変える侍女に
お
着替えて寝室を出ると、ツゥイはソファへテネアリアを座らせて、
「お待たせいたしました、中へどうぞ」
「失礼いたします」
背の高い男が
「セネット様?」
彼は自国まで迎えにきてくれた騎士団の指揮を
「昨日ぶりですね、姫様。ああ、失礼いたしました、妃殿下。この度、正式に妃殿下の護衛に任じられましたセネット・ガアです。よろしくお願いします。今後は
二人の男が敬礼したのをぽかんと見つめる。
セネットは帝国が
「セネットは本来、地位も実力もとても高い方だとお聞きしているのですが」
「妃殿下を
「……何か、裏がある気がしますね」
テネアリアが
「ええと、妃殿下。それは私では護衛としてお気に召さないということでしょうか」
「十分すぎると言っているのです。陛下のご意向ですか?」
「いえ、陛下ではありませんが……」
やっぱりとつぶやいて、テネアリアはため息をついた。
妃に興味のないユディングはそもそも護衛をつけるという発想すらないだろう。実際、自国まで迎えに来たのも皇帝補佐官のサイネイトの
「妃殿下に護衛が必要なのはご理解いただけますでしょう。小国から帝国に嫁いでこられただけで
陛下――ユディングの一存ということになっているのか、とテネアリアは
「騒いだところで
「残念ながらそれを理解できる者が少ないのが現状です。ですので妃殿下がよほど気に入らないということでなければ、しばらくはお付き合いいただきたいのです」
確かにユディングの周辺は血なまぐさい。さすがに城の中までは大規模な
いずれにせよ護衛が必要なことは理解している。
困ったように告げてくるセネットに、だがテネアリアはにんまりと
「では受け入れる代わりにお願いを聞いてちょうだい。朝食の後にでも、
だってゆっくり話す必要があるんだもの、とテネアリアは
待っていると、現れたのはサイネイトだ。
「おはようございます、妃殿下。私にお話があるとか?」
にこやかに微笑まれて、テネアリアはふっと息を吐き出した。
「主の元に案内してとお願いして貴方が出てくるのだから、私は陛下にあまり興味を持ってもらえなかったということかしら」
小首を傾げて見せれば、サイネイトは少し目を見開いた。
十五歳の小娘にしては油断ならぬと見直してもらえただろうか。
ユディングに近づくためには、何よりもこの補佐官を
「妃殿下は病弱の引きこもり――と
「あら、そのご期待には応えさせていただきますわよ?」
可憐でも
「いえいえ、これはこれで構いませんよ。ではとっとと事情をお話しした方が
「は、はあ。さようでございますか」
いっそ悪口ともいえる言葉の
だが、彼がわりと
嫁いできてすぐの妃相手に、気を許したわけではあるまい。
「そんな陛下ですが、あんなに表情の動いたところをこの度初めて見ました。ですから、もっと関心を引いていただこうと思いまして、こちらの者に護衛を任じたのです。まあ実際に妃殿下が狙われているのも事実ですがね。セネットは師団長の中でも
「ええと、未婚である部分は重要ではないのでは? あまり夫に誤解されたくはありませんが。それで? 陛下の配慮で昨日一日休ませていただいただけではありませんの?」
「そうなんですよ、聞いてくれます!?」
苦々しげに吐き捨てたサイネイトに思わず問いかければ、突然キラキラした瞳を向けられた。よほど
「長旅で疲れている、病弱だから休ませてやりたい、なんてそれらしい
「
テネアリアが満面の笑みを向ければ、補佐官は破顔した。
「おや、いいですね。私、妃殿下のその思い切りのいい性格が大好きですよ」
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