第51話 OLさんと「あの人」#36
特にすることはないけど、来る週末をゆっくり過ごしながら自分のための時間をたっぷりと、そして充実に過ごそうとした。ドラマを見たり、本を読んだり、ネットで恋愛に関する書き込みを見たりしながら、少しでも気持ちを落ち着かせようとした。そしてまた新しい週がはじまった。月曜日にもなったし気持ち取り直して心機一転してみると決めた。心配する必要はない。と思いながら自分をコントロールしてみる。今日はご飯は食べないでミネラルウォータだけ買ってベンチに座って「あの人」のことを待っている。今日は来るだろうかな。今日来ないならいつ来るだろ。月日が経って日付は3月から4月に変わった。もう4月になったし、さすがに4月にもなれば新卒予定の制服姿の大学生たちの姿が増えた気がする。私も彼らみたいに一心不乱に走り回りながら就活していた。そう頑張って掴んだ機会を実現した過去の私は、どこへ行ってしまったんだろ。今の私は過去の私に堂々と自分のことを自慢できるかな。そう考えてもみた。
3年という月日は短いかも知れない。でもこの3年間私は昔の私みたいではない気がしてならなかった。歳を取れば取るほど自分に自信を失ってばかりいくような気がした。何故かわからないけど、そう思わずにはいられない。理由はおそらく、過去のツラい経験と報われない頑張りだと推測している。私が学生時代、先生や回りの大人たちによく言われたことがあった。「努力は報われる」。世の中の10代なら誰しも一度は聞いたことのある言葉だ。その言葉を信じて今まで頑張って受験して大学に入って就職して仕事してきた。その間色々あったけれど、結果的に良かったの思うことはあまりなかった気がした。ツラい経験ばかりしてきた。その経験で負った傷もまだ完全に治っていない。その傷を治すために今も頑張っている。けれど思うがままにできそうじゃないと思いはじめた。そう思わないようにしているけど「あの人」の姿が見えないから不安だ。だからかまた余計なことを考えて心配し出している。良くないのは分かっている。でも、頑張っている大学生たちの姿を見ていたら懐かしい思いとともに過ぎていた時間を惜しく思ってしまいそうだ。そう考えずには居られない。いけない。このままだとせっかく決めた心が乱れそうだ。なので今日はもうこれ以上無理しないようにしたい。
そう思って座っていたベンチから腰を上げて他の場所へ移ることにした。あの時みたいに一人で居られる場所を探しに足を運んだ。それで今日の気分に合う自分だけの穴場を見つけて歩きまわった。それで見つけた場所にあるベンチに腰をかけてみた。目を閉じて暖かい春風と新鮮な空気を体で感じてみた。そうしたら落ち着きを取り戻せる気分になった。ドキドキもじょじょに無くなり元の自分に戻ったかのような気分だ。そう。これが私だ。これが私が求めていたことだ。なんにも心配したいで気楽に毎日を過ごせば十分だったはずを、違うことをしようとしたからこうなってしまったのだ。しかしこれはこれなりにいつかしなかればならないことで、克服しなければならない試練かも知れないと思った。今、機会が訪れたとき、しておくべきだ。今しておかないと一生変えない気がするからだ。もし本当にそうなってしまったら過去に自分に堂々と今の自分、未来の自分を自慢できないかも知れない。今の自分がこのままずっと未来に続くのを考えるだけで嫌気が差しそう。だからぜったい今の自分を変えてみたい。まだ若いと思ってるし、これからたくさんの新しい機会に見舞うはずだ。その機会をちゃんと掴みたければ、今この時に少し努力するのはそんなに難しくないことだ。もっと明るい未来を向えるための投資だ。そう。だからもう後戻りはできない。だから今の気持ちを信じて自分を信じて行こう。
それで今日、明日そして今週も頑張ってみようと思った。それでそろそろ午後の始業時刻になるのを確認して部署に戻ることにした。それでまた日が変わった。しかし、新しい今日も「あの人」は現れなかった。でも、別に気にしない。今日も今日なりに頑張ればイイ。それで今日一日もなんとなく過ごしてまた明日が来た。そのまた新しい今日も特別なことは起らずに終った。それでまた次の日が訪れた。
そしてまた新しい一週間がはじまったとき、真奈津はいよいよ痺れを切らしそうになった。それでそう思いはじめた朝の出勤時間に、普段乗って会社に行くバスの中で何かが起ろうとする。それに見当もつかないで、つゆ知らず普段の好みのバスの座席に座ってぼうっとしながらバスの揺れに身を任せる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます