第49話 OLさんと「あの人」#34
「で、またついでなんだけど、せっかく長電話してるから聞いちゃおうかな」
「なにを」
「てか、なっちゃんってさ、いつ遊びに来るの」
「あ、それのこと」
「そ。前からずっと遊びに行くって言ってたじゃん。いつ来るわけ」
「そうだね。今年は仕事も落ち着いた感じだし、夏休みならなんとなく行けるかも」
「ホント。でももう少し早くはダメ?」
「うん。。どうかな」
「早く会いたい。早く会って今までのことたくさんしゃべりたぁい」
「私も早く会いたいね」
「ちなみに新しい彼氏とかできたらもっと良いかも」
「ミカちゃんが?」
「なっちゃんのことだよ。いつできるの。早くすてきな彼氏付き合ってほしい」
「出来れば早くそうしたい」
「本当にいないの」
「ないって」
「ホントー?」
「ないってば」
「ならいいけど。とにかく気に入った人いたらとことんやっちゃえ」
「いい人見つけたらね」
「いい人みつけたらとことんアプローチしてよ。なっちゃん可愛いのにもったいない」
「ありがと。ミカちゃんも可愛い」
「あら、私かわいいの。やだ。なっちゃんってば」
「幸になってほしい」
「うん。私も幸になりたい。ぜったいになってみせる。お互いにそうなろ」
「うん。ぜったいに」
とミカちゃんと幸と願いのことばを言ってみたのは久しぶりな気がしてた。ミカちゃんの幸を願いながら自分の幸をねがってもみた。けれど、今の私の状況じゃ手に届くことのない贅沢な夢な気がした。だからこそわざわざ親友のミカちゃんに自分の幸も願ってもらいたくてミカちゃんの幸を願ってみたのだ。それを知っているかのように、ミカちゃんは私の幸も願ってくれた。それに勇気づけられてなんとなく今日の落ち込んでいた気分が少し晴れた感じだ。それで胸の重い荷がなくなる気もした。
「ヤバい。もうこんな時間だ」
「今なんじ」
「もう8時過ぎたよ」
「ヤバい。うちらこんな話したの」
「そうね。足疲れるわ」
「大丈夫」
「平気。久しぶりにしゃべれて楽しかったし。ぜんぜん平気よ」
「良かった」
「それでもし、男口説き方知りたければ言ってね。ちゃんと教えてあげるから」
「いいよ。自分でやる」
「本当。なっちゃんにできるかな。あんまそういうことするの見たことないし」
「わたしだってやるときはやるよおー」
「ならいいけど。とにかく早くいい人見つけてね」
「うん」
「お互いに幸になろ。頑張ろ。いい人こいーー」
「まだ歩道橋の上でしょ。声大きすぎ」
「べつにいいじゃん。願い事してるから」
「そうなの」
「なんちゃって」
「もう。ミカちゃんってば」
「へへ、よいっしょ。そろそろ帰ろか」
「ショッピング行かないの」
「今日は大丈夫。なっちゃんお陰ですっきりした」
「そうなの。良かった」
「ありがとなっちゃん」
「わたしも」
「私なにかしたー?」
「ううん、ただ言ってみただけなの」
「ならいいけど。ショッピングは明日行こうかな」
「行っちゃって」
「明日になったら考えてみる。とにかくもう遅いし帰ろ」
「うん。じゃ」
「また話そうね。ぜったい休暇取って」
「うん。わかった」
「じゃあねー」
「じゃあね」
そう言って電話を切った後、座っていたベンチから腰をあげて家の方へ体を向けて歩きだした。家路につくまでの10分ほどの間、ミカちゃんに言われたことを反芻してみた。久しぶりにしゃべれて楽しかったし色々勇気づけられた気もした。親友という存在はこういう時に頼りになる。勇気づけたり勇気づけられたり、励ましたり励まされたりしながら言葉では通じないものも分かっているような気がして楽な時もあるのだ。その親友になにかどヒントをもらったような気もした。
ミカちゃんみたいに一生懸命に生きる人は今まで見ていない。私が知っている人の中ではお母さんやお父さん以外に、友だちや仕事の人々の中でも唯一の人かもしれない。その親友の言葉でもう一度頑張ってみる気持ちになるのは不思議だ。これも多分ミカちゃんの持っている能力かも知れない。友だちだからこそ分かることで他人(ひと)には掴み所のないように見える。でも遠く離れていても心が通じ合う存在がこの世の中に生きていてフォローしてくれることを知っているだけで心が落ち着くのだ。それを望んで思いきってミカちゃんに電話をかけてみたが、狙い以上のものを得た気がしてお得した気分になった。そのために、今日は楽しく一日を終らせそうだ。久しぶりに味わう純粋な楽しさだ。久しぶりに味わう楽しい気持ちのまま家へ帰ろう。
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