第一章 捨てる婚約者あれば、拾う婚約者あり
1-1
落ち着いたところで、リリアンは両親に本日の出来事を報告した。うじうじしていても、どうにもならない。
ファミリールームは暖色の明かりに包まれ、ほっこりした
「……そ、そ、そ、それ……ほんとうなのかな?」
「本当ですわ、お父様。ですから、申し訳ありませんが
不安げに、父であるロナルドを見る。
いつも
リリアンは
「……リリアン、
降ってきたのは、ロナルドの優しい声だけだ。
「
とはいえ、
「リリアン、その……アラン
「
ピキピキと、何かにヒビが入った音がする。
イーディスのカップだ。いつもの
大らかなロナルドとしっかり者のイーディスは、リリアンの理想であり、
「スコットというのは、
「ええ、あんまりなことをされたので、忘れられそうにありません」
ロナルドが難しい顔をする。ただの男爵ではないのだろうか。
「スコット男爵は、五年ほど前から商売がうまくいってとても
「フォスル商会を知っているでしょう、リリアン? 輸入品を
イーディスが付け足して教えてくれる。その店はリリアンも知っている有名店だ。確かに出来たのはここ数年で、あっという間に支店が何
「……アラン卿は我が家などより、お金の方を良しとしたのだろう。そんな男、こちらこそ願い下げだ」
「お父様のおっしゃる通りよ。本当に、
つまりアランは同格の
しかも身につけるドレスも
それはつまり、リリアンのことは好みでもなく、本気でもなかったということだ。よりよい
(……わたしだけが
改めて、ふたりの気持ちの温度差を
「でも、商会の方は大丈夫なのかしら?」
意味深に、イーディスが目を細める。それにロナルドもならう。
「ああ……精石を扱うにしては、少々
「でしょう? 考え方の
「お母様、それはどういうことですか?」
「フォスル商会は、
「そうですね、大聖堂で誓い合うものですね」
そう、この国には神様の代わりに精霊王がいる。そして、人々の暮らしには精霊が関わってくる。精霊の力はこの国のいろいろなものに活用されていて、精石というのは精霊の力が
その中でも、宝石のように
「だから、精霊術が関わる家は本来不誠実なことをしないものなのよ」
メイドがカップを
「スコット
「男爵自身も、大陸からの新しい価値観とやらをよく口にしてるよ。僕は新しいものを否定するつもりはないが、古くから言われていることを、全て否定するのもどうかと思うがね」
それから、ロナルドがリリアンに向けて優しく笑った。
「リリアン、君は僕らの
「……はい!」
転生して良かったと思うことは
リリアンの前世の家庭は温かいものではなかった。
利己的な父親が
それはけして、幸せとはいえない家族の姿。
(……だから、わたしは今のお父様とお母様が大好きだよ。すごく大好きなんだ)
ここにはリリアンを気づかってくれる家族がいる。ここには、自分を
ならば、
(今度こそ、見誤らずにちゃんとした相手を見つけなきゃ!)
リリアンは心に誓う。
(次は、わたしとちゃんと
愛し合わなくても、手を
そうして、今の両親に喜んでもらうのだ。
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