プロローグ②
*****
二人の温度差のある出会いから、時は
「求婚、だと……?」
聞き
淡い期待を込めて、目の前で
「必要な――」
「必要ないって言葉は聞かないからね」
否定の言葉を遮られて、ユディングはむっつりと
二つ年上のサイネイトは皇帝の補佐官という
ユディングはとにかく人相が恐ろしい。そのうえ、黒い髪も赤い瞳も大陸では馴染みがない。さらには、見る者を射殺しそうな鋭い眼光、常に他者を
これが幼馴染み以外の家臣なら
ユディングが大陸でも
戦利品として前皇帝の父に
残念ながら息子に
見慣れない不気味な配色のうえに黙るとさらに
サイネイトは
「それに、もう
「それは求婚しろとは言わない」
求婚しろではなく、求婚したの間違いだ。
けれどユディングが
勝手に求婚したのは問題だが、すでに返事が来ているのなら話は簡単だ。こんな男の元に
それこそユディングが皇帝になってすぐの
戦場での
それでも皇帝であるユディングが命じれば誰とでも婚姻は成立しただろうが、全く興味がなかったので現在、妻どころか
「先の戦が落ち着いてようやく一年。帝国内外の目ぼしい相手とは一通り決着がついただろう。そのうえあっちこっち相次ぐ天災に見舞われて当面の間はうちとやり合っている場合でもない。ここらで身辺を見つめなおして、お前の幸福を追求してもいいと思うんだ」
目ぼしい相手とは確かに一通りやり合った。けれど、だからと言っていつまでも大人しくしている
祖父の代から続く
「
むしろ三か月よりも短いかもしれない。
そんな夫など相手にとっては
「無駄じゃないって。お前、今年で二十六だぞ。三か月後には戦地で死んでるかもしれないからこそ、女の子との楽しい思い出の一つもないつまらない人生を走馬灯で
「おい、人を勝手に殺すな」
その幸せな家族と、
「まあお前がそう簡単に死なないことはわかってるけど。次の戦が始まるまでの三か月だけでも、
それはサイネイトだからだ。
美男子で
今でこそ愛妻家で通っているが、かつてはかなり遊んでいたことも知っている。あの遊び人が結婚すると聞いた時には正直長続きしないだろうと思ったくらいだ。まさか
ただ
そんな愛妻家の理想を押し付けられても、自分が
「俺には全くそぐわない……待て、なぜ嫁がいることが前提なんだ。求婚は断られたんだろう?」
三か月可愛い妻と過ごせ、と決定付けられた話に、
真っ赤な瞳をひたりと補佐官に向ければ、彼はにんまりと笑う。
戦場ですら、ここまで
「大陸の東の果ての緑に囲まれた島国に、高い
「……何の話だ?」
「高い塔に閉じ込められているなんて
「だから、何の話だ!」
サイネイトは後ろに隠し持っていた書状をぴらりとユディングの鼻先に
「お前の結婚相手。東の島国の囚われの姫君テネアリア・ツッテン様の話に決まってるだろ。悪鬼に花も
「……どういうことだ」
突き付けられた書状を摑んで、ユディングはプルプルと震えたが、幼馴染みは構わずに続ける。
「帝国とは
自信満々のサイネイトは
「高い塔に囚われている病弱なワケありお姫様を助けて、英雄気取って惚れられてみない?」
「俺は島国に行ってもいないし誰も助けてもいないのに、絶対おかしいだろうっ!?」
だが書状には、彼女の名前と結婚を
*****
『高い高い塔のてっぺんに、囚われた姫がおりました。彼女は生まれた時から塔に閉じ込められ独りぼっち。そのうえ病弱でしたから、とても危険な塔を下りて外の世界には行けません。窓から外を眺めては世界に
そんな、ある日。
塔の試練に
そして美しい姫に愛を
世界を知った彼女は決して塔へと
そうして二人は外の世界で幸せに暮らしました。
――めでたしめでたし』
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