第一章 物語はご要望に応えて
1-1
白を基調とした優美な箱馬車はからりからりと車輪を回して、皇城へと向かう道をひた走っていた。
大陸の西半分を
箱馬車の周囲は
皇都の
ただ息を
それを窓に取り付けられた
純白の
「
馬車の
テネアリアが幼い時から世話をしてくれている侍女だ。茶色の髪にブルネットの瞳を持つ
「ツゥイ、だから無理をせずに国に残ればよかったのに。城に着いたら、お前だけでも帰してもらえるように
「何言ってるんですか、帰るなら二人
「求婚されたからに決まっているでしょう。大国の皇帝に求婚されて、小国の姫が断るなんてできるわけがないじゃない。泣き暮れていないだけありがたがりなさい」
「相手は求婚の書状を送りつけてきただけですよ、我が国の『慣習』を思えば断ることなんて
皇都の周辺は
だが霧の都と
霧の中に
「なによ、ツゥイったらそんなに観光したかったの。それなら休みをあげるから、明日の朝を楽しみにしていなさいな。さすがに早朝なら霧深いのではなくて?」
「
ツゥイは図太い神経をしているが、血は苦手なのだ。
この婚姻が決まった時から、ずっと
「さすがに帝国の騎士に囲まれているのに、そんな言葉を大声でつらつら述べる
「格好いい……? 豊かな
「あくまでも噂でしょ。ツゥイも実際に見てから言いなさいな」
「その確信した顔は、噂をご存知なんですね。すべてを知っていて、それでも格好いいと
「お前は一体主人をなんだと思っているの。安心してちょうだいな。高い塔に
「何を言ってるのかよくわかりませんが、姫様がその古式ゆかしき
高い塔に囚われた姫は英雄に助け出されて恋をする――自国のおとぎ話である英雄譚を持ち出した主人を
「だって、ただ待っているだけでは絶対に助けてくれなさそうだったし……」
「なんです?」
ぽそりとつぶやいたテネアリアの声は
「私も
「お年頃、ですか……部屋から一歩も出てこず
「お前たちが望むから寝台で大人しくしていただけでしょう。それに色恋に興味があるのは喜ばしいことじゃない。とにかく、ツゥイ! 私には野望があるのよ」
じっとりとした視線を
先方の期待にはしっかり応えるつもりだ。そのために、ずっと計画してきたのだから。
『お前は
ふと思い起こされた声に、テネアリアは知らずスカートの上に置かれた両手の
この世に自分を生み落とした母である者の言葉だ。
帝国に嫁ぐと決まった時に、そう声をかけられたのだが、だからこそ
自分は決して間違えない。失敗もしない。
「やはり帝国の乗っ取りですか?
「その噂に名高い
「むり、むりむりむり、絶対に無理ですって!!」
そんな侍女の悲痛な声を、馬車の車輪が回る軽快な音がかき消したのだった。
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